日本の宗教と政治
投稿日 : 2022年09月29日
このところ日本では、宗教、特に旧統一教会(世界平和統一家庭連合)を含む、いわゆる新興宗教と政治の関係が、論壇で取り沙汰されている。きっかけは、安倍晋三元首相の銃撃犯が、彼の家族を破滅させた主因と考えた旧統一教会を、安倍氏が支援していたという理由で犯行に及んだ経緯にある。
この問題に関する世論の関心の高まりを受けて、自民党は党所属国会議員と旧統一教会や関連団体との関係について点検し、9月8日に結果を公表した。それによると、衆参両院議長を除く379名のうち何らかの接点があった議員は179名、なかでも選挙で支援を受けるなど一定以上の関係を認めた議員は、121名にのぼった。岸田首相は、「党の方針として旧統一教会との関係を断つ」と明言するとともに、国民の不信を招いたとして陳謝し、さらに調査結果についても重く受けとめるとした。
日本における宗教と政治との関係について、宗教の問題に詳しい識者の見解や論考を、(1)戦後日本の宗教と政治との関係、(2)旧統一教会の問題点に関する二つの論点から以下に簡潔に考察・紹介する。
(1)戦後日本の宗教と政治との関係
第二次世界大戦後、日本を占領したGHQ(連合国軍総司令部)は、日本の軍国主義が、天皇に対する神としての崇拝と国家神道に深くかかわっていたとの認識から、政治と宗教との分離を図る様々な措置をとった。
日本国憲法では、「信教の自由」と「政教分離」が明示的に規定された(憲法第20条、第89条)。これによって、国民は信教の自由を保障され、国は特定の宗教団体を支援する活動をしてはならないことになった。他方、宗教団体の側が政治的な活動や選挙にかかわることまで禁止されたわけではない。
戦後成長を遂げた新興宗教の多くは、自前の政治団体を作り、選挙に候補者を立てるか、あるいは既存政党の候補者を支援する形で、政治との関与を深めてきた。多くの教団は、与党右派の主張や考え方に意図的に迎合するかたちで保守政治家への接近を図っているとみられる。
政治と宗教がなぜ癒着するのかについては、選挙への協力と宗教団体への加護といった両者の利害関係の一致が指摘されている。
政治家を取材した評論家の宮崎哲弥氏は、「数としてはそれほどではなくても、宗教団体からの票の支援は非常に固く確実であるため、『とても安心感がある』と(政治家は)口を揃えていいますね」と述べる。このように宗教団体が選挙の集票面で機能する一方で、宗教団体は、組織を潰されないよう守るために政治家に接近してきたとして小川寛大『宗教問題』編集長は、「統一教会が自民党右派にすり寄っていたのは、一種の『保険』としてシンパを増やしたかったからではないか」との見方を示している(いずれも、『文藝春秋』10月号、「統一教会と創価学会」)。
特定の宗教団体と政党の結びつきについて、宗教学者である島薗進東京大学名誉教授は、「国民を置き去りにし、公共の利益を無視した関係だと言われても仕方がない」とし、「選挙に協力してもらえるからというだけで、自民党の政治家がそのような教団と関係を持っていたのは、日本の政治史上の汚点だ」と指摘する(『日本経済新聞』電子版 2022年9月15日、「旧統一教会問題招いた無関心 政治と宗教、共通善めざせ」)。
また岡本亮輔北海道大学准教授は、「多くの日本人が一定程度は宗教との関わりをもっているにもかかわらず、それに無自覚であるという実態と意識の乖離は、日本社会の宗教に対する脆弱性の一因になっている」と分析、「政治家においては、(略)公人としての宗教とのつき合い方を再考すべき」と主張する(『Voice』10月号、「日本社会を支配する『見えない宗教』」)。
(2)旧統一教会の問題点
戦後日本における新興宗教の多くは、目指す理想社会の実現のため、広く社会に働きかけ、さまざまな社会活動や政治活動に参加している。
その意味で「宗教団体と政治が関わりを持つこと自体は否定されるものではない」と前述の島薗氏は述べ、「ただ、政教分離が基本的な考え方となった現代の民主主義社会では、特定の宗教が掲げる良き人間や共同生活のあり方が、他者を排除してそのまま政治に持ち込まれることは避けなくてはならない」と説く。
しかし、そのような宗教団体と政治との関わり方に照らして、戦後、韓国で文鮮明が創始したキリスト教系新宗教である旧統一教会は、他の宗教団体とは異なる独特な性格を有している。特に、その霊感商法や強要的献金については、多くの訴訟が提起され、その責任を認めた民事訴訟判決が多数あるなど、これまでも長く社会問題化してきたと指摘されている。
旧統一教会の活動の特異性について論じる塚田穂高上越教育大学准教授は、統一教会が政治家に接近したのは、「組織を守ってもらうためという動機があった。(略)霊感商法や社会問題を重ねていく過程においてである」と指摘し、「宗教的『理念』に基づいた政治活動であることは確かである一方で、その運動の置かれた『利害状況』に機会主義的に対応している性格が顕著である」と分析する(『中央公論』10月号、「『異端』としての統一教会とその政治活動」)。
旧統一教会の被害者を訴訟で支援してきた弁護士の郷路征記氏は、旧統一教会の伝道・教化活動は「(伝道される側である)国民の信教の自由を侵害するもので違法である」と主張し、その根拠となる事実として、「伝道活動であることを隠して勧誘し(略)統一教会の宗教教義である統一原理を、事実である、真理であるとして教え込む」こと、「教義には存在しない概念を用いて、信仰を植えつけたり、巨額の献金をさせたりすること」などを挙げながら、「統一教会による正体を隠した伝道活動」が安倍元首相銃撃犯の家族を崩壊させたと論じている。「(『世界』10月号、「宗教カルトの何が違法なのか」)。
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