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世界ソフトパワーランキング2019  概要と分析

投稿日 : 2020年03月31日


 


 英国のコンサルティング株式会社ポートランド・コミュニケーションズは、各国のソフトパワーを評価する「ソフトパワー30」(The Soft Power 30  A Global Ranking of Soft Power )を2015年から毎年発表し、25カ国を対象に、6つの分野(文化、教育、外交、デジタル、企業、政府活動)の評価指数と世論調査をもとに、各国の国際的影響力を順位付けしている。

 




 

 


 

 

【画像:Portland社「The Soft Power 30」】


 

 

【概要】


  2019年ランキングのトップ5は、1位フランス(前年度2位)、2位イギリス(前年度1位)、3位ドイツ(前年度3位)、4位スウェーデン(前年度8位)、5位アメリカ(前年度4位)。8位の日本(前年度5位)は、アジアで唯一トップ10にランクインしているが、順位は過去最低となった。


 フランスは、「黄色いベスト運動」が広がるも、外交・国際貢献で主導力をみせたマクロン大統領の努力により1位を獲得。ルーブル美術館(芸術)、カンヌ映画祭(映画)、世界文化遺産登録のフランス料理、ツールドフランス(スポーツ)に代表される「文化」も強みだ。


 イギリスはEU離脱問題がありながらも2位を堅持。フランス同様、劇場や美術館(芸術)、エド・シーラン(音楽)やハリーポッター(映画)など「文化」、多数の有名大学を有する「教育」、更に新しい企業が海外に進出している「デジタル」に高評価。


 ドイツは、「外交」及び「政府活動」の進展で3位の座を守った。メルケル首相の影響力は絶大であり、国に対する国民の信頼も高い。更に、欧州や世界を牽引する自動車産業などの「企業」も強みだ。


 スウェーデンは4位へと大躍進、北欧諸国から初めてトップ5に。男女平等に重きを置き、環境問題にも積極的で「政府活動」で高評価。世界的課題への素早い対応で世界をリードする。H&MやIKEA、Spotify、Skypeなども世界的に知られ、「企業」も強み。


 アメリカは年々降格し5位に。政府への信用が低く、関税や環境問題などへの貢献もなかったことが要因か。ディズニーが代表する「文化」、有名大学数や留学生数が世界最多の「教育」、GoogleやAmazon、Uber、Netflixなど有名企業の多い「デジタル」では首位を維持。


 日本は前回トップ5入りを果たすも今回は8位。日韓関係の混迷や国際的な批判を受けつつの商業捕鯨再開などが要因か。「デジタル」、「企業」、「文化」の順位は上昇。ラグビーワールドカップ2019や2020東京オリンピック・パラリンピックが世界発信の好機だ。


 過去5年のデータから昨今の傾向として、①「リーダーシップ効果」が大きく反映、②欧州圏への高評価は不変、③アメリカが後退、④Brexitの影響に負けないイギリス、⑤アジア圏の躍進、が挙げられる。また、今後のランキング動向には、Brexit(後の欧州)、米中貿易摩擦、2020年アメリカ大統領選挙などの影響がカギとなろう。

 

 

 

【分析】




デジタル 企業 教育 文化 外交 政府活動 世論調査
1位 フランス 4(2)

18 (2)

8(5) 3(3) 1(1) 15(15) 3(5)
2位 イギリス 3(3) 10(7) 2(3) 2(2) 3(2) 12(11) 10(6)
3位 ドイツ 11(4) 8(6) 3(2) 4(4) 2(3) 5(8) 9(9)
4位 スウェーデン 9(9) 2(3) 4(11) 14(13) 11(10) 4(1) 4(8)
5位 アメリカ 1(1) 5(5) 1(1) 1(1) 4(4) 21(16) 13(15)
8位 日本 7(8) 7(9) 16(10) 6(14) 5(5) 16(17) 7(3)

<表.分野別の順位(カッコ内は前年度比較)>

 

 

【1】トップ5を占める欧州勢 「強いリーダーシップ」に高い評価

 1位のフランスは、「外交」で3年連続1位を獲得している。特に2019年は、マクロン大統領による外交政策、国際問題解決への積極的な取り組みが高く評価された。フランス国内で、2018年から始まった「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト運動)」は、社会・政治情勢の不安定化を招いたが、マクロン大統領は、国民の懸念をくみ取り、経済成長と政治安定の実現に努めた。また、G7ビアリッツ・サミットでは議長として、気候変動やイラン問題でイニシアティブを発揮し、国際課題の解決へ積極的な姿勢を見せた。「世論調査」の上位が、過去5年間で最高になった要因は、マクロン大統領のリーダーシップが評価された結果と推測される。


 2位以下の国々への評価も昨年から変化が見られた。2位のイギリスは、EU 離脱問題の影響により、「世論調査」で6位から10位に順位を落としたものの、伝統的な「文化」や「教育」はイギリスの強力なソフトパワーとして高評価を獲得し続けている。3位のドイツは、過去5年間、2位から4位の間で総合評価は安定している。「外交」と「政府活動」への高評価は、ヨーロッパで絶大な影響力を発揮するメルケル首相への国内外からの支持によるもの。2021年に同首相が退任することから、今後、ドイツは新リーダーの下、国内のみならず、対外的にもリーダーシップを発揮することが期待される。4位のスウェーデンは、北欧諸国から初めてトップ5入りした。同国は、環境問題や男女平等への取り組みなど、その統治モデルで、世界から高評価を得ている。特に、若き環境活動家のグレタ・トウンベリ氏による運動の世界的な広がりは注目を集め、人々の環境問題への意識を高めたとして、高評価を得た。


 5位のアメリカは、「デジタル」「教育」「文化」で毎年1位を獲得しているが、「政府活動」と「世論調査」の結果が、総合評価に大きく響いている。その要因は、トランプ大統領が就任当初から掲げる米国第一主義と、多国間主義の否定によるものだ。また、環境問題解決への消極的な姿勢も、世論の批判を高めている。アメリカとの覇権争いに凌ぎを削る中国は一歩も引く気配がなく、今後アメリカの政策が変わらない限り、国際的影響力は更に後退する可能性がある。

 

 

【2】日本、「男女平等」「国際問題」への取り組みが課題

 日本は、初めて議長国を務めたG20サミットで、世界の貿易摩擦を巡る問題において、イニシアティブを発揮したことが評価され、「外交」は引き続き一定の評価を得られた。また、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックの国際競技大会を通じて、スポーツ分野で日本の存在感を示したことで、「文化」の順位は過去最高となった。他方、「世論調査」は、3位から7位に大きく順位を下げた。女性が仕事でハイヒールを履くことを義務付けられることに異議を唱えた「#KuToo運動」、日韓関係の悪化や商業捕鯨再開への批判などが、「政府活動」「世論調査」の低評価に大きく影響を与えた。今後、日本は、男女格差の是正や国際問題への取り組みが、国際的影響力拡大のキーワードとなる。

 

 

【3】世界の課題解決に向けた取り組みへと変化するソフトパワー評価

 世界に誇る文化資源を活用し、毎年トップ10を独占している欧州は、2019年も、4カ国がトップ5にランクインした。今年は特に、国際社会における「リーダーシップ性」への評価が順位に影響を与え、マクロン大統領の高い指導力で世論の高評価を得たフランスが総合1位を獲得した。世界をリードしてきた米国の「アメリカ・ファースト」の政治姿勢により、世界を保護主義へと向かわせる脅威が国際社会で拡がる中、今後は、文化、芸術、スポーツ等の分野に限らず、世界的な課題解決への取り組みや実行力が、各国の影響力を決める重要な要素となるだろう。また、2019年は、日本以外のアジアで、韓国が過去最高の19位を獲得し、中国やシンガポールで順位の維持、上昇が見られた。シンガポール(21位)、中国(27位)は、総合順位こそ低いものの、「デジタル」「企業」「文化」では、日本と大差はない。昨今の地政学を鑑みれば、上記3カ国が、欧州や米国を超える評価を一朝一夕に得ることは難しいが、今後、得意分野で存在力を高めることは間違いない。日本は、文化面のみならず、世界的課題の解決に向けた取り組みを通じて、国際的影響力の拡大を目指すことが望まれる。

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