さあ、東京オリンピック・パラリンピック・イヤーだ
投稿日 : 2019年12月24日
東京オリンピック・パラリンピック・イヤー2020年がもうすぐ始まろうとしている。1964年の東京大会は、そのレガシーとして、新幹線と高速道路を残したといわれる。それでは、今回は、何をレガシーとして残すのだろうか。また、オリンピックは、その巨大になりすぎた規模と財政負担、さらには地球温暖化の影響などから、大きな曲がり角に差し掛かっているともいわれる。今回の東京大会が将来のオリンピックに向けて何らかの指針を示すことができるのか、2020年1月号の雑誌では、かまびすしい議論が行われている。
■『中央公論』、〔対談〕 小池百合子(東京都知事)×アレックス・カー (東洋文化研究者)「無電柱化、首都高の地下化……無形のレガシーを活かし東京を世界標準の都市に」
小池氏は、日本に来た外国人が「珍しい眺め」として被写体にするのは、「立体駐車場」「パチンコ店」「電線・電柱」の3つといわれているが、無電柱化は、防災面、観光促進の面で重要だと強調する。日本には3,500万本の電柱があり、桜の木と同じ数と言われているが、桜と違い美しい眺めを作ってくれない、と嘆く。
カー氏は、ロンドン、パリ、シンガポール、香港は完全に無電柱で、ソウルの無電柱化率は49%、ホーチミンの17%に対し、日本は全体で1.2%、東京は7.8%に過ぎないと指摘しつつ、「フィレンツェやパリなどの例を挙げるまでもなく、世界の観光都市では、看板やアナウンスなどは最小限です。それらの都市の理念や工夫から、学べることはたくさんあるはず」と述べる。
小池氏は、「電線を地中化しても電力会社、通信会社は儲からないので、事業サイドのインセンティブは弱い。しかし、景観は向上しますので、その価値はとても大きい」と述べ、1964年の東京オリンピックのレガシーは、新幹線と首都高速道路という目に見えるものであったが、2020年大会以降は、目に見えない「インタンジブル」(無形)をキーワードにして、電線の地中化と、日本橋の首都高速の地下化をレガシーにしたいと力説する。そして、「将来世代が、ハコモノのランニングコストに苦しめられることなく、50年後も100年後も「すばらしかったね」と語り継いでくれるような大会にしたい」との抱負を述べている。
カー氏は、そうならば、看板と騒音のインタンジブル化も、是非考えないといけない。日本は敗戦から立ち直るために「派手なもの」をずっと求めてきたが、環境問題が世界の重要な課題になった今、その価値観を変えていかないといけない。ソウル、サンフランシスコ、マドリッドなどは高速道路の撤去を決断したが、市民は別に不自由はしていない、公共交通網が整っている東京は車をシャットアウトできる条件が他の都市よりもいいはず、とアドバイスしている。
■『文藝春秋』、【総力特集】ニッポンから新しい伝説が生まれる 東京1964から東京2020へ、「私はパラリンピックに命を懸ける」(小池百合子東京都知事)
小池氏は、「これまで共生社会の実現に向け、パラリンピックに命を懸けて様々な準備に取り組んでまいりましたが、改めてパラリンピックへの想いを一層強くしているところです」と述べ、パラリンピックを成功させてこそ、真の意味での成功に繋がると考えている、との決意を語る。
暑さ対策のために種々対策を講じていたにも拘らず、マラソンのコースが東京から札幌に変更になったのは残念だとしつつも、パラリンピックのマラソンは時期が少しずれることもあり、予定通り東京を走るため、朝早いスタートや遮熱性舗装などの暑さ対策はそこで生かされると強調する。加えて、課題となっている競技場、都内の駅、宿泊施設などのバリアフリー化も推進しており、都内のバリアフリー対応のホテルや旅館の客室数は2,500室以上供給される見込みである、と小池氏は力説する。
小池氏は、レガシーになるのは、目に見えない“電波の道”であり、次世代移動通信システム「5G」を早期に構築していく、そして、これはバリアフリーにも繋がり、バリアフリーのトイレがどこにあるか、車椅子に乗ったまま地下鉄の駅に降りられるのはどのゲートかなどがわかるアプリを、東京都が有しているビッグデータを活用して民間企業が開発する、という流れを作っていきたいとの抱負を語っている。
また、オリンピックは今大きな曲がり角に差し掛かっており、競技種目もその中身も時代とともに変化し続けていると指摘し、「2024年はパリ大会、28年はロサンゼルス大会と決まっているものの、今後、北半球のどこで開催しても、過酷な暑さは避けられないのではないか。近年の地球温暖化や気候変動の現状を考えていくと、今のような形で本当に持続可能なのか、本気で議論を重ねていかなくてはなりません。その意味でも、2020年東京大会には、これからのオリンピック、パラリンピックの在り方を示す重要な役割がある」と結論付けている。
■『文藝春秋』、 〔対談〕 北島康介(競泳アテネ・北京五輪金メダリスト)× 宮藤官九郎(脚本家)「オリンピックはでっかい運動会だ」
対談で北島氏は、シドニーオリンピックでメダルが取れずに日本に帰ってきた時に、メダリストか否かでの扱われ方の差に悔しさを感じたことがその後の活躍のバネになったとして、やはり金メダルは期待されて当然だし、それを狙える選手はどんどん狙いに行くべきで、注目される選手こそがきちんと結果を残せる宿命にあるという。
また北島氏は、水泳が面白いのは、泳ぎ方がずっと進化しているから、どの種目でも世界記録が毎年更新されていることで、これは陸上の100メートル走と違うところだと指摘する。水泳は個人競技ではあるが、2000年以降は「チームジャパンで勝ちにいく」というスタイルが生まれていると述べる。
北島氏にとってオリンピックは、小学校の運動会を大きくしたようなもので、「運動会の会場で感じるワクワク感とドキドキ感、お父さんやお母さんに見に来てもらって楽しませたいという気持ち」が根本にあったという。オリンピックの形は変わってきているが、一番は、アスリートファーストの原点に立ち返って、頑張っている選手にみなが注目して応援してあげることだ、みんなで楽しむことによって、東京五輪を成功に導けると力説する。今回はスター選手が少なく、全員に等しくチャンスがあり、新しいスターが生まれるオリンピックになるのか楽しみだ、と期待を語っている。
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