混迷の日韓関係
投稿日 : 2019年04月18日
■木村幹 『中央公論』4月号
元徴用工による損害賠償判決や海上自衛隊機へのレーダー照射問題など日韓関係は険悪化するばかりだが、神戸大学大学院教授の木村幹氏は『中央公論』の論文「特異な実務派・文在寅のリーダーシップ研究」で、文在寅政権による日本に対する「戦略的放置」の現状と背景を分析している。木村氏は、文大統領が朝鮮戦争によって北朝鮮から逃れてきた「越南者」出身であるという特殊な経歴の持ち主であることなどを紹介しながら、海外の人々との関係構築の経験に乏しく、信頼する狭い範囲の人脈を直下に配し、自らの実務経験を武器に政務の細かな部分に介入する、特異なリーダーシップを展開していると指摘した。
特に木村氏は、文大統領がとりわけ関心の薄い外交関係では「北朝鮮との関係に集中し、その他の部分への関心は限定」されていることから同盟国・米国については「北朝鮮に対する融和政策を実現するための変数」としか見ておらず、中国についても対北政策を支援するだけで十分と判断しているため、中韓関係は「驚くほど動いていない」とし、更に日韓関係においては「対日関係そのものに積極的な意味を見出していない」と強調した。
木村氏は、文政権が日本について米国に働きかけ、韓国の対北融和政策を「妨害しようとする要素」と見ていることに強い懸念を示す。その結果、文政権は「北朝鮮の非核化に日本の役割はない」と認識し、日韓関係で無用なリスクは負わない「戦略的放置」を選択していると強調した。しかも、強力な権限を持つ文大統領の「政策を変更させることも難しい」と指摘し、今後の日韓関係については「やがて政策の変更を迫られるときがやってくる。(中略)しばらくは注視する状況が続きそうだ」と論じた。
■寺田輝介 『文藝春秋』 4月号
『文藝春秋』掲載の「『日韓断交』完全シミュレーション」で元韓国大使の寺田輝介氏は、高杉暢哉・韓国富士ゼロックス元会長、福山隆・元陸将、浅羽祐樹・新潟県立大学教授、黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員との討論の中で、日本国内の一部に韓国への‟制裁論”や“国交断絶論”が出ていることについて「『断交』は現実的には考えにくい選択肢」とクギを刺した。寺田氏は、過去の日韓対立の局面と違って「韓国で発生した出来事に日本が激しく反応している」ことが今回の関係悪化の特徴であるとする一方で、文在寅大統領の特性について「親北」や「反日」より「日本への関心の低さ」に大きな危機感を覚えるとともに、対日政策に戦略がないのは「極めて危険なこと」と指摘した。
また、寺田氏は「歴史問題について日本は韓国のプロパガンダ力に負けている」と明言し、「韓国とは限りなく“言葉の戦い”が続く」という前提に立って、日本側に“理”のある「徴用工裁判」問題などについて海外メディアへのPR戦術を展開しながら問題を二国間に留めず、国際社会に日本の主張を発信し続ける必要があると強調した。さらに寺田氏は、とりわけ日韓両国民の往来や経済相互依存、文化交流は伸びているのだから、「政治対立がどんなに先鋭化しても、民間レベルではそこまで心配する必要はない」と日本側の冷静対処を求めた。特に、「経済の安定が日韓関係の安定を作る」とし、2003年から交渉を開始している「日韓FTA(自由貿易協定)」の早期締結が望まれると主張した。
■黒田勝弘 『正論』4月号
黒田勝弘・産経新聞ソウル駐在客員論説委員は『正論』におけるジャーナリストの櫻井よしこ氏と西岡力・麗澤大学客員教授との鼎談「韓国とは断交すべきか」で、韓国への制裁論や断交論がくすぶる日本の雰囲気は「どこか『新征韓論』という感じがする」と述べるとともに、制裁や断交は「効果はないどころか、日本にとって損になる」と強調した。韓国に対する経済制裁についても、韓国の産業は素材や部品など日本の技術力に依存していることは確かであるが、日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査によれば、韓国は日本企業の85%が黒字を計上する『良客』であり、黒田氏は「政治問題には関わらない方がいいというのが企業の本音」だと指摘した。
さらに、黒田氏は日本にとっての“韓国の価値”について、上述の経済面に加えて、安保面においては「中国の台頭を考えれば、韓国なり朝鮮半島を日本側に引き付けておくことは重要」とするとともに、韓国民そのものの存在価値を挙げ、「彼らの多くは“日本ファン”」であることを強調した。黒田氏によれば、「韓国はいまも日本の圧倒的な影響下にある」と述べ、韓国では問題が起こると日本の対応を参考にし、必ず日本モデルを学ぼうとするという。黒田氏は、人口5千万人以上で日韓相互の往来が年間1千万人以上という関係にもかかわらず「『もう知らん。勝手にしろ』と突き放すのは正直、もったいない」と明言した。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
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