日本の広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)の可能性
投稿日 : 2018年12月29日
■渡辺靖 『外交』Vol. 51
グローバル化で欧米のソフトパワー(訴求力)が揺らいでいるが、渡辺靖慶應大学教授は『外交』Vol. 51の論文「日本外交は普遍性を語れるか」で日本のパブリック・ディプロマシー(PD、広報文化外交)の在り方について「日本に求められる価値の基本が『リベラル国際秩序』の維持である点は自明であろう」と論じている。その理由は、人口が一億人を超える世界第3位の経済大国で高い技術力も持ちながら、世界覇権の野心を持たず、世界からの対日感情や対日信頼度は概ね良好で、しかも世界の自由貿易の拡大にも寄与しているからだとする。
特に、渡辺氏は日本外交が「対米追従」と批判されることに対し、日本の安全保障環境から「ヨーロッパ諸国と同じスタイルで米国と対峙するわけにはいかない」として、対米追従批判は「正確さを欠く」と反論する。その上で、日本には「バランス感覚を保ちながら、米国をリベラル国際秩序の側につなぎ留めておく知恵と営為が求められる」と強調した。
また、渡辺氏は日本のソフトパワー政策がこれまで文化、芸術、言語という日本の「特殊性」を活かし「クールジャパン戦略」や「インバウンド」誘致の面で一定の成果を上げてきたものの、今後は「『普遍性』の領域における訴求力をさらに高めていくこと」が必要だとする。
特に近年の国際政治においては、南北首脳会談や米朝首脳会談を例にとっても、実現に至るプロセスの一つ一つについて、訴求力が競われるようになるなど、外交そのものがPD化している。このため、専門部署による狭義のパブリック・ディプロマシーを超え、外交政策そのものを「メガPD」としてとらえ、国際社会から一目置かれるような「普遍性」に訴えるインパクトのある「メガPDに期待したい」とする。この関連で、2020年の東京オリンピック・パラリンピックについて、もともと近代オリンピックが平和運動の一環として始まったことを踏まえ、「オリンピック停戦も含め、世界が注目する『和解』や『緊張緩和』を仲裁・演出する機会として東京大会を活用することも可能」と論じた。
■原研哉 『外交』Vol. 51
武蔵野美術大学教授でジャパン・ハウス総合プロデューサーの原研哉氏は、『外交』Vol. 51のインタビュー「ジャパン・ハウスってなに?」で、外務省が戦略的対外発信
の強化のためサンパウロ、ロサンゼルス、ロンドンの3都市に設置した「ジャパン・ハウス」について、コンセプトは「日本を知る衝撃を世界へ」であり、3都市の個性を生かした運営が成果を上げていると強調した。2017年4月に最初に開館したサンパウロは、当初目標の年間入館者数14万人を大きく上回り100万人を突破し、「サンパウロの文化的拠点としては一、二位を争う存在に成長している」と自己評価した。
ただ、原氏はジャパン・ハウスの事業については、「プロパガンダだと認識されれば関心や信頼は瞬時に失われる」として、「文化をいかに切れ味よくパブリック・ディプロマシーに落とし込むかを熟考すべきである」と強調、進め方についても、「性急な『成果』の追求は、かえって事業の意義を失わせる」と慎重な判断が重要との意向を示した。
原氏は、2030年には日本への外国人観光客が8000万人まで拡大する可能性に言及しつつ、「それと呼応する形でジャパン・ハウスが各拠点で人々の日本に対する興味を呼び覚ましてくれることを期待している」と強調した。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。