働き方改革の本筋と残業の実態
投稿日 : 2018年04月20日
■水町勇一郎 駒崎弘樹 「改革の本筋をはき違えるな」中央公論3月号
東京大学教授で「働き方改革実現会議」議員である水町勇一郎氏は、「中央公論」の認定NPO法人フローレンス代表理事の駒崎弘樹氏との対談で、安倍政権が推進する「働き方改革」について、「日本の雇用システムにあるネガティブな面を根本的に変えなければならない」として、「長時間労働」と「正規・非正規の格差」の是正が最重要課題だと指摘した。その上で、これらが実現すれば「戦後の労働法の中でも重要な改革になる」と強調した。
長時間労働の是正では、時間外労働の上限が順守されるかどうかがカギを握る。水町氏は「働き方改革」法案では「1か月の時間外労働は100時間未満、月平均80時間以内、年720時間」と規定されているが、企業にとって厳しいのは「原則月45時間、それを越えるのは6回まで」という規定だとする。改革を実現するには、「残業は1日2時間までというのを全社員について常態化する」ことが不可欠だとする。
また、正規・非正規の格差是正では、水町氏は「同一労働同一賃金」導入に関して「正規と非正規の手当てをそろえればいい」といった誤解や「職能分離をすれば(批判を)逃れられる」といった誤った認識があると指摘した。さらに、厄介なのが労働時間の規制・管理問題で、例えば「副業・兼業」をどのように取り扱うのか、その際の健康管理はどうなるのかなど課題が山積しているとする。水町氏は「労働時間管理は第二次産業においては有効だが、サービス産業においては、それに加えてストレスマネジメントが必要」と指摘した。
■中原淳 「残業は『集中』『感染』『麻痺』『遺伝』する」 中央公論3月号
東京大学准教授の中原淳氏は「中央公論」で、働き方に関する「希望の残業学」調査報告(全国6千人対象)に基づき、慢性化している時間外労働(残業)の実態を分析している。調査は、パーソル総合研究所と中原氏との共同研究によるもので、調査報告に敢えて「希望」と名付けた理由について、「残業はせずに、締め切りとノルマは守って」という働き方改革には「絶望しかないと感じたからだ」と説明した。また、米ギャラップ社調査で、日本には「仕事への熱意あふれる社員」がわずか6%しかいないことを挙げ、「日本人は勤勉で長時間労働しているにもかかわらず、驚くほどパッションがないからだ」と強調した。
中原氏は、残業が発生するメカニズムについて、「集中」「感染」「麻痺」「遺伝」という特徴が見られると分析する。「集中」とは、できる人に残業が集まりやすく、「2000年代以降、成果主義が導入されて組織のフラット化が進み、特定個人に仕事がより集中するようになった」としている。また、残業増加は職場での「感染」の面も大きく、「先に帰ると非協力的」といったことによる職場内の「空気感染」の影響がある。
「麻痺」とは、中原氏によると「長時間労働の結果、自己認知に歪みが生じ、首尾一貫した行動や認識を保てなくなっている状態」だとする。また、「遺伝」は若い頃に長時間残業をしていた上司のもとでの部下の残業時間が長くなるという傾向で、そういう人には「残業概念」や「定時と残業の境界感覚」がない人がいると指摘した。
中原氏は、長時間残業の改善策として、①「ノー残業デー」や「残業の原則禁止、事前承認」など全社的施策の実施②業務の指示や判断の明確や迅速化による「職場マネジメント」の改善③個人の意識の改革―が必要だとする。その上で、「残業は掛け声だけでは減らない」として賃金体系の改善まで踏み込んだ是正をしていかなければならないと論じている。
写真:ロイター/アフロ
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