日本のポピュリズム
投稿日 : 2017年05月24日
日本のポピュリズム
■[対談] 千葉大学教授 水島治郎 x 北海道大学大学院教授 遠藤乾
「大衆のマグマは、日本にも溜まっている」 中央公論5月号
欧米で「ポピュリズム」勢力が猛威を振るっている。北海道大学院教授の遠藤乾氏は、『中央公論』での水島治郎千葉大教授との対談で、日本のポピュリズムの現状について、過去20年間に日本の名目GDP(国民総生産)は約1割減少し、労働者の所得が大きく減少したことを挙げ、「ある種の『負け組』は相当数いて、欧州ほど顕わにはなっていないけれど、大衆のマグマは地底にかなり溜まっている」と指摘した。
また遠藤氏は、欧米のポピュリズムを加速している“移民問題”に関連して、日本は移民を受け入れていないが、技能実習生や留学生の形での外国人労働者は108万人に上ると指摘し、さらに受け入れる方向に進んでいることに「事前に対策を検討していかないと、外国人の犯罪よりも、日本の主流国民の排外主義的な爆発のほうが恐ろしい」と懸念を表明した。
水島氏は、欧州諸国の現状を踏まえ、野党としてのポピュリズムは「政権批判に終始するので政治的不満の受け皿にとどまる」としながらも、単独で政権を担った場合は「人民の名のもとに無制限の権力行使に走る危険がある。三権分立や立憲主義にも否定的」と、ポピュリズムの危険性を指摘した。さらに、同氏は、民主主義の足場を固めておかないと「民主主義の外縁そのものが侵食され、政党間競争が成り立たなくなる恐れがある」と、ポピュリズムが民主主義の瓦解につながりかねないと強調した。
■東京大学教授 谷口将紀 「二重の政治的疎外をいかに乗り越えるか」 中央公論5月号
東大教授の谷口将紀氏は『中央公論』の論文で、欧米のポピュリズムの伸長について、①中間層の不安定化と政治的疎外②技術革新やグローバル化による既成政治批判と本流(メイン・ストリーム)の空洞化、によるものだと分析する。その上で谷口氏は、「中長期的な視点に立つとき、こうした出来事は日本にとっての対岸の火事ではない」と強調する。グローバル化や第四次産業革命という世界各国に共通の課題に加え、日本は少子高齢化・人口減少、社会保障費増大に伴う巨額の財政赤字などの問題に直面しているからだとする。
谷口氏は、人々のみならず政治家の主体性の欠如を「二重の政治的疎外感」と名付けた三谷太一郎東大名誉教授の言葉を引用しながら、「中間層に広がる動揺と、これに対して主体的・効果的取り組みを欠く政治は、諸外国に限られた現象ではない。彼我の差は、難民問題や国民投票あるいはトランプという発火点の有無に過ぎないのである」と指摘した。
では、「二重の政治的疎外」にどう対処するか。谷口氏はまず「所得を物差しとした中間層に代わって、人生や社会に対する意識の高さ、あるいは政治・社会的機能に注目した新しい日本社会の主人公」として、“中核層”の措定を提言する。既成政治については、基本的な国家戦略に関して「分極化を避けようという意識を各政党に分かつ装置が必要である」とする。具体的には、①現状の「政治候補者本位」から「政党本位」の政治を目指す②これまで以上に「熟議」と「決定」の両極に配慮した仕組みを構築することを求めている。
写真:佐藤哲郎/アフロ
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