トランプと日米関係
投稿日 : 2017年01月11日
・西谷修 「アメリカのない世界」 世界1月号
トランプ米大統領の誕生は、国際情勢や日米関係にどのような影響を与えるのか。様々な意見が出ているが、立教大学特任教授の西谷修氏は、世界1月号の論文で、「アメリカ自体が、世界への拡張の欲望を捨てる」ことが今回の米大統領選挙の“世界史的な意味”だと強調する。また、西谷氏は、大統領選の結果は、米国に自由とチャンスを与え続けてきたグローバリズムへの不満の顕在化であり、トランプ氏が掲げる「アメリカ・ファースト」は「グローバル経済と軍事管理、つまり『帝国』路線の放棄」であるとしている。
では、グローバリズムの先にあるものは何か。西谷氏は、「アメリカ・ファースト」の主張やバーニー・サンダース氏(民主党)が訴えた「この地域の我われ住民」が象徴する“人間生活の政治化”だと主張する。それは「地域に根差した人たちがどうやったら生きていけるのか、それを調整し組み立てるということ」であり、富の生産と配分を地域共同で組み立て直していくことが、グローバル化の先に要請される方向だと論じている。
こうした歴史的な文脈の中で、日米関係はどうなるのか。西谷氏は、日本国内で米国に対し「もっと世界秩序のことを考えるべきだ」と注文を付ける議論が多いことについて、「日本がいかにアメリカの制度空間の中に取り込まれていたかをよく表している」と強い懸念を示す。日本の“対米依存”は、「アメリカが君臨する世界秩序以外」を想像できないことの証左であり、西谷氏は今後、「理念なきアメリカ、自分のことしか考えないアメリカという(中略)発想を持たなければ、世界はもはや未来をイメージできない」として、米国中心の秩序に寄りかからない日本の国の在り方を本格的に考えるべきであると主張した。
・福田康夫「安倍外交への忠告」 文藝春秋1月号
福田康夫元首相は、文藝春秋1月号で、米大統領選挙について「ある意味で『民主主義そのもの』が問われている」との認識を示すとともに、米国の政治経済の変調は世界の座標軸に狂いを生じさせかねないとして、「アメリカにはしっかりしてほしいということ。様々な政策について、安定的な方向性を打ち出してほしい」と求めた。
その上で、福田元首相は、「トランプショックを奇貨として思考停止状態のわが国の立ち位置を、この際全面的に見直してはどうか」と提言する。例えば、トランプ氏がいち早く表明した環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱についても、「仮にアメリカがTPPを離脱するとしても、他にいくらでも方策はあります。日米の二国間でFTA(自由貿易協定)を結ぶ。他の各国ともFTAやEPA(経済連携協定)をさらに拡充していくというのも、一つの方法」と発想の転換を求めた。
・潮匡人 「日本もさすがに平和ボケから目覚めなければ…」 正論1月号
拓殖大学客員教授で保守派の評論家である潮匡人氏は、正論1月号で、トランプ氏の基本姿勢について、「政治家ではなく経営者(ビジネスマン)である」がゆえに、「日米同盟を『普遍的な価値の共有』(日本政府)ではなく、あたかも貸借対照表(バランスシート)を眺めるように考える」と利害得失を基準にしていると強調する。
また、潮氏は、トランプ次期大統領が日米安保関係を「『フェアでない』(不公平)」と批判することについて、日本が集団的自衛権を「平和安全法制の下でも『存立危機事態』でしか、(限定)行使しないからである」と理解を示すとともに、米側が要求する「応分の負担」についても「防衛費の対GDP比で言えば2%以上(現在約1%)」に増加させるべきだと主張する。
さらに潮氏は、米国の国際秩序関与の低下による日本周辺での“力の空白”を埋めるため、「いまこそ『打撃力』(攻撃力)の保有に踏み切るべきだ」と述べる。その上で、「わが国が本来やるべきだった『正しい』政策を実現実行する。そのとき始めてフェアな日米関係が生まれ、日本の『戦後』が終わる」とし、「『戦後レジームからの脱却』(安倍総理)を実現できる絶好のチャンスが訪れた」と結んでいる。
写真:AP/アフロ
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