テロとの戦い/韓国の現状
投稿日 : 2016年01月19日
テロとの戦い/韓国の現状
■ テロとの戦い
・池上彰×佐藤優「世界大戦の悪夢が始まった」『文藝春秋』1月号
・山内昌之×佐藤優「シリアをめぐる米露欧の思惑」『中央公論』1月号
2016年の幕開けとともにサウジアラビアとイランとの国交断絶が報じられ、中東をめぐる緊張が高まっている。イスラム教スンニ派のサウジアラビアと、シーア派のイランとの確執は、国際社会の「イスラム国」との戦いやシリア情勢に大きな影響を与えかねず、各国が緊張緩和の働きかけを行っている。
ジャーナリストの池上彰氏と、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、文藝春秋1月号の対談「世界大戦の悪夢が始まった」で、2015年11月にフランスで起きたテロや「イスラム国」について、①フランスが狙われた理由、②ロシアの動き、③イラン、サウジアラビアなど中東の「カオス化」、④次なるテロの標的、⑤日本の影響―の観点から語っている。(写真:AP/アフロ)
フランスで起きたテロについて、池上氏は、「……自国内で生まれ育った『ホームグロウン・テロリスト』」が引き起こした点が、2001年のアメリカ同時多発テロとの大きな違いであると説明。「……いまは『イスラム国』がひと声かければ、ヨーロッパの域内でテロに呼応する人をいくらでも集められるようになっています。……『テロの自給自足』が可能になっているのです」と解説する。
また両氏は、中東において、従来のシーア派とスンニ派の確執に加え、シリアのアサド政権や「イスラム国」との戦いをめぐる国際社会の思惑が絡み、これまで相入れなかった国や勢力同士が複雑に結び付くことで「カオス化」が一層進んでいると分析。鍵となるのは、石油価格の低迷で経済的に追い詰められているサウジアラビアであるとの見方を示す。その政情不安に乗じてシーア派が攻勢をかければ、スンニ派の「イスラム国」がサウジ側につき、「……イスラム世界全体を巻き込む宗派戦争に発展し、中東戦争、そして世界大戦に結び付く」可能性もあると警鐘を鳴らす。
今後、日本がテロの攻撃を受ける可能性は十分あるとしたうえで、池上氏は、「……(テロ)事件は、『イスラム国』がかなり追い詰められ、その焦りから生まれたものであると、冷静に受け止めた方がいい」と述べる。テロを防ぐには、「……貧困の連鎖に陥っている人たちにきちんとした教育を与え、少しでも失業率を減らしていくことしかない」と指摘する。佐藤氏は、「テロが起きた時に本当に大切なのは、『戦うぞ』と虚勢を張るのではなく、あたかも何事もなかったように日常生活を続けていく勇気です」と主張。日本が取るべき対応として、基本的人権や市場原理といった普遍的価値を守り、「イスラム国」に限らず非人道的な攻撃に対して「しっかりと異義を申し立てるべき」だとしている。
複数の対立軸を抱える中東の混乱や、鍵となるサウジアラビアについては、佐藤氏と歴史家で明治大学特任教授の山内昌之氏の対談「シリアをめぐる米露欧の思惑」(『中央公論』1月号)でも議論されている。シリアのアサド政権をめぐる各国の対応について、山内氏は、「パリのテロをきっかけに、フランスはもとよりEUとアメリカは、対シリア政策の修正を余儀なくされる」と指摘。佐藤氏は、「……欧米は、アサド政権に与するような政策はとりにくい。日本はそのあたりを見極め、慎重に動かなければなりません」と分析する。また、アサド政権を支持するロシアが、反アサドのサウジアラビアにも接近していることについて、佐藤氏は、「……アメリカは中東、特にサウジアラビアを甘くみたと思うのです。ロシアとサウジが接近するなどというのも、アメリカにとっては想定外のシナリオだった」と述べている。両者は、中東の混乱はさらに深刻化すると見ている。
■ 韓国の現状
・西野純也「『四強』から『G2』へ」『外交』34号
・深川由起子「『六重苦』で閉塞感強まる韓国経済」『外交』34号
2015年暮れ、日韓関係は大きな進展を見せた。慶應義塾大学准教授の西野純也氏は、『外交』34号に掲載された「〈四強〉から〈G2〉へ」のなかで、これまでの日韓関係悪化の要因について分析している。西野氏は、①両政権の側近や補佐役による裏交渉が機能しなくなり、世論が日韓関係を動かす力となっていること、②民主化後の韓国で、「保守」に対抗する「進歩」勢力が拡大したこと、③韓国の国際政治観が変化し、日本とロシアを含まない米国・中国の2ヶ国が朝鮮半島の運命を握っているとする〈G2〉論が定着したこと―などが要因だと論じている。
同じ『外交』34号のなかで、早稲田大学教授の深川由起子氏は、韓国経済の閉塞感について分析。深川氏は、「閉塞感は表面的には高すぎる成長期待の裏返し、かもしれない」と前置きしたうえで、「韓国は輸出型製造業とその高度化を通じた成長モデルしか経験がない。このため、困難な輸出環境の持続も閉塞感を煽る」と解説。深川氏によると、李明博政権下では、日本にとって「六重苦」となった、①ウォン安政策、②電力など安価なエネルギー供給、③先端輸出企業への法人税優遇、④甘い環境規制、⑤労働規制緩和、⑥自由貿易協定(FTA)の締結によって韓国のグローバル企業が成長。しかし、朴槿恵政権下では、「……いわゆるアベノミクスが始動して以来、この『六重苦』はオセロゲームの駒のように韓国側に反転した。韓国のメディアが安倍政権に感情論をぶつけがちなのは、政治面だけではなく、経済面にも強い被害意識が存在するからだ」と分析している。
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