観光都市・京都の舞台裏 / グローバル危機としてのヨーロッパ危機
投稿日 : 2015年10月23日
<取り上げた月刊誌>
『中央公論』『Voice』
◆ 2015年9月 ◆
■ 観光都市・京都の舞台裏
・石破茂×門川大作 「地方創生は首長次第――いま自治体に本気度と覚悟が問われている」 『Voice』10月号
地方における人口減少や経済の不振は、日本の深刻な問題だ。地方創生担当大臣の石破茂氏は、京都市長・門川大作氏との対談『地方創生は首長次第――いま自治体に本気度と覚悟が問われている』のなかで、「……現在の日本が直面している人口減少は、いうなれば『静かな有事』です。……目に見えない形で国が消えていってしまう、ということの『静かな有事』をいま止めなければ、日本を後世に引き継ぐことはできません」と警鐘を鳴らし、全国の市町村長が果たす役割に期待を寄せる。
人口約147万人の京都市は日本を代表する観光都市だが、門川氏は、「世界的に魅力的な大都市と思われている京都は、課題を抱える全国の地方都市の象徴」だと実情を語る。政令指定都市(人口50万以上の市のうち、政令で指定された全国20都市)では人口が増加傾向にあるが、京都市では人口が減少しているという。同市は、条例によって高層マンションの建設を規制するなど景観保全に力を入れており、こうした「京都の都市格」を守る姿勢が観光客増加につながる反面、人口増加をさまたげる要因ともなるジレンマがあるとしている。また、観光業界は非正規雇用率が高く、観光都市ならではの懸念もあり、対策を講じているという。
地方振興の施策としては、以前から中央官庁や大企業等の本社機能の地方移転が議論されており、京都市は十数年前から文化庁の移転を要望している。これについて門川氏は、京都は国宝や重要文化財が多いこと、マンガ・アニメなどの文化も栄えていること、京都の伝統文化・産業が全国各地の地場産業や職人の技とつながっていることなどをあげ、文化庁移転により「日本文化のさらなる興隆という役割を果たせる」との考えを示す。石破大臣は、これまで進んでこなかった政策を進めるためには、「……国民の前向きな気持ちが絶対に必要」と強調。門川市長も、「……地方も職員も、そして政府も政治家も、国民を前向きにさせる本気度と覚悟が問われています」と述べる。そして、「……一〇〇万を超える人口の都市のなかで、千年以上経っても一度も遮断されることなく文化が継承されているのは、世界を見渡しても京都だけ」とし、「……京都市が地方創生のモデルでありたい」と力説している。
■ グローバル危機としてのヨーロッパ危機
・細谷雄一「〈ヨーロッパ危機〉の本質―内側からの崩壊を止められるか」 『中央公論』10月号
シリアなどからの大量の難民に、EUがどう対応するかに注目が集まっている。EUをめぐっては、この一年ほどの間だけでも、ウクライナ問題、スコットランド独立住民投票、フランス・パリのシャルリ・エブド襲撃事件、ギリシャの債務不履行・ユーロ離脱問題、イギリスのEU離脱の可能性の浮上など、不安定要素が渦巻いている。日本の代表的な若手の国際政治学者細谷雄一氏(慶應義塾大学教授)は、『中央公論』10月号「〈ヨーロッパ危機〉の本質――内側からの崩壊を止められるか」で、「巨大な実験の結果として誕生した、ヨーロッパの理想的な社会経済モデルが今、かつて経験したことのない巨大な危機に直面している」と論じている。
「ヨーロッパ危機」について、細谷氏は、「……戦後欧州統合を支えてきた基本的な価値や理念、すなわち民主主義や平和や寛容といったものが、根本から挑戦を受けていること」と説明。その背景には、EU諸国内の国や地域、民族同士が責任を押し付け合い、互いに不信感を募らせ、批判し合っていることがあると分析し、「このようにして、相互不信と相互批判が募っていくことは、ヨーロッパ統合のプロジェクトを進める上できわめて深刻な問題であろう。排他的なエゴイズムは、戦後ヨーロッパの基盤を崩壊に導く。これが、『ヨーロッパ―危機』の本質だと言える」と述べる。
EU危機は「EUの対外的な影響力の低下」につながり、国際社会に大きな影響を与える。細谷氏は、リーマン・ショック以降、米国が防衛予算を抑制して対外軍事介入を控えてきたことにふれ、「EUとアメリカがともに世界での影響力を後退させるとすれば、それは必然的に中国やロシアの影響力拡大に繋がる」と指摘。さらに、「……EUやアメリカが擁護してきた民主主義や人権、法の支配といったリベラルな価値も埋没する」とし、ウクライナやシリア、南シナ海において、すでにこれらに反する事態が起きているとする。
細谷氏は、EUは危機に瀕しているものの、「依然として世界最大の経済的パワー」であることに変わりはなく、「……環境問題や世界経済、人権問題などに大きな影響を及ぼす力」があると述べる。さらに、周辺国の多くがEUに希望を見ているとも指摘する。二度の世界戦争や世界恐慌による経済の疲弊といったヨーロッパの歴史を振り返れば、かつてのヨーロッパに戻ることを「誰が求めるだろうか」と論じ、「そのような歴史的視座をもってはじめて、今あるヨーロッパの危機を乗り越えられるのではないか」と締めくくっている。
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