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【英国】Wallpaper* イェンス・イェンセン ジャパンエディター

投稿日 : 2015年06月09日

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世界各都市の建築やデザイン、ファッションのトレンドをスタイリッシュな写真とともに紹介するロンドンが拠点の月刊情報誌Wallpaper*のイェンス・イェンセン ジャパンエディターは、「クールジャパンに留まらず世界の読者は、日本文化への関心が非常に高い」と語る。イェンセンジャパンエディターが注目する日本文化の取材について話を聞いた。

 

 

~「美しい国」、「クールジャパン」だけでなく知って欲しい日本がある~

 

 

日本の印象についてお聞かせください。

ロンドン大学の日本学科で学び、日本文学から日本映画に至るまで日本文化には親しんでおり、日本に関して特に固定的なイメージは抱いていませんでした。ただ、実際に来日してみて、都市計画が欠如しているのではないかと気になりました。古いものから新しいものまでせっかくの良い日本建築や、美しい景色があるのに、建物の色や高さなどがばらばらで、都市景観から雑多な印象を受けました。

 

 

Wallpaper* 4月号の鎌倉市を紹介した記事のなかでも言及していますね。

私自身、鎌倉に暮らし鎌倉を愛していますが、変わって欲しい所もあります。鎌倉紹介の記事では、良い面だけでなく、景色を遮る電線などの問題点も指摘しました。母国のデンマークでは、電線や電話線など全て地下に埋設してあり、景観を干渉しません。Wallpaper*は、日本のクールな部分をとらえていますが、ただ単純に綺麗でクールな日本でなく、ありのままの日本を文章で読者に伝えるのが私の役割だと考えています。読者にも「美しい国」、「クールジャパン」だけではない日本を知って欲しいです。

 

 

Wallpaper*とはどんな雑誌ですか?

Wallpaper*は、建築やデザイン、ファッションに重点を置いたライフスタイル誌で、観光情報も時々掲載します。観光情報といっても日本の雑誌に見られるお勧めの宿泊先やレストランの紹介ではなく、例えば鎌倉市を紹介した記事では、日本の好きな所や問題点など、私個人の視点で書いています。また、写真の使い方でWallpaper*の独自性を出しています。誌面では取材先からの提供写真などはほとんど使わず、専属のカメラマンが撮影した写真を使います。カメラマンがとる写真は記事の内容と一致するとは限らず、また、写真に写っていることが記事の中で取り上げられているとも限りません。記事からは独立した物語性のある素晴らしい写真が毎号掲載されます。

 

 

誌面記事とオンライン記事の違いや掲載頻度は?

誌面とオンラインでは、全く異なる記事が掲載されます。鎌倉市を紹介した記事の様に、誌面記事は長編です。興味深いストーリーがあれば、執筆してロンドンの本社に送っており、だいたい2カ月に1度の頻度で誌面に掲載されます。オンライン版では、話題性のあるニュースや、斬新な建築、新しい美術館の設立などについて短い記事で随時紹介します。直近では、谷口吉生氏設計の京都国立博物館の平成知新館や、ヘルツォーク&ド・ムーロンが設計した東京・青山にあるミュウミュウの旗艦店について記事を執筆しました。また、今年3月に北陸新幹線が開業した際は、新型車両のデザインを手がけた奥山清行氏に焦点をあてた記事を書きました。

 

 

~積極的に地方の取材をして新しい人や場所を発見したい~

 

 

東京オリンピックを控え、海外への情報発信に積極的な自治体が多くなって来ました。

世界には、日本の政治や経済に関心がある人より、日本の文化を知りたいと思っている人の方が多いと思います。そのような人達に向け、日本のかっこいい部分を伝えていきたいですし、日本全国を旅して、新しい人や場所を発見したいです。建築、アート、デザイン、観光情報だけでなく科学技術、工芸などについても記事を書いています。アートのイベントや新しく設立される美術館などの情報があれば、是非、知らせて欲しいです。

 

 

今後どのような取材を考えていますか?

地方の取材を積極的に行いたいです。ほとんどの読者は、日本と言えば東京あるいは、京都しか思い浮かべないかも知れません。けれども日本のあらゆるところに、記事として取り上げてみたいことはたくさんあります。著名な建築家が手がけた建物やアートフェスティバルがある直島、瀬戸内エリアを近々取り上げたいと考えています。

 

 

その中でも特に注目している分野は何でしょうか?

日本のものづくりと職人文化です。世界各国に名工はいますが、一生涯を竹細工に捧げたり、20数代にも亘り引き継がれる技があったりなど、非常に興味深いです。母国デンマークも家具作り、特にデザインが有名ですが、残念ながら実際の家具作りは国外で行われることが多くなってきました。デザイナーと職人が遠く離れた所にいると、細部の調整が難しく、なかなか良いものが生まれてきません。日本では、職人がデザイナーであり制作者です。あるいは、デザイナーと職人のコミュニケーションが良くとれています。それが日本からよいものが生まれる秘訣の一つだと捉えています。

 

 

 

~日本についてなんでも手掛けるジャパンエディター~

 

 

どのような経緯でWallpaper*のジャパンエディターになられたのですか?

記者としての経験はありませんが、本の執筆や日本の雑誌への寄稿など長年執筆活動をしてきました。ジャパンエディターになったのは比較的最近で、昨年の2月です。Wallpaper*の編集局長を良く知る知人からの紹介がありました。ここ何年かジャパンエディターがいない空白の期間があり、Wallpaper*が適任者を探していたのです。

 

 

ジャパンエディターの役割は?

記事の執筆については、話題選びから内容までほとんど任されています。この点、非常に自由度が高くやりがいを感じます。最近執筆した記事の中で本社の指示によるものは、さきほど触れたヘルツォーク&ド・ムーロン設計の建物が東京・青山に竣工した時ぐらいです。記事執筆以外でも、日本に関連する業務であればなんでも手掛けています。国際家具見本市のミラノサローネでWallpaper*が主催する「Handmade展」に、まな板と砂時計が組み合わさったアート作品が出品されました。これは日本人デザイナー二俣公一氏とデンマークの時計メーカーSKAGENの共同制作です。 Wallpaper*が両者に制作の依頼をしましたが、この作品作りが円滑に進行するようジャパンエディターとして仲介役を務めました。

 

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イェンス・イェンセン ジャパンエディター

デンマーク出身。ロンドン大学東洋アフリカ学院日本学科卒(同大学2年時、東京外国語大学に留学生として在籍)。2002年の来日後、デザイン事務所や建築事務所、駐日デンマーク王国大使館勤務などを経て、2014年2月にWallpaper*のジャパンエディターとなる。建築、デザイン、アート、職人によるものづくり、観光情報などの記事を執筆。

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Wallpaper*

1996年イギリスで創刊。世界各国のデザイン、建築、ファッションの流行や観光情報を紹介する月刊誌。世界93ヵ国で販売されており発行部数約10万部/月(電子版含む)。

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