実施日 : 2009年07月22日
【プレスツアー】2009年7月22日 栃木県大田原市プレスツアー:世界不況に立ち向かう“地方の知恵”
投稿日 : 2013年08月27日
いま日本の地方都市が悲鳴を上げている。構造改革の名のもと断行された規制撤廃と自由化により、激しい競争にさらされた地方都市の経済を、世界的な経済危機が襲っているからである。
このような不況のなかにあって動じることなく立ち続ける地方都市がある。栃木県大田原市である。関東圏で最高レベルを維持している完全失業率の低さの秘密は、これまで行ってきた「持続可能で安定的な地域づくり」にある。過度な企業誘致による工業振興に依存せず、同市の豊かな自然を活かしたバランスのよい農業、酪農、観光の振興。それらを可能にする強力な地方自治体のリーダーシップ。そして、故郷を愛し、豊かな街づくりのために創意工夫をこらしていく市民たち。
本ツアーでは、同市のユニークな取り組みを農業・酪農、工業、観光の3つの側面から取材し、その奥底にある豊かな地域をつくる哲学にふれていく。(写真:大田原市を流れる那珂川)
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栃木県大田原市プレスツアー:世界不況に立ち向かう“地方の知恵”
-「持続可能型」まちづくり-
いま日本の地方都市が悲鳴を上げている。構造改革の名のもと断行された規制撤廃と自由化により、激しい競争にさらされた地方都市の経済を、世界的な経済危機が襲っているからである。サブプライムローン危機に端を発した金融バブルの崩壊は、まさにアメリカを中心とした消費バブルの終焉を意味し、その消費バブルにのってきた輸出立国日本の製造業は深刻な打撃をうけている。従来、日本の地方都市は、それぞれに特色を有し、それぞれの地域に根付いた地場産業が「豊かな地域」を形成してきた。しかし、その多くは、規制撤廃、自由化のムードに流され「より簡単に利益を生む」業態への転換を迫られてきた。安易な企業誘致、大規模店舗の拡大、農業を始めとする第一次産業切り捨て。気がつくとそれぞれに豊かだった個性は消え去り、経済の収縮による悪影響が地方経済にしわ寄せされる形で現れ始めている。
このような不況のなかにあって動じることなく立ち続ける地方都市がある。人口78,000、東京から鉄道でわずか約1時間半という距離に位置する栃木県大田原市である。関東圏で最高レベルを維持している完全失業率の低さの秘密は、これまで行ってきた「持続可能で安定的な地域づくり」にある。過度な企業誘致による工業振興に依存せず、同市の豊かな自然を活かしたバランスのよい農業、酪農、観光の振興。それらを可能にする強力な地方自治体のリーダーシップ。そして、故郷を愛し、豊かな街づくりのために創意工夫をこらしていく市民たち。こうした大田原市のとりくみは、同じように同時不況に苦しむ世界の人々にとって、次の一歩を踏み出していくための多くの示唆に富んでいる。本ツアーでは、同市のユニークな取り組みを農業・酪農、工業、観光の3つの側面から取材し、その奥底にある豊かな地域をつくる哲学にふれていく。
※本プレスツアーは大田原市のご協力を得てフォーリン・プレスセンターが企画・運営しています。
【取材内容】
1.「守る勇気」 ~千保大田原市長ブリーフィング~
大田原市の街づくりをけん引する千保一夫市長は、1990年から市長を務め、同市の発展に大きな役割を果たしてきた。同市は、もとより豊かな歴史を持つまちである。国宝である飛鳥時代の古碑(6C~8C)、日本の軍記物語の最高の古典といわれる平家物語に縁のある城跡はその名残をとどめている。しかし、近代主要国道や新幹線などの交通機関が同市から外れて整備され、結果として時代に取り残されたようになっていた。
千保市長は、交通不便地域ゆえ往年の活力を失いかけていた同市で、不利な条件を逆手にとり、「「住民の幸せ度」を重視し、先進的ではなくても心豊かな落ち着いたまちづくりを目指し、「開発との訣別」に舵を切った。戦後日本で一貫して地方経済を支えてきた公共投資による開発が、この日本列島に何を残したのか。市長は就任直後から、大田原の個性を大切にし、「守るべきものは何か」「伸ばすべきものは何か」、絶えず市民と対話を繰り返してきた。「開発より交流」を合言葉に、教育、文化、芸術、福祉、スポーツ振興などの分野でハードの整備と「仕掛け(イベント)」を打ち出し、地域活力の向上を図ってきた。こうした取り組みは市外との交流を促進し、毎年300万人以上の人が訪れるほどである。本ツアーでは、同市長から、大田原市の特徴を生かした持続可能型まちづくり「新大田原レインボープラン」について話を伺う。
2.街ぐるみで守った「アユの里」 ~「やな漁」の見学と天然アユ料理~
大田原を流れる那珂川は、関東でもっとも水の美しい川といわれている。その透明度は、日本一美しいといわれる四国の四万十川にちなみ「東の四万十川」と呼ばれるほどである。この川は、1990年以降、全国一の鮎の漁獲量を誇り、昔から天然アユのメッカとして多くの人に愛されてきた。釣りシーズンには全国から四万人以上の釣り人が集まる。
また、毎夏、竹すだれで1,000年以上続く伝統の仕掛けが作られ、産卵のため群れをつくって川を下る「落ちアユ」をとる「やな漁」が行われる。このシーズンである6月~10月には、約三万人の観光客が同市を訪れる。この掛け替えのない観光資源は、長年行政によるきめ細かい規制と、黒羽観光やな漁業組合を初めとする市民たちの不断の努力により守られてきた。ツアーでは、「やな漁」を見学し、天然アユ料理を賞味しながら、黒羽観光やな漁業組合の増渕誠一常務理事から「やな漁」、アユの生態、那珂川を守ってきた知られざる歴史について取材する。
3.エコ牧場の挑戦 ~生態系をまるごと使う(株)前田牧場~
33ヘクタールという広大な敷地をもつ前田牧場は、さながら一つの生態系そのものだ。2,500頭の肉牛を飼育、その堆肥を有効に使い、アスパラガスや水稲などの作物を生産。そして、堆肥を活用して作られた稲作の稲ワラは牛舎で利用されていく。これは「循環型農業」と言われ、近年「循環型社会の構築」や「環境保全」の一環で国や地方行政から注目されているが、この牧場では1996年以来実践されてきた。牧場主の前田昭さんは「廃棄物を有効なものに変えて利用したい」との思いから「自前のサイクル」を作り上げた。
また、前田牧場は直営のミート・ショップやカフェを設け、食の安全と美味しさに配慮した生産物を提供している。これは、消費者のニーズに合致し好評で、インターネットを通じそのブランドは全国でも広く認知されている。大田原市は、農業振興策として推進する「認定農業者」を通じ、同制度策定当初より同牧場の規模拡大を支えてきた。前田さんはいう、「この大田原だからこそ、ここまで実現できた」。この一牧場から始まった「循環型農業」は、今大田原市全土に広がり始めている。ツアーでは、前田牧場を視察し、「循環型農業」で栽培された「一味違う」アスパラと牛肉を賞味しつつ、前田さんより「循環型農業」と今後の可能性について話を伺う。
4.匠の技の継承で不況を乗り切る
~JUKI(株)大田原工場 デジタル屋台はこうして生み出された~
1971年より操業を開始したJUKI(株)大田原工場がいま大きな転機を迎えている。JUKI(株)は工業用ミシンで世界トップのシェアを誇るが、その中でも大田原工場はグループの中心・マザー工場である。同工場では、世界市場で中国などの新興国にも負けないため、独特のシステムを取り入れ競争力を維持してきた。日本のものづくりをささえてきた「職人の技」を11の技能に分け、IT技術を駆使してデジタル化し、入社1年目の社員でもベテランなみのモノづくりを可能にした「デジタル屋台」である。
JUKI(株)大田原工場では、団塊の世代の熟練工の最高技術を次世代に残すために5年かけて、その「匠」の技を分析、プログラミングした。そしてこの不況下、同社は世界市場での生き残りをかけ、「デジタル屋台」の更なる洗練を追求することで、ライバルとの差別化に大きく舵を切り始めた。このデジタル屋台は、アジア各国でも評判になり、海外からの見学者が頻繁に訪れている。ツアーでは、経済危機を乗り切るための技術力の向上と新戦略をテーマに、山岡工場長からご説明頂き、「デジタル屋台」を生み出した知恵と今後の展望を取材し、工場を視察する。
5.古の技で今を生き抜く~江戸時代から大田原を支える地場産業(株)山形屋~
17世紀江戸時代、大田原は城下町が栄え名刀が生み出される地として知られていた。その時代の伝統を生かしながら、現代にたくましく生き続ける企業がある。創業400年の伝統を持つ金属加工業「山形屋」だ。山形屋は、江戸時代、殿様へ献上する最高の刀を作る名工であった。しかし、侍の時代が終わり明治に入ると、家庭で使う鍋釜といった金物づくりの町工場として再スタート。その後、工業用部品やパイプなどクオリティの高い金属加工のメーカーとして4つの工場を構えるまでに発展し、今や地方経済を支える地場産業の一つとなっている。
今回の世界的な不況で、多くの国内企業は生産縮小、工場閉鎖に追い込まれているが、山形屋は何ら影響を受けていない。その強さの秘密が、山形屋独特の金属の「焼きいれ・鍛造」技術だ。山形屋は刀鍛冶の頃から受け継がれてきた鉄の「焼き入れ」の技術を生かし、金属を削る刃を自社で製作し、様々な金属を自在に加工する技によって、高品質で発注者のニーズに応える製品を作り続けてきた。また、独自のノウハウを生かして次々とユニークなオリジナル製品を開発し注目を集めている。ツアーでは、江戸時代から続く「焼きいれ・鍛造」の技を見学し、山形屋9代目であり、大田原市商工団体連絡協議会工業振興委員会の委員長もつとめる加藤利勝社長より、同社の経営理念と地場産業や中小企業がこの不況を如何に乗り切り、地域活性に貢献可能かアイディアを伺う。
【実施要領】
1.日程案: 2009年7月22日(水)
07:40 東京駅発
08:52 那須塩原駅着
09:30-10:30 市長ブリーフ・質疑応答
10:50-11:50 前田牧場
12:20-13:30 「やな漁」見学・アユ料理(昼食)
14:00-15:50 JUKI(株)大田原工場
16:10-17:30 山形屋
18:32 那須塩原駅発
19:44 東京駅着、解散
2.参加資格:外務省発行外国記者登録証保持者
3.参加費用:1人5,000円(食事代、交通費を含む)
*お支払い方法、キャンセル料等は、直接参加者にご連絡します。
4.募集人数:先着順7名(各社ペン1名、カメラ1名、TVは1社2名まで)。
*申し込み人数が7名を超えた場合は、国別の参加者数に上限を設定することがあります。
5.FPCJ担当:山内(Tel: 03-3501-3405)
6.備考:
(1)写真・TV撮影は一部制限があります。担当者の指示に従ってください。
(2)当センターはツアー中に生じるいかなる不都合、トラブル、事故等に対して、一切責任を負いません。