実施日 : 2020年02月04日 - 05日
報告:百舌鳥・古市古墳群プレスツアー
投稿日 : 2020年03月26日
2019年7月、堺市、羽曳野市、藤井寺市に所在する「百舌鳥・古市古墳群」が大阪府初となるユネスコ世界遺産に登録されました。
この古墳群について、以下のテーマで外国メディア特派員向けのプレスツアーを実施しました(主催:百舌鳥・古市古墳群世界遺産保存活用会議/企画運営:公益財団法人フォーリン・プレスセンター)。
I. 100万人の都市のなかで守られてきた1600年前の墳墓群
Ⅱ. 開発とのせめぎ合いのなか、文化財をどう未来に残していくか
Ⅲ. 世界遺産登録後の地元自治体や企業の動き
Ⅳ. 古墳時代にルーツを持つ刃物職人の技
ヘリコプターからの古墳群の撮影に加え、自治体関係者から考古学者、地域住民、地元企業まで、古墳を取り巻く様々な人々に取材しました。
本プレスツアーには、中国、台湾、香港、米国、フランス、ロシアのメディア計8社から10名の記者が参加しました。
※本プレスツアーは、百舌鳥・古市古墳群世界遺産保存活用会議主催、フォーリン・プレスセンターが企画・運営しました。
※取材先の詳細については、こちらのプレスツアー案内をご覧ください。
1日目:2月4日(火)
【上空からの撮影】
八尾空港に到着した記者一行は、数名ずつヘリコプターに搭乗し、約30分間上空から眼下に広がる大小の古墳を撮影しました。大阪府教育庁文化財保護課の三好玄さんから古墳群の概要について説明を受けた記者たちからは、「なぜこの形(鍵穴)なのか」「古墳の大きさの違いは埋葬された人の身分の違いを反映しているのか」「位置と大きさに意味があるのか」「中国の文化的影響はあるのか」といった質問が相次いで挙がりました。
【仁徳天皇陵古墳と「まもり隊」の活動】
記者一行は、宮内庁が管理する、日本最大の古墳である仁徳天皇陵古墳を訪れました。そこで、ボランティアグループ「仁徳陵をまもり隊」事務局長の草野利夫さんから、近隣住民が何世代にもわたって古墳周辺の掃除をしてきたことや、地域社会がいかに古墳を大切に守ってきたかを聞きました。世界遺産登録について草野さんは、「嬉しさの半面、怖さもある」とし、どうすれば世界遺産として恥じないように守っていけるか、また外国人が来やすくできるかが課題だと話しました。
【いたすけ古墳】
堺市民の力によって戦後の開発による破壊から守られた「いたすけ古墳」。歯科医で在野の考古学者でもある宮川徏さんは、破壊一歩手前で古墳を守った人々の一人です。記者一行は、いたすけ古墳を前に、宮川さんへのインタビューを行いました。当時学生だった宮川さんが古墳を守るため立ち上がったこと、市民活動によって保存が実現した経緯など、記者たちはその話に熱心に耳を傾けました。また、築造当時、古墳の大きさは人が両腕を横に伸ばした長さで測られていたという宮川さんの説明に、記者たちは手を広げて横に並び、イメージを膨らませていました。さら記者たちは、開発のために建設され、教訓を後世に伝えるためにそのまま残されているコンクリート製の橋と宮川さんの姿をカメラに収めていました。次に、堺市博物館に場所を移し、引き続き宮川さんから、戦中・戦後の古墳群を巡る体験や、「鉤状武器」など古墳からの出土品などについて聞きました。
【堺市・ハニワ部長】
堺市博物館を訪れた記者一行の前に現れたのは、百舌鳥・古市古墳群が所在する3市のキャラクター、「ハニワ部長」(堺市)、「つぶたん」(羽曳野市)、「まなりくん」(藤井寺市)でした。記者たちは、世界遺産登録に向けて活躍してきた堺市のハニワ部長に、その誕生の経緯や活動内容、世界遺産登録後の今、古墳を観光にどう活かすかについて聞きました。ハニワ部長は、「海外からの観光客増加に伴い、堺市では看板の多言語化を進めているほか、博物館のリニューアルを考えている。古墳の全貌が掴めるよう気球などで上から見られるようにすることも検討している」と語りました。このインタビューの後、記者たちは堺市博物館が導入しているヘッドマウントディスプレイを装着し、百舌鳥・古市古墳群のVRを体験しました。
2日目:2月5日(水)
【津堂城山古墳】
藤井寺市にある津堂城山古墳は、4世紀後半に築造された大型の前方後円墳です。この古墳の最大の魅力は、外から眺めるだけでなく、墳丘上に登ることができ、墳丘の頂から四方の景色を楽しめるところにあります。記者たちは、1912年にこの古墳から出土した長持形石棺のレプリカや石棺から発見された副葬品が展示されているガイダンス棟を視察しました。記者からは、宗教とのかかわりや朝鮮半島との関係、埴輪がどこから出土したかなどの質問が挙がりました。続いて一行は、墳丘に登り、藤井寺市の職員から市が保存のために進めている私有地買い上げ施策について説明を受けました。
【羽曳野市文化財展示室・整理室】
百舌鳥・古市古墳群が所在する各市では、古墳から出土した遺物の修復が専門家によって日々行われています。記者は、古墳から出土後に修復された埴輪や土器、装飾品を中心に展示している羽曳野市の文化財展示室を訪れ、同市の文化財保護課の職員である伊藤聖浩さんより、文化財を修復し展示する意義や東アジア地域との交流がわかる展示品などについて説明を受けました。記者は人物埴輪や、金属製の魚佩(ぎょはい)、花形飾りなどを熱心に撮影していました。記者からは、銅や金の当時の入手方法などについて質問がありました。
展示室に隣接する整理室に移動した一行は、土器の実測をはじめとする修復の現場を視察し、その細かい作業に感嘆している様子でした。伊藤さんは、「重要な遺跡は史跡になるが、その他の多くは開発に伴う発掘調査が終わればその現場を見ることができなくなってしまう。記録を残すことで、どこから出土したかなどを広く知ってもらいたい」「世界遺産登録をきっかけに、文化財を保護し、文化財を活かしたまちづくりをしていこうという意識が高まればありがたい」と語りました。
【大蔵屋】
応神天皇陵古墳をはじめとする古墳が点在する羽曳野市にある「河内こんだハニワの里 大蔵屋」は、埴輪づくり体験ワークショップの開催や、多種多様な古墳グッズを販売するショップです。地元の印刷会社である大蔵印刷工業が2019年4月にオープンさせました。ここを訪れた記者一行は、古墳や埴輪をモチーフにした料理が詰め込まれた同店オリジナルの「はにわ弁当」の昼食を楽しみました。次に、代表取締役の山本正明さんと社員の朝野亜紀子さんから概要説明を受け、「古墳をより身近に楽しめる場を作って地域を盛り上げたい」との思いや、インバウンド客の利用状況、SNSやイベントを通じた「古墳女子」の活動について聞きました。記者たちは、埴輪づくり体験ワークショップの様子も撮影しました。
【水野鍛錬所】
長い歴史を持つ堺の刃物は、一本ずつ手作りで仕上げる職人技で知られています。近年世界的な和食人気の高まりを受け、海外からも多くの料理人がこの地を訪れています。堺の刃物技術のルーツは仁徳天皇陵古墳の築造にあると言われ、鉄製工具を生産する職人集団が堺に定住したことで、この地で鍛冶技術が発達したと考えられています。プレスツアーの締めくくりに、記者一行は、創業約150年の老舗、水野鍛錬所の包丁づくりを取材しました。記者たちは5代目当主の水野淳さんが鎚を振り包丁を鍛錬する姿を熱心に撮影しました。その後、水野さんへのインタビューを行い、鍛錬所が国宝・法隆寺五重塔の先端の九輪に備えられた「四方魔除け鎌」を奉納していることや、技術を獲得するまでの道のりについて聞きました。記者からは、鋼の産地、熟練技能の学び方についてなど多くの質問が挙がりました。
◆本プレスツアーに関する報道の一部をご紹介します。(一部タイトルはFPCJ仮訳)
▽新華通信社(中国/通信社) ※転載含む
「探访日本世界遗产“百舌鸟和古市古坟群”」(中国語版)
(大阪初の世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を訪ねて)
(1)http://www.xinhuanet.com/world/2020-02/07/c_1210465185.htm
(2)http://www.xinhuanet.com/asia/2020-02/07/c_1210465185.htm
(3)https://3w.huanqiu.com/a/3458fa/3ww3cNhwVMN?agt=8
(4)http://www.sohu.com/a/371248828_115402
「Ancient tombs in Osaka Province, Japan」(英語版)
(日本の大阪府にある古代の墳墓)
(5)http://www.xinhuanet.com/english/2020-02/06/c_138759447.htm
(6)https://enapp.chinadaily.com.cn/a/202002/06/AP5e3b7cd8a3103a24b1106033.html
(7)http://global.chinadaily.com.cn/a/202002/06/WS5e3b7cd6a310128217275663_1.html
(8)https://www.globaltimes.cn/content/1178695.shtml
「大阪初の世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を訪ねて」(日本語版)
(9)http://jp.xinhuanet.com/2020-02/11/c_138774110_2.htm
(10)https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/大阪初の世界遺産「百舌鳥・古市古墳群」を訪ねて/ar-BBZRSV0
▽思考HK(香港/オンライン)
「大阪府誕生新的世界文化遺產」
(大阪府に誕生した新たな世界遺産)
(11)https://www.thinkhk.com/article/2020-03/16/40054.html
「大阪千年古墓土俑上電視爆紅」
(大阪、千年の墳墓)
(12)https://www.thinkhk.com/article/2020-03/16/40057.html
「源於日本古墳時代的「堺之刃物」」
(日本、古墳時代にルーツを持つ「堺の刃物」)
(13)https://www.thinkhk.com/article/2020-03/16/40058.html