実施日 : 2024年09月11日 - 12日
報告:岩手県プレスツアー:伝統産業の次世代への継承
投稿日 : 2024年12月10日
人口減少・高齢化が進む中での岩手県の伝統産業の後継者育成、海外輸出や現代のライフスタイルに合わせた新たな製品開発の取り組みなどを外国メディアの報道を通して海外へ広く発信するため、「伝統産業の次世代への継承」をテーマに、伝統工芸品に共通する漆を軸としたプレスツアーを実施しました。
記者たちは、漆の生産拡大が急務となっている現状について話を聞き、漆の採取現場を視察しました。続いて少子高齢化が進むなかでの漆器や南部鉄器の担い手となる職人育成の取り組みや、海外輸出に積極的に取り組む南部鉄器の工房、現代のライフスタイルに合わせた商品開発を進める岩谷堂箪笥や漆器の工房を取材し、各所で工夫を重ねながら伝統の継承に向けて努力する人々に出会いました。
今回のプレスツアーには、中国、韓国、台湾、ベトナム、インド、ドイツのメディアなどから計8名の記者が参加しました。
※本ツアーは岩手県が主催し、フォーリン・プレスセンターが企画・運営しました。
※取材先の詳細については、こちらのプレスツアー案内をご覧ください。
・・・・・・・・・・・・・・・ 1日目 ・・・・・・・・・・・・・・・
<株式会社小西美術工藝社 二戸支社>
記者一行は、小西美術工藝社の二戸支社を訪れ、同社の取締役副社長兼漆生産部門総責任者の福田達胤さんから、漆の基本情報や、文化庁の方針によって文化財修復に使用される国産漆の生産が急がれる現状や、漆掻き職人の育成に関する説明を受けました。
続いて、ウルシ林を訪れた記者たちは、若手の漆掻き職人がウルシの木から漆を採取する「漆掻き」の実演を視察し、熱心に撮影しました。
記者たちからは、ウルシの成育に温暖化が与える影響や、国産と海外産の漆の品質の違いなどについて質問が挙がりました。また、漆掻き職人に対して、漆掻きを行う際の手法や、一日の仕事の流れなどについて質問を投げかけていました。
<安比塗漆器工房・安代漆工技術研究センター>
記者一行は、素朴なデザインが特徴の安比塗の工房である、安比塗漆器工房と、漆塗り職人の育成を行う安代漆工技術研究センターを訪れました。
まず、安比塗漆器工房では、代表理事の工藤理沙さんから安比塗の特徴や同工房の設立経緯や、安代漆工技術研究センターとの関係についての説明を受けました。工房内では、安代漆工技術研究センターの卒業生である職人たちが漆塗りと研磨の作業を行う様子を視察しました。記者からは、政府から事業に対してどのような支援を希望するか、漆器の寿命、海外輸出の有無などについて質問が挙がりました。
続いて一行は、八幡平市が運営する安代漆工技術研究センターを訪問。同センターで約20年に渡り指導員を務める冨士原文隆さんから、伝統産業の次世代への継承に向けた長年の取り組みや、従来の徒弟制度ではない、一から「教える」方式で技術を伝える教育方針について説明を受けました。その後、様々な年齢、出身地の研修生たちが漆塗りの研修を受ける様子を視察しました。
記者たちは、卒業生たちの進路や、同センターの評判、研修生たちの一日の流れなどについて質問しました。
記者一行は、若手職人の育成に注力している南部鉄器の工房、タヤマスタジオ株式会社を訪問しました。記者たちは、まず代表取締役の田山貴紘さんから、南部鉄器の概要と若い職人が早い段階で全工程に関わることができるよう意図して開発された鉄瓶「あかいりんご」について説明を受けました。
続いて工房内を視察し、20代の若手職人たちが砂型の作成や、研磨作業、漆の焼き付けを行う様子と、田山さんによる砂型への模様押しの実演を視察し、南部鉄器の製作工程への理解を深めました。
記者たちは、南部鉄器の製作におけるAIの活用の可能性や、伝統的な美をいかにして継承していくかに対する田山さんの考え、次世代への伝統の継承にかける思いなどについて、活発に質問していました。
・・・・・・・・・・・・・・・ 2日目 ・・・・・・・・・・・・・・・
<株式会社及富>
記者一行は、1848年に創業した南部鉄器の老舗である、株式会社及富を訪問しました。
同社の9代目でアートディレクターの菊地海人さんから、同社の歴史や、奥州市の南部鉄器の起源、1950年代から他の工房に先駆け着手した海外輸出、海外の模造品への対策をきっかけにEコマースに注力してきた経緯について説明を受けました。
その後、工房で職人による砂型の作成を視察し、代々工房で受け継がれている鋳型などを見学しました。
記者たちは、模造品の発生に伴い、同社の製品が正規品であることの証明をどのように行っているかや、模造品対策として自社の鉄瓶にICチップ等を埋め込むといった手立ては検討しているのか、EコマースのためのWebサイトの運営・管理の方法、1日目に見学したタヤマスタジオの鉄瓶と同社の鉄瓶の作り方の違い、海外製品との違いなどについて質問しました。
記者一行は、重厚な漆塗りと華麗な彫金を施した金具で知られる「岩谷堂箪笥」を製作する、岩谷堂家具センターを訪れました。
まず八重樫新也社長から、岩谷堂箪笥の概要や歴史、特徴について説明を受けました。その後、工場で八重樫さんから製作工程についての説明を受けながらその職人技を熱心に見学しました。
また、伝統的な技法を取り入れ、現代のライフスタイルに合わせてデザインされた「岩谷堂くらしな」シリーズの製品も視察しました。特に「忍び」と呼ばれる隠し箪笥が備えつけられている伝統的な箪笥の実演では、記者たちは職人の技術力によってなせる技に感心していました。
記者たちは、箪笥に使われる木材の産地や、地球温暖化による影響、箪笥を購入する主な客層などについて質問していました。
岩谷堂家具センターでの取材の後は、岩谷堂箪笥に使用される金具を製作している「彫金工芸菊広」を訪問し、伝統工芸士の及川洋さんから、金具制作の工程やその伝統技術について説明を受けました。
工房内で及川さんが様々な種類の鑿を駆使し、金属板に伝統的な模様を彫り上げる様子を視察し、記者たちはその技に見入っていました。また、ペットの写真を元にした金具やアクセサリーの制作など、伝統技術を活かした及川さんの新しい取り組みに興味を示していました。
その後、記者たちは、岩谷堂箪笥の彫金金具制作技術の詳細や、金具の新たな市場の開拓などについて質問しました。
<中尊寺 金色堂・讃衡蔵>
記者一行は、中尊寺金色堂を訪問しました。今年建立から900年を迎えた金色堂では、2020年に国産(岩手産)の漆を使用して亀裂部分を埋める修理が行われており、小西美術工藝社の職人がその作業にあたりました。記者一行は、修復の検討会議にも参加した中尊寺執事長の菅原光聴さんによる案内で、同寺を取材しました。記者たちは、まず漆を用いた仏像などが収蔵されている讃衡蔵を視察した後、金色堂を訪れ、菅原さんから修復に関する説明を受けながら、修復が施された箇所を確認しました。
記者たちは、修復作業に際しての仏像の取り扱いや、金色堂の修復が行われるまでの経緯、金色堂にダメージを及ぼしうる要因は何か等、文化財保存に関する質問を行いました。
<有限会社丸三漆器>
記者一行は、今回のツアー最後の取材先として華やかな装飾が特徴の秀衡塗の工房「丸三漆器」を訪問しました。
丸三漆器の5代目社長である青柳真さんから、同社の歴史や、現代のライフスタイルに合わせた新商品「FUDAN」の開発に関する説明を受けました。
その後記者たちは、同社の工房にて職人たちによる秀衡塗の製作風景を視察し、その職人技を間近で熱心にカメラに収めていました。また、青柳真さんの弟で「FUDAN」シリーズを開発した塗師の匠郎さんからも、新たなブランドを開発した経緯とその挑戦について話を聞きました。
記者たちは、秀衡塗をいかに次の世代に継承していくかについての青柳さん兄弟の考えに耳を傾けていました。
◆本プレスツアーに関連する報道の一部をご紹介します(タイトルはFPCJ仮訳)
Vietnam News Agency (ベトナム)
10月3日付 「Ninohe – Thủ phủ sản xuất sơn mài của Nhật Bản」
(二戸市 - 日本の漆生産の中心地)
10月15日付 「Đồ sắt Nambu - Biểu tượng văn hóa Nhật Bản」
(南部鉄器 - 日本文化のシンボル)
Vietnam Television(ベトナム)
9月19日付 「Độc đáo nghệ thuật tủ gỗ Iwayado Tansu Nhật Bản」
(ユニークな日本の木製キャビネットアート-岩谷堂箪笥)
中央日報(韓国)
9月19日付 「전통을 지킨다는 것」
(伝統を守るということ)
寰宇新聞 / 亜洲衛星電視(台湾)
10月14日付 「900年受多次災害 日本岩手中尊寺大翻修重生」
(900 年の間に多くの災害があった後、日本の岩手県の中尊寺は大規模な改修を経て生まれ変わった)
第一財経(中国)
10月30日付 「无法量产的“伴手礼”,“匠人精神”的另一面」
(大量生産できない贈り物、職人技の裏側)