東京2020パラリンピック開幕、閉幕、大会評価
投稿日 : 2021年09月14日
注目すべき海外メディアの日本報道
(8月23日~9月5日)
東京2020パラリンピック開幕、閉幕、大会評価
【パラリンピック開幕】
1964年に続き世界で初めて2回目のパラリンピック開催都市となる東京では、先の五輪が概ね成功裡に終了したことから、パラリンピックへの期待も盛り上がりを見せる中、8月24日夜、開会式を迎えた。主要メディアは、五輪と同様に感染拡大の緊急事態宣言下で、無観客の「異例」の大会となるが、「色彩豊かで躍動的な式典」で開幕したと速報した。また、その背景で、開幕直前には一日の国内感染者数が2万5千人を記録するなど、パンデミック下の大会への懸念や不安も引き続き伝えられた。
CNN(電子版)は、「活気に満ちた開会式でパラリンピック開幕」との見出しで、祝祭ムード溢れ、活気ある式典では、「結束と平和」の象徴としてアフガニスタン国旗も入場したと報じた。BBC(電子版)「東京パラリンピック:異例の大会、それでも選手は輝きたい」は、異例の大会ではあるが、選手は希望を見出しているとしつつも、感染拡大下の東京での開催にはなお課題もあると報じた。また、The New York Times紙「天皇ご一家が長く支援してきたパラリンピック、徳仁天皇が開会宣言」(Motoko Rich東京支局長)は、現在の上皇上皇后両陛下の「障がい者も多くの人々と同じようにスポーツをするべきである」とのお考えのもと、1964年大会からパラリンピックが採用されたことについて触れ、これがきっかけとなって、障がい者に対する人々の態度や世論が徐々に変化したとする識者の見解を引用して報じた。一方で、AP通信は25日付「パラリンピック、五輪同様に空席のスタジアムで開会」(Stephen Wade 記者)で、東京の感染者急増、選手村でも陽性者が発生、IPC会長らは大会と感染状況に直接関係はないとしているが、専門家は、大会の存在が人々の安全性に対する誤った意識や気の緩みに拍車をかけ、感染拡大に繋がっている可能性を指摘したと報じた。
The Economist紙は、27日付「パラリンピックはますます力を増している」で、1964年東京大会は参加選手378名、競技9種目であったが、今大会は161の国と難民選手団併せ4403選手が参加、女性選手や競技種目数も過去最多となったと説明。さらに、全世界の視聴者数は累計42.5億人と予想され、IPCは、障がい者を取り巻く問題への関心拡大に繋がることを期待している、と報じた。また、30日付The New York Times紙「二人のアフガニスタン選手はカブールから東京に着くまでどう苦難を乗り越えたのか」(Motoko Rich東京支局長、他)は、タリバンの政権奪取による混乱の影響で来日できず参加断念が伝えられていた、二人のアフガニスタン選手が、豪州政府から緊急ビザを発行され、軍用機でドバイを経由しパリに入り、1週間の滞在を経て、来日が実現した旨、詳細に報じた。
【パラリンピックが謳う「共生社会」】
大会期間中には、パラリンピックの謳う「共生社会」の実現や多様性を尊重する理念に関して、日本社会に照らして考察する報道が散見された。障害に対する意識の変化や障がい者を取り巻く社会的問題などに触れつつ、日本では障がい者が社会に真に受け入れられている存在であるか否かについて論じている。
BBC(電子版)は、8月25日付「日本で障がい者として暮らすこと」で、パラリンピック開催都市東京で暮らす3人の障がい者へのインタビューを通じて見えてくる、障がい者の雇用やバリアフリー対応などの実情について報じた。
The Guardian紙は、30日付「進歩はあったが烙印が残る:日本、パラリンピックの尊重にためらい」(Gavin Blair記者)で、1964年大会から57年を経て、日本の障がい者対応には顕著な進歩がみられるが、社会規範への一致や同調に重きを置く文化の烙印は残っており、パラリンピックは五輪のように尊重されていないとした上で、パラリンピックのチケット数が五輪やロンドン大会に比べて少ないこと、TV放送の少なさ、旧優生保護法の影響などに触れつつ、最後に「根本的な法制度や社会の変化がなければ、パラリンピックから障がいについての前向きなメッセージを発しても全く意味がない」との日本障がい者協議会代表のコメントを引用して報じた。
The New York Times紙は、9月3日付「日本の障がい者は隠れた存在、パラリンピックがもたらした光はあたり続けるか」(Motoko Rich東京支局長、Hikari Hida記者)で、パラリンピックで障がい者がアクセス可能な環境整備が進んだことで彼らの日常生活が改善されるだろうが、長く障がい者を社会から遠ざけてきた歴史がある日本で、パラリンピックの注目がどれくらい続くか疑問を呈しつつ、法整備や教育・雇用など他国に比べて遅れている日本の現状を指摘した。他方で、パラリンピックは障がい者の可能性を刺激し、さらにそれが健常者の心を開く見込みがあると示唆し、水泳メダリスト鈴木選手の「障がい者スポーツも健常者スポーツ同様に盛り上げてもらいたい」とのコメントで結んだ。
Washington Post紙は、4日付「障がい者の支援者は、パラリンピックが介助犬の素晴らしさを披露する場になるよう願う」(Michelle Ye Hee Lee東京支局長、Julia Mio Inuma記者)で、選手と共に開会式に傘下した介助犬がSNS等で話題となり、介助犬利用者はパラリンピックが介助犬の受入拡大を促すことを期待しているとしつつも、日本では身体障害者補助犬法により公共施設や交通機関への介助犬の立ち入りも許可されているが、多くの利用者が入場拒否にあっている現状を指摘。今大会の招致により、インフラ整備や法改正は進んだが、文化面の理解には目立った進展がなかったとの専門家の見解を引用し、報じた。
【パラリンピック閉幕、大会の評価】
招致から8年を要し、五輪同様、緊急事態宣言下の無観客開催となった今大会は、12日間の日程をすべて終え、9月5日夜、閉幕した。主要メディアは、色彩豊かで躍動的な閉会式の模様と共に、パラリンピックの意義にも触れ、選手の素晴らしいパフォーマンスを称えつつ速報した。さらに、東京2020オリンピック・パラリンピック両大会を通じてのレガシーを総評した。
AP通信は、9月5日付「パラリンピック閉会は、東京五輪8年の軌跡の完結を示す」(Stephen Wade 記者)で、招致から8年を要し、緊急事態宣言下で行われた異例の大会であったものの、橋本会長の「大きな問題もなく閉幕」とのコメントを紹介し、大会の完結を報じた。CNN(電子版)は、「東京パラリンピック、色彩豊かで躍動的な閉会式で終わる」との記事で、パーソンズIPC会長の「魔法のような12日間、選手は世界に自信と幸福と希望を与え、そして、(人々の)人生を変えた」とのスピーチを引用しながら、パンデミック最中の無観客のスタジアムで行われた閉会式の模様を伝えた。同時に、東京2020パラリンピック総集ページを開設し、大会開幕前から閉幕に至るまでの関連記事、画像、動画をまとめて掲載しており、その中では、ワクチン接種不可で感染リスクがありながらも闘う73歳の伝説的パラ卓球・別所久美子選手がインタビュー動画で紹介されている。
The Guardian紙「記憶に残るパラリンピックの理想的な送り出し」は、閉会式のテーマ「違いが輝く」は、大会が当初より目指していた姿であると評し、英国選手団の活躍に触れつつ、国際パラリンピック委員会が主導した「Wethe15」キャンペーンについても紹介した。同日付「東京2020のレガシーは今後何年にもわたって議論の的に」(Gavin Blair記者)では、パンデミックと猛暑の下開催されたオリンピック・パラリンピック両大会を概ね成功と総評しながらも、巨額の経費負担と損失、感染者急増など負の側面に焦点をあてる一方で、40年毎に発生する大会中止や日本の首相が五輪後辞めるというジンクスについても触れながら報じた。また、BBC(電子版)は「東京パラリンピック、英国の歴史書は日本で書き換えられた」と題し、メダル獲得数が中国に次ぎ二位となった英国選手団の活躍を称える記事の中、「東京へお別れの大合唱」との小見出しで、感染急増の東京で無観客で開催された大会は、日本の最先端技術と文化、さらにパンデミック下の開催への挑戦を称える、光り輝く閉会式で幕を閉じたと報じた。
(了)