東京五輪プレイブック初版公表 /森会長の女性理事を巡る発言に波紋、そして辞任へ
投稿日 : 2021年02月15日
注目すべき海外メディアの日本報道
(2月3日~11日)
東京五輪プレイブック初版公表/
森会長の女性理事を巡る発言に波紋、そして辞任へ
2月3日、東京2020組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)は、東京大会の参加者に適用する新型コロナウイルス感染防止策の指針「プレイブック」(ルールブック)の初版を公表した。出入国前の検査や滞在中の行動規範が具体的に示された初の規則集の内容について英米主要メディアが速報した。同日は、日本オリンピック委員会(JOC)の評議員会における森喜朗東京2020組織委員会長の女性理事を巡る発言が物議を醸し、翌日の謝罪会見やその後の辞意表明に至る一連の騒動についても多くの報道がなされた。
東京五輪プレイブック初版公表
【米国】
The New York Times紙は3日付「東京五輪プレイブック:検査あり、隔離なし、観客おそらく(あり)」( Motoko Rich東京支局長他)で、東京2020組織委員会等から発表されたプレイブックは、わずか32ページで、詳細の不足が目立ち、新型コロナの世界的流行下でオリンピックを安全に進めることができるのか疑問視する批評家の懸念の緩和には繋がらないだろうと伝えた。組織委員会は、大会を長年の犠牲と練習の頂点とみる選手たちの安全を確保する必要があると同時に、開催に益々懐疑的になっている日本国民の支持を取り戻さなければならないとし、今回発表されたプレイブック初版は暫定版で、感染状況に応じて更新される、観客の訪日や観戦を許可するのかの決定は春まで待つと述べた、と報じた。
CNN電子版は、同日付で「参加選手にワクチン接種は必要ないと組織委員会が公表」を掲載。東京2020参加のルールや安全対策の概要を記した「プレイブック」の初版が発表され、選手や大会関係者に新型コロナウイルスのワクチン接種は義務付けないとする一方で、IOCは各国に対し、日本国民に対する配慮を含む安全な大会環境に資するため、選手団に訪日前のワクチン接種を推奨し支援すると述べている、と報じた。加えて、プレイブックは、公共交通機関の使用禁止、マスクの常時着用、ハイタッチ、握手などの接触を避ける規則について記載し、違反した場合は出場資格の取り消しもあり得るとしており、今後4月と6月に改訂される予定である、とも伝えている。
【英国】
The Guardian紙は、2日付「東京五輪、再中止なければ、間違いなく開催か?」(Justin McCurry 東京特派員)と題する記事で、近代五輪125年の歴史の中で東京2020大会が初めて延期となって一年が過ぎた今、国内世論の反対や、選手、スポンサー、ボランティアの中には懐疑的な見方があるとし、世論調査で国民の80%以上が延期もしくは中止を支持していると説明。また、日本政府はワクチンがオリンピック実施に向けた救世主になると見ているが、大会は唯一ワクチン接種がまだ始まらない先進国で開催されるだろうとして、接種計画の遅れを指摘している。翌3日付でプレイブックについて「五輪組織委員会は、静寂の東京大会で歌唱を禁ずる」(同東京特派員)を掲載。応援は歌や声援ではなく拍手で行うことが求められ、選手は滞在中定期的なPCR検査が課されるなど、プレイブックでは、東京大会を超感染拡大源としないための措置が開会後に選手や観客に適用される見込みであると報じ、IOC五輪統括部長はプレイブックが大会に関わる全ての人々の安全を守ると自信を示しているが、日本人の多くは依然として大会の開催を望んでいないと伝えた。
The Times紙も3日付「パーティやセックス禁止、東京五輪選手への新ガイドライン」を掲載。選手らは、大会終了後のパーティやその後の性的な関係は容認しないと明示され、握手など身体的接触の禁止、無許可での公共交通機関の利用禁止やマスク着用義務など、IOC五輪統括部長は「関係者全員の健康と安全を守るためのプレイブックだ」と述べ、運営側は開催を主張するが、日本は感染急拡大で緊急事態宣言が再発令により外客の入国制限が行われている状況で、開催できるかは未だ不透明だと報じた。
同日付でFinancial Times紙も「応援なし:東京が五輪開催に向けたルールの概要をまとめる」(Robin Harding東京支局長)を掲載。大会を実現するために作成されたプレイブックは、定期的な検査や14日間の行動制限、応援禁止などのルールを定めており、違反者には退場のリスクがある、と説明した上で、コロナ検査や衛生違反を巡る論争が東京大会の特徴となることを示唆しており、主催者が大会中止を回避するために取っている極端な措置だ、と断じつつ、厳しい措置により、日本国外からの観客が参加できる見込みは益々なさそうだと報じた。また、組織委員会はワクチン未接種の大会参加者を基準に大会を計画しており、プレイブックでは、ワクチン接種の有無に関らず、ここに記載されているすべてのルールが適用されるとしている、と伝えている。
森会長の女性理事を巡る発言に波紋、そして辞任へ
The New York Times紙は3日付で「東京五輪組織委員会長が女性を見下した発言を謝罪」(Motoko Rich東京支局長、Hikari Hida記者、Makiko Inoue記者)を掲載。選手らの安全が確保できることを内外に再確認させるためのガイドラインを発表した組織委員会は、直後に報道された森会長の発言により、コスト増大や開催反対の世論に加えて、新たな騒動に直面しているとし、「ジェンダーの平等は大会基本的原則であり、残念な発言だ」との元アスリートのコメントを引用した。会長辞任を求める声があがる中、ソーシャルメディアでは、同発言に対して組織委員会中に反発する者がいなかったことへの落胆が示された、と報じた。
4日付CNN電子版は、「東京五輪組織委員会長、女性が会議で話しすぎるという性差別的発言を謝罪」(Junko Ogura東京特派員他)を掲載。今回の森会長の一連の発言は、女性が職場や地位向上を求める際に常に性差別の問題に直面する日本で、即刻物議を醸したとし、世界経済フォーラムの世界男女格差指数によると、日本は「先進国の中で群を抜いて格差が大きい」とされ、上場企業の役員に占める女性の割合はわずか5.3%、国会議員は10%で、政界における女性代表の割合も世界最低水準の一つであるという調査結果を踏まえ、153カ国中121位にランク付けされていると最新のデータを引用しながら伝えている。
The Washington Post紙も同日付「東京五輪組織委員会の森会長、”女性たちは会議で発言が多すぎて”困る(annoying)”と発言」で、森会長の発言に対して、委員会メンバーからは笑い声があがったと会議の様子を伝え、(日本オリンピック委員会は女性理事の割合を40%以上にすることが目標だが)11月の段階で女性メンバーは24日人中わずか5人しかいないと報道。また、森氏の総理大臣時代の過去の失言について触れ、オリンピック委員会トップとしての資質を問うた。また、5日付「女性は会議で発言が多すぎるとの発言で物議。東京五輪組織委員会の森会長は謝罪するも、辞任は拒否」(Simon Denyer東京支局長)では、森会長の謝罪会見の様子を報道。過去の同氏の問題発言について触れ、また、同発言時に会議内の他の参加者から異論の声が上がらなかったことについて、日本国内で失望する声(dismay)が拡がった伝えた。
英国メディアも、The Times 紙が4日付「東京五輪組織委会長、『女性は会議で話が長すぎる』といった後で、辞任は拒否」(Richard Lloyd Parry東京支局長)を掲載し、同氏の発言内容と共に「森氏の立場を考えると非常に残念」との元柔道選手・山口香JOC理事のコメントを伝えた。同日付でFinancial Times紙は「森会長『女性は話が長すぎる』の発言後、辞職は拒む」(Robin Harding東京支局長)で、この騒動はコロナで1年延期になった東京五輪に更なる挫折をもたらしたと述べて過去の失言について言及した。BBCは5日付「森喜朗会長、性差別騒動に謝罪」を掲載し、ツイッターで「森氏、引退」がトレンド入りするなど大きな反響を呼んだと報じた。
この他、豪メディアではThe Sydney Morning Herald紙が3日付「声援なしのオリンピックーIOCがコロナ感染対策含む初版のプレイブックを公表」、The Australian紙が同日付「東京五輪、ワクチン・ルールなし」を報じ、韓国メディアでは、中央日報(日本語版)が4日付「『女性たくさん入る会議は時間かかる』東京五輪委員長の発言に非難殺到」、朝鮮日報(日本語版)も同日付「『女性が多いと会議が長引く』日本の五輪委員長の女性蔑視発言が波紋」を掲載するなど、多くの報道がなされた。
その後の辞任についても各社が一斉に速報した。
10日付Financial Times紙「性差別騒動を巡り、東京五輪会長の辞任への圧力高まる」(Robin Harding東京支局長、Leo Lewis記者、Kana Inagaki記者)、同日付The Times紙「日本の森喜朗五輪会長、性差別のからかいの後、追い詰められる」(Richard Lloyd Parry東京支局長)、11日付BBC電子版「森喜朗東京五輪会長:性差別発言を巡り辞任する」、The Washington Post紙11日付「『女性は話しすぎる』と言った日本五輪会長は発言を巡り辞任する、と報じられる」(Simon Denyer東京支局長)同日付The New York Times紙「性差別発言を巡り、東京五輪会長は辞任」(Motoko Rich東京支局長他)、同日付The Wasll Streer Journal紙「日本の森喜朗五輪会長、性差別発言の後に辞任」(Alastair Gale記者、Chieko Tsuneoka記者)、同日付CNN「東京2020組織委員会長、性差別発言に続き辞任」(Junko Ogura記者他)