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安倍首相、辞任を表明

投稿日 : 2020年09月02日

注目すべき海外メディアの日本報道

(8月28日~31日)



安倍首相、辞任を表明



 

 

 

安倍晋三首相は8月28日の記者会見で、秋冬を見据えた今後の新型コロナウイルス対策について説明した後、自らの健康問題を理由に「総理大臣の職を辞することにした」と辞任を表明した。各国主要メディアは、この突然の発表を速報で伝えつつ、憲政史上初の7年8ヵ月におよぶ安倍政権の実績と評価、外交をはじめとする今後の国政運営、次期首相候補などについて一斉に報じた。

 

 

 

【英国】

Financial Times紙は、28日付「安倍政権は貿易の成功と断念した野望が特徴」(Robin Harding東京支局長)で、北方領土、拉致問題、憲法改正、デフレ脱却等の最重要課題は未達だと批評家は厳しい見方を示したが、安倍首相は世界中で貿易協定を築き、大統領就任前のトランプ氏を訪問して主導力を発揮し、数十年にわたる経済停滞と福島原発事故に疲弊した日本に新たな自信を与えたとし、最大の遺産は官邸をその権力と国民の負託に応えることにおいて再構築したことだと報じている。また、社説「安倍晋三の遺産を浪費してはならない」では、安倍首相は日本に新しい発想と活力をもたらし、歴代最長在任の首相となったことは自らの遺産を誇るに値する理由であるとする一方、国家主義的でありながら、社会改革への開放性と国際主義的外交政策は驚くべきものであったと指摘しつつ、安倍政権後の日本にとって危険なのは、政治不安定が官僚主権国家の再来に繋がることであり、安倍時代を象徴する大胆さを継続する必要がある、と論じた。

 

29日付The Times紙「安倍首相の活力不足は身体的且つ政治的だった」(Richard Lloyd Parry東京特派員)では、安倍首相の精力的な外国訪問は各国の指導者たちを魅了し、トランプ大統領とうまくやることにも成功したが、コロナ感染拡大による、経済低迷、観光産業の縮小、東京オリンピック延期など、一連の打撃が主要な彼の遺産を台無しにした、と報じた。また、「日本の安倍晋三首相 辞任という”悲痛な”決断を発表」(Richard Lloyd Parry東京特派員)は、安倍首相は保守国家主義傾向をもつ精力的な指導者としての地位を確立し、日本を20年間の経済停滞から脱却させることに一部成功したとし、「日本の卓越した国際外交官であり、第一級の経験豊富な政治家としての主導力を発揮して、地域の繁栄と安定を提唱した」とのモリソン豪首相のコメントを引用して伝えている。さらに、「本紙の見解:安倍晋三後の日本」との論説記事では、健康、経済、国際礼譲における世界的な危機の最中、安倍首相の去就は悪い知らせであり、目標達成には成功してはいないが、首相の考え方は正しかったと評価しつつ、厳しい安全保障情勢の地域における米国との同盟の価値を完璧に理解していた安倍首相の後続は難しく、首相の不在によりG7諸国間の外交が空洞化する懸念が明白であると論じている。

 

The Guardian紙「安倍晋三首相、健康問題で辞任」(Justin McCurry東京特派員)は、北朝鮮による拉致問題やロシアとの領土問題が未解決のまま「志半ばで職を去ることは断腸の思いである」との安倍首相の言葉を引用しつつ、長期停滞後の経済改革、台頭する中国対策、自衛隊の役割拡大などの公約と共に始まった任期に終止符を打つ、と報じた。


The Economist紙「安倍首相が辞任、後任者に手ごわい問題を残す」では、安倍首相は、新型コロナ感染拡大によるオリンピック延期やGDPの記録的な落ち込みなど、暗い雰囲気の中で離任していき、新首相は、巨額の債務、人口減少、攻撃的な中国、予測不能な米国などに取り組まなければならないが、安倍首相の最も有意義な遺産である官邸への意思決定力の集中により、それらの取り組みは容易になるだろうと報じている。


BBC電子版は、28日付「安倍晋三:「アベノミクス」で知られる日本のタカ派の首相」で辞任発表について速報。安倍政権の代表的な政策として「アベノミクス」や憲法改正を挙げ、政権の安定性とスキャンダルにも触れると共に、安倍氏がいなければ、自民党は影響力により内部分裂を克服できる人物を欠くと見られるとし、次期首相は、コロナ禍の国の再建を支援しつつ、党をコントロールするという二重の課題に直面するだろうと、報じた。加えて「安倍首相、健康問題を理由に辞任」では、辞任会見の様子を紹介。安倍首相が普段の会見で使用するプロンプターを使わず、事前準備なしで記者からの質問に回答し、会見途中には、感極まり言葉を詰まらせる様子も見られ、普段の会見と異なる雰囲気であった、と伝えている。

 

 

 

【米国】

The New York Times紙は、28日付「歴代最長在任の安倍首相、持病を理由に辞任」及び「辞任する安倍首相の遺産」(Motoko Rich東京支局長)で、安倍首相辞任会見の様子を伝え、8年に渡る同政権が取り組んだ政策の評価について速報。安倍首相が歴代最長在任したことは最大の遺産であり、国際社会における日本の地位を高め、多くの課題を巡る政策を実質的に変革したとの有識者のコメントを引用しつつ報じた。また30日付「多数の次期首相候補者。彼らはこれから待ち受けるものを理解しているか」は、次期首相は、新型コロナウイルス対策、対中政策、オリンピック延期、米国大統領選など、安倍首相が約8年の在任期間に成し遂げられなかった多くの政策課題に取り組まなければならないと報じている。


The Washington Post紙の29日付「安倍首相、病気を理由に辞任表明」(Simon Denyer東京支局長)は、安倍政権の経済政策「アベノミクス」、集団的自衛権に係る憲法改正、女性活躍推進、中国や韓国、北朝鮮、ロシアとの歴史・領土問題について触れ、国内外の重要政策において、多くの目標は達成されなかったと報じている。一方で、30日付論説「安倍晋三氏は、米国が相応しいとする以上により良い同盟者だった」(David Ignatiusコラムニスト)は、冒頭で、2015年にインタビューした際の安倍首相の印象を「世界の指導者には稀な謙虚さ」と振り返りつつ、首相は、日本の安全保障は、大統領が誰であれ、米国との良い同盟関係が頼りであることを認識しており、その控えめな姿勢(reticence)で、他のどの国のリーダーよりも、予測不可能なトランプ大統領と良好な関係を維持してきたとして、首相の外交姿勢を評価した。29日付社説「安倍首相辞任、日本のみならず米国の国益にも打撃」では、安倍首相は戦後平和主義からより積極的な防衛外交政策への転換を進め、トランプ大統領と良好な関係を構築したと高く評価した上で、首相の辞任は、先鋭化する中国の注視や北朝鮮の核兵器封鎖に努力する米国のアジアにおける国益にとって、大きな痛手であり、後任者は誰であれ弱くなるのは確かだと論じている。さらに同日付で、「前大統領補佐官John Bolton氏による寄稿記事「トランプ大統領を現実近くにつなぎ止めた、安倍首相の辞任は遺憾」を掲載。その中で同氏は、北朝鮮問題をはじめ、日米の安全保障関係の維持発展に尽くした安倍首相の外交努力を高く評価しつつ、同氏は戦後日本の最も結果主義的な指導者であり、辞任は日米両国にとって重大な損失となると述べている。

 

The Wall Street Journal紙の28日付「安倍首相、健康問題を理由に辞任」(Peter Landers東京支局長、Alastair Gale東京特派員)は、安倍首相は史上初の約8年在任し、強固な日米関係の維持構築に貢献したと評価する一方、「安倍首相、アベノミクスの施策未完で離任」(Alastair Gale東京特派員)では、経済立て直しを約束したが、生産性の水準は上がらず規制緩和も進んでいないとし、政権を総称する経済政策「アベノミクス」で、日銀が掲げる実際の目標を達成することは出来なかったと報じている。一方で、「安倍首相の遺産」との社説では、安倍首相が取り組んだ政治、経済、外交の様々な分野の政策について触れ、目標未達が目立つものの、日本をより「普通の国」にしようとした改革の姿勢を評価し、安倍首相の後任にとって、経済再生や、世界的課題において国と国民がより活発な役割を果たすことができるようやるべきことは多いが、安倍首相はそのための基盤を残していると論じた。

 

CNN電子版の28日付「安倍首相、健康問題を理由に辞任」(Kaori Enjoji記者他)は、安倍政権が取り組んだ外交政策は、入り混じった結果(Mixed results)を残したとして、日米関係においては、首相が築いたトランプ大統領との良好な関係により、起こり得た日米貿易戦争を回避することができたと評価する一方、北朝鮮問題では米韓から距離を置かれてしまう局面もあり、中国や韓国、東アジア諸国との関係においては、歴史や憲法改正問題を理由に、改善発展が見られなかったと報じた。他方、30日付「安倍首相の辞任が地域の安定と日米同盟をいかに脅すか」は、歴代最長在任となった安倍首相は、地域の安定の源であると共に、国際規範を重視した確固たる多国間主義者であったとしつつ、首相の後任は国際舞台において日本の競争的な国益の舵取りを担わなければならないと論じている。さらに、中国の台頭に触れながら、安倍首相の去就は地域の安定にとって挑戦となると指摘し、後任者も首相のような日米同盟の確固たる支持者であってほしいとの期待を表明している。




【韓国】

中央日報は31日付社説「安倍首相の辞任、韓日関係改善の変曲点にすべき」で、「アベノミクス」などで長期にわたり日本人の支持を受けた安倍政権は、外交的には保守強硬一辺倒路線で周辺国との衝突を招き、文大統領の民族主義との衝突で日韓関係は1965年の国交正常化以来最悪となったが、この退陣を両国関係を復元する変曲点にしなければいけないと指摘。北東アジアの民主主義国家で米国の同盟国である韓日は安全保障と経済で共存・共栄していくしかない関係であるとした上で、文大統領が新しい首相との協力の意向を明らかにしたことを前向きに評価できると論じた。


朝鮮日報は29日付で、「涙見せた安倍首相『政治は結果が重要、結果出せないようなら退く』」(イ・ハウォン東京特派員)と題し、13年前の退任時と同じ理由である自身の健康問題から辞任を決め、7年8ヵ月続いた「安倍1強時代」に自らピリオドを打った安部首相の会見は痛恨の念が感じられたと伝えた。また、衆議院議員としての活動は続けることから所属する自民党最大派閥・細田派を事実上率いながら水面下で影響力を行使するかもしれないとの見方もあると報じている。また、社説「安倍退陣で「嫌韓政治」「反日政治」が全て終わることを願う」では、韓日両国は引っ越すことのできない地政学的な宿命関係にあり、北朝鮮の核や中国の覇権追及の脅威など課題も山積しており、(悪化した)関係の回復が遅れれば、両国のどちらにとってもプラスにはならないとし、日本の次期首相は「嫌韓政治」をしてはならず、韓国政府も「反日政治」の誘惑を振り切らねばならないと論じている。更に「菅官房長官、次期首相候補に急浮上…安倍首相が後継者に指名か」(イ・テドン東京特派員)では、9月中には新しい内閣が発足する見通しで、有力な次期首相候補として菅官房長官を挙げ、これまで危機管理に優れた能力を発揮してきたことから、今後の政局を収拾するのに的確な人物として評価されていると報じた。


東亜日報は、29日付で「「ポスト安倍」は誰? 「政権ナンバー2」の菅官房長官が有力」(キム・ボムソク東京特派員)を掲載。安倍首相の電撃的な辞意を受け、「ポスト安倍」争いが本格化しているとして4人の有力な候補者の名前を挙げ、中でも第2次安倍内閣から長く危機管理役を果たしてきた菅官房長官が有力視されていると報じた。


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