パトリック・ハーラン氏(タレント) 「日本のニュースを世界に発信したい」
投稿日 : 2016年06月23日
ハーバード大学卒の超エリートでありながら、日本でお笑い芸人としてデビューし、活躍を続けるパックンこと、パトリック・ハーランさん。最近では、ニュース番組の司会や大学講師なども務め、幅広い世代に支持されている。単身日本に来た彼に、日本はどう見えているのでしょうか。現在、テレビに雑誌に講演活動に大忙しのパックンさんに聞きました。
来日のきっかけは
親友の一言
日本で暮らし始めて、もう23年になります。たまに道端で高校生に「日本語うまいね」なんて言われることがあるんですが、少し複雑な気持ちになります。なんと言っても、僕は彼らよりも長い期間日本に住んでいるわけですから!
実はそもそも、日本に興味があったわけではないんです。僕が学生のころはインターネットもそんなに普及していませんでしたから、日本に関する知識といえば、高校の歴史の教科書で勉強したくらい。世界史の先生なんて、「日本人はみんなサムライだ」みたいなことを言っていました。当時は戦後の日本の経済発展が注目されていて、“Japan way”とか“日本式経営”とかいった言葉がはやっていたこともあり、日本人はみんな、サムライ魂を持った働きバチ(英語では“働きアリ”ですね)だと思っていました。
そんな僕の人生を大きく変えたのが、幼なじみの存在です。彼は日本語を勉強していたのですが、大学を卒業するころ、ある日突然「日本に行ってみない?」と誘ってきたのです。はっきりとした理由は覚えていませんが、直感で「おもしろそう!」だと。そして移り住んだのが福井県です。
福井の人たちは、僕のイメージしていた“日本”をいい意味で大きく裏切ってくれました。真面目でカタブツだと思っていた日本人たちが、街中の居酒屋に集まり、たわいもない話をしながら大きな声で笑っていた。仕事ばかりしていると思っていましたが、アメリカ人と同じように、家族や仲間と過ごす時間を大切にしているのだというのがまず驚きでした。また、日本と言ったら東京。イメージしていたゴミゴミした大都会と違って、福井は自然をたくさん、食べ物もおいしくて、日本についてもっと知りたいと思うようになりました。
お笑い芸人として感じた
日本の特徴
アメリカで生まれ育った僕がこんなにも長く日本に住むようになったのは、日本人と感覚が合っていたからです。人の意見を尊重し、議論するにも人をけなさずおだやかな口調で話す。日本人は自分たちのことを欧米人と比べて暗いと思っているかもしれないですが、僕から見たら本当に明るい。「元気です」「頑張ります」など、普段から口にしていることは意外とポジティブですよ。
上京してお笑いを始めてからも、発見がたくさんありました。まず、日本のお笑いは「自虐」、アメリカは「他虐」が多いんですね。アメリカでは人種や民族、性別、年齢、出身地や、政治などがよくネタになるんですが、日本ではそれらは極めて少ないような気がします。それが僕にとっては、とても心地良かったんです。あと、日本語って“けなし文句”がすごく少ない言語なんですよね。バカとかアホとかはありますが、英語は多分その1,000倍はありますよ!そういった日本を発見できたのは、やはり住んでみたからこそ。できるだけ多くの人に、日本の本当の姿を知ってもらいたいですね。
外国メディアを通じて
日本のニュースを斬る
すっかり“日本人化”している僕ですが、最近は“アメリカ人の視点から日本を斬る”仕事をいただくことが多くなりました。その一つ、昨年10月から、BS-TBSで「外国人記者は見た!日本inザ・ワールド」という番組の司会をさせていただいています。日本在住の外国メディアの記者をスタジオに呼んで、日本のニュースは海外にどう発信されているのかを紹介するというもの。これまで取り上げたトピックは、東京オリンピック、安倍政権、女性の輝く社会、捕鯨、原発など、多岐にわたります。記者たちの議論を通じて、日本の良いところや悪いところ、直面している課題、可能性などに、視聴者に気付いてもらおうという趣旨の番組です。
たとえば、外国メディアが靖国神社について報道する時、“戦争神社”と訳されることがあります。僕は英語のメディアにも目を通すので知っていましたが、日本ではあまり知られていませんよね。あと、SMAPが話題になったらどう説明したらいいか分からないという欧米の記者の意見もおもしろかったです。アイドルということで「boys band」(少年バンド)とも訳されていましたが、彼らはほぼ40歳過ぎていますからね。そういった言葉づかいや文化や習慣の違いで困っている記者たちの話を聞くと、日本には“グローバル・スタンダード”ではないことがたくさんあるということが分かります。外からの視点を通じて日本を知る―僕も「なるほど」と思う意見が飛び交って、とても興味深い内容になっています。
あとは、『Newsweek 日本版』のホームページでコラムを執筆しています。アメリカ人の視点から、日本と関連のあるニュースを分析するというものです。編集部からは「何を書いてもいい」と言われているので、自分が気になったニュースを好きなように書いています。マイナンバーについて書いた時は、アメリカにはすでに導入されている制度と比較し、日本でのメリット、デメリットについて解説したこところ、大きな反響がありました。アメリカ大統領選の記事もいくつか書きましたが、日本の人たちもやはり気になっているんですね。という僕も、トランプが大統領になったらどうしようと心配していますけど。日本は島国で“閉鎖的”とか“内向き”とかよく言われますが、このように、外国人の視点に触れることが、自国をもっと知るきっかけになるように思います。
僕が最近、日本のニュースで気になっているのは、たとえば甘利・前経済再生相や舛添都知事など政治家の問題。世界には政治献金を禁じている国もあるくらいですから、日本もその仕組みについて、少し考えなおしたほうがいいかもしれません。日本は動き出したら早いので、他国の見本となるような先進的な制度がつくれるのではないでしょうか。いい制度ができたら、逆に政治献金にルースなアメリカに輸出してほしいです。あとは憲法改正。世界は9条に関しては、とても注目しています。やはり、世界で唯一の平和憲法ですから。僕は自分が長く住んでいる日本に、ピースリーダーとして世界を引っ張っていく存在になってほしいので、期待しています!
世界の人たちは今、
日本をどう見ているか
日本がアメリカでどうとらえられているか、日本での生活が長く、正確なことは分かりません。しかし僕の印象では、日本は海外への情報発信に成功している方なのではないでしょうか。漠然としたものかもしれませんが、アメリカ人は日本に関する“イメージ”は誰もが持っていると思います。日本のアニメ、食べ物、観光地などについて、本当に良く知っています。それだけでも、すごいことですよね。
ただ、僕の第2の故郷の福井のように、日本の地方に関する情報はまだまだ知られていません。東京、京都、広島くらいが限界ではないでしょうか。あとは、日本のものづくりの技術をアピールしていくのは、大賛成です。海外ですでに導入されているものも多く、日本の人たちには誇りを持って各地に広めていってほしいです。
最後に忘れてはならないのは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックです。国立競技場やエンブレムなどの問題がありましたが、せっかくなのでこれまでで一番といえるくらいの大会にしてほしい。東京は世界一機能的な大都市だと確信しているので、それをぜひ全面にアピールしていただきたい。そして、国民一人一人ができるのは、勇気をもって、外国人に英語で話しかけること。簡単な会話でいいので、笑顔を見せて、日本人とふれあえたという記憶が残れば、日本のPRにもつながると思います。
最後に、日本から海外に伝えたいこと、
一言でお願いします!
やはり、僕が人生を懸けてきた「漫才」!居酒屋でワイワイするのも好きですね。最高です。
<プロフィール>
アメリカ・コロラド州出身。ハーバード大学比較宗教学部卒業後に来日。福井県で英語講師として働いた後に上京し、漫才コンビ「パックンマックン」を結成。現在は、バラエティのみならず、ニュース番組の司会、雑誌のコラムの執筆などにも活動の幅を広げている。東京工業大学非常勤講師。著書に『ツカむ!話術』(角川書店)など。