大津市 越直美市長(2017年3月)
投稿日 : 2017年03月25日
<大津市 越直美市長 インタビュー>
日本最大の湖である琵琶湖、ユネスコ世界文化遺産に指定されている比叡山延暦寺など、日本を代表する観光資源にあふれる滋賀県大津市。京都駅から電車で9分というアクセスの良さもあり、国内のみならず、海外からの観光客も多く訪れています。
この街の市長を務めるのは、日本の首長としては36歳という女性最年少の若さで当選し、弁護士のキャリアで培ったパワー、女性ならではのきめ細やかさを持つ越直美市長。越市長が目指す、大津の自然、文化を生かし、すべての人が生き生きと暮らせるまちづくりについて聞きました。
水のある街
大津に育って
私が感じる大津の魅力は、なんと言っても「水のある風景」です。
高校まで大津で育ち、大学は北海道へ、卒業後は弁護士として東京の法律事務所に就職しました。その後もアメリカに留学したり、世界各国を旅行したり・・・。地元を離れていた時間が長かったのですが、どこに行っても思い出すのは、大津の「水のある風景」でした。駅から自宅に向かうバスから見える川や琵琶湖のそばでは、春には桜、秋には紅葉など、季節の移り変わりを感じることができ、「やっぱり、大津は世界で一番美しい街だ」と、帰省するたびに感じていました。
昔から地元が大好きでしたので、将来は大津に貢献できる仕事ができたら、と漠然と考えていました。なぜ市長になりたいと思ったかは、中学生の時の経験が影響しているように思います。当時祖母と同居していたのですが、ある日転んで歩けなくなり、介護が必要となったんです。当時は介護保険制度も整っていませんでしたので、母は仕事をやめて、10年間自宅で介護をしました。日中は私も学校があって手伝うことができず、病院に行くときには近所の人に来てもらって。行政からのサポートがもっと充実していればと歯がゆい思いで、「身近な行政にかかわる仕事がしたい」と思ったのです。
と言っても、どうやったら市長になれるのかもよく分からず・・・。結果、進んだ弁護士の道も大変やりがいがあり、いつの間にか昔からの夢は頭の片隅にしまい込まれていました。でも、2008年にアメリカに留学した時のことです。オバマ前大統領の母校に通っていたのですが、当時はちょうど1回目の大統領選の真っ最中。学生の間でもよく「チェンジ」というキーワードが話題になり、みんな積極的に集会などに参加していて、国全体が「世の中を変えよう」というパワーに満ちあふれていました。そのパワーにとても感動したのです。私もいつかそうやって「世の中を変える」仕事に携わりたいと、それが実現できるのは大津だと、再認識したのです。
そして大津に戻り、現在、市長2期目を務めさせていただいています。
外国人観光客を
呼び込む手法
大津には観光スポットがたくさんあるのですが、なんと言っても「琵琶湖」は外せません。この数年、大津を訪れてくださる外国の方が急増しています。海外からは特に台湾からのお客様が増えていて、「琵琶湖のそばに滞在したい」と言ってくださるリピーターの方が多いのは、とてもうれしいことです。その背景には、ホテル、旅館、琵琶湖でクルーズ船を運行している企業、比叡山延暦寺の僧侶の皆さんと一緒に、台湾にPRに行った効果もあると思います。
そして、昨年には大津駅もリニューアルしました。駅舎が41年で私と同じ年だったのですが、市内のシンボルとなる駅として生まれ変わりました。駅構内に新設した観光案内所「OTSURY」には多言語対応が可能なスタッフが常駐し、酒蔵見学ツアーやそば打ち体験、琵琶湖のそばの風景を楽しんでもらうためにレンタサイクルもあります。大人から子どもまで、国内外問わず、観光に訪れたすべての方に楽しんでいただける企画を考えています。駅直結でオープンしたカプセルホテルも、カフェを併設し、おしゃれでリーズナブルに泊まれます。
ジュネーブを参考にした
湖を生かしたまちづくり
実は、私は大津でスイスのジュネーブを参考にしたまちづくりをしたいとイメージしています。ジュネーブにはこれまで何回か行ったことがあるのですが、駅からレマン湖までの通りが、まさに大津駅から琵琶湖までの通りと似ているのです。文字通りレマン湖は街のシンボルで、周りにはオープンカフェやホテルなどがあってにぎわっています。人口規模も同じくらいですので、湖をうまく使ったまちづくりを参考にできるのではないかと考えています。
また、大津に残る町家についてもPRしていきたいです。大津は京都から1番目の宿場町でした。4月には、古い町家を活用したゲストハウスもオ-プンします。大津市内には歴史ある町家がたくさん残っているのですが、残念ながら、空き家が増えてきているのが現状です。ですから、そんな空いた町家を活用して、海外から来た方が日本の伝統的な家屋に泊まっていただけたら、日本の文化を体感していただけるのではないかと思っています。ご期待ください。
いじめをなくす
徹底的に調査
大津市といえば、2011年の「大津いじめ事件」を思い出す方が多いと思います。振り返れば、これまで最も力を入れて取り組んできたのが、いじめ問題です。事件が起こったのが2011年10月、私が市長に就任したのは2012年4月でした。その時に分かったのは、この事件についての事後調査がきちんとされていなかったこと。学校で何が起こっていたのか、二度と繰り返さないためにはどうすればいいのか―。私は弁護士の経験から、第三者委員会を立ち上げ調査を行いました。それまでは、いじめ問題について、外部の独立した専門家による調査は、ほとんど行われていませんでした。しかし、それでは、真実は明らかになりません。今では、いじめ防止対策推進法もでき、全国でも、第三者による調査がなされるようになりました。
これを受けて、新たな取り組みも始めました。弁護士や臨床心理士を雇用して、教育委員会とは別に「いじめ対策推進室」を設置しました。子どもたちが学校でなくても相談することができる場ができ、学校現場とは違う解決方法を提示することができるようになり、今まで行き場のなかった声が出てくるようになりました。いじめそのものにしても、ただ加害者に謝らせて終わるのでなく、子どもの声を聴くことを重視しています。教育委員会では、各小中学校に教員を増やして「いじめ担当教員」を置きました。担任をもたず、休み時間に子どもたちの様子を見て回ったり、いじめ事案に対応しています。
女性市長として
イニシアティブを
日本国内でも女性の首長はまだ少なく、全体の2パーセントほど。ですから、やはり女性の市長という点を生かして、「女性が自由を選択できる社会をつくりたい」と考えています。
その一つが、待機児童の問題。私が市長に就任した当時は約150人いたのですが、まずそれをゼロにすることを目標に立てました。女性が働きながら子どもを預けることができる保育園の整備を進め、3年かけて達成することができました。その間、民間保育園の新設など、約2,000人の定員を増やしました。150人の待機児童をゼロにするのに、10倍以上の施設整備が必要であったのですから、「保育園ができたら働きたい」という潜在的需要は、非常に大きいということがわかります。そのために市長として取り組んだのは、まず予算をつけること。民間の保育園をつくるにも、補助金が必要でどこを削ればどれくらいの予算がつけられるかを考えました。女性だからこそ、回りの友人や同僚の女性が苦労している姿を直近で見てきましたので、優先すべき事項をニーズに近いかたちで絞り込むことができました。
大津市の合計特殊出生率は1.31と一時かなり落ち込んでいたのですが、現在は1.5まで回復してきています。また0歳から5歳までの子どもをもってフルタイムで働く女性は50%増えました。人口減少も労働力不足もこれからの日本にとって大きな問題ですし、これを食い止めるのはやはり女性がカギ。ですから、女性が働きながら子育てができる環境の整備を、これからも続けていきたいと思います。
また女性だけでなく、男性の働き方、子育てに対する姿勢も変わってきています。市役所では、男性で育児休暇をとる職員が、毎年1人いるかいないかでした。そこでまずは、男性も全員、短期の男性職員の子育てを応援する休暇制度(最大8日)をとることにしました。そのため育児参画計画書を提出してもらい、職場で前もって、仕事の調整をします。この取り組みの結果、長期の育休をとる男性職員は1年で6人(平成27年度)になりました。これは男性も育休をとるのが当たり前という雰囲気ができてきたからだと思っています。
女性の起業に
多様なアプローチを
ビジネスという点においても、女性の起業を増やしていきたいです。実際に大津市内には、出産・育児など何らかの事情で一度仕事を辞めても、専門性や趣味を生かして仕事を再開したいと考えている方がたくさんいます。でも、仕事を離れている間にコネクションがなくなり、起業したくてもどのような形で実現したらいいのかわからない、と困っていらっしゃる方が多いのです。
そこで昨年秋にオープンしたのが、「コワーキングスペース大津」です。起業を目指す女性、すでに起業した女性を対象としたシェアオフィス、レンタルスペースです。また、女性企業家経営スク-ルも始めました。女性の起業を応援する会という女性企業家の集まりもあります。女性起業家のみなさん、起業を目指すみなさんと一緒に「女性起業の聖地」を目指して取り組んでいきます。
写真提供:大津市