鳥取県 平井伸治 知事(2017年3月)
投稿日 : 2017年03月28日
鳥取県は、その人口が56万8千人と日本最小。
一方で、自然が豊かで暮らしやすく、子育て、仕事、住環境など幅広い世代を応援する施策が充実していることから、2017年「住みたい田舎ベストランキング」では、鳥取市が総合部門で第1位を獲得するなど存在感を増しています。
「小さくても勝てる」という鳥取県のポジティブ戦略について、平井伸治知事にお話を伺いました。
(写真左:平井伸治 鳥取県知事、写真右:赤阪清隆 FPCJ理事長(聞き手))
■既存の広報手法にとらわれず、
斬新なアイデアで鳥取をアピール
-平井知事は東京のお生まれで、自治省(現・総務省)に勤務されていた時に、鳥取県での勤務経験がおありですね。
鳥取のどのような点に魅力を感じられましたか。
生まれは東京の神田です。自治省に入省してからは、兵庫県や福井県、鳥取県などで勤務をしました。その時のご縁で、鳥取で一緒に仕事をしないかという話になりました。鳥取にはポテンシャルがあると思います。観光、自然の美しさや日本の伝統的な文化、あるいはアニメのジャパン・テイストなどは、もっと世界に向けてアピールできるものだと思います。国際的なリゾート都市としての可能性も伸ばしていきたいです。
(写真:鳥取県提供)
-「スタバはないけど、スナバはある」や「蟹取県にウェルカニ」など、キャッチフレーズを上手く使われていますね。
これまで対外アピールを色々やってきましたが、理屈でアピールしてもあまり伝わらず、相手の心の中に入っていくためには、言葉の使い方を工夫する必要があると思うようになりました。キャッチフレーズを短くするとメディアからの評判が良いということに気付いたのは、“スタバ騒動”の時でした。お隣の島根県にスターバックスができた際、「スターバックスがない唯一の県の知事としての見解をきく」ということで、全国放送のメディアから取材を受けました。私は、この好機に鳥取の良いところを売り込もうと思い、鳥取砂丘の写真を用意し万全の準備を整え、「鳥取にはスターバックスは無いですが、ドトールは3軒ある」とか、「澤井珈琲という全国展開しているコーヒー屋は、実は鳥取のお店である」というようなことを色々申し上げました。しかし、実際に取り上げられたのは「スタバはなくても日本一のスナバがありますよ、鳥取大砂丘です!」だったのです。鳥取県は小さな自治体ですので、普段はあまり報道されず、東京との間にはメディア格差があります。“スタバ騒動”がきっかけで、メディア格差を乗り越えるには、何か“騒ぎ”を起こさないといけないのだということが分かりました。
■人口最小県が目指す、
移住定住日本一
-著書「小さくても勝てる」を拝読しました。新しいアイデアを続々と導入されていらっしゃいますね。
最近一番力を入れておられる取組について、教えてください。
鳥取県は人口が少なく、特に若い住民が減少しているので、子育て支援に重点的に取り組んでいます。実行可能性と持続可能性を踏まえ、中山間地での保育料の無償化を開始したところ、鳥取に移住してくる住民が出てきました。さらに都市部でも、第3子以降の保育料の完全無償化を行い、加えて、所得や条件に応じて第2子以降も無償にしました。これは、全国の都道府県で初の取組です。また、新年度(2017年度)の予算に盛り込もうと検討しているのが、保育園に預けずに在宅育児をしている世帯への支援です。例えば、児童1人当たり月に3万円程度の給付や現物給付的なサービスの提供を考えています。このように毎年子育て支援を強化していくことで、有効求人倍率が1.69まで上昇しました。これは全国4位の数値(全国平均は1.45)です。(画像:鳥取県提供)
-鳥取県への移住者は年間2,000人近くだそうですね。移住者を増やすために、どのような政策を打ち出していますか。
移住者数は、2015年は1,952人、2016年は上半期だけで916人です。どのような移住者支援施策が有効か検証しながら、現場主義で変えてきました。小さな自治体は、コミュニケーションが取りやすいという利点をもっており、現場と政策立案者がタッグを組んで行うことができます。移住者支援施策に取り組み始めた契機は、10年前の平成19年10月に県の人口が60万人を割ったことにあります。そこでまず、移住支援窓口や「とっとり移住定住ポータルサイト」を作ることから始めました。これだけでは移住者は増えませんので、空き家の活用を考えました。水回り改修の補助制度を設けたり、移住する前に鳥取県での暮らしを体験できる「お試し住宅」の機会を提供するなど工夫しました。また、農業をされる方には初任給程度を保障する制度を設けました。移住された方を含めた住民組織づくりなど、横の連帯ができていることも、移住者の増加につながっていると思います。
■ピンチをチャンスに、
「とっとりで待っとります」
-昨年10月に発生した鳥取中部地震の復興状況はいかがですか。
2016年10月21日に発災後、全国各地、そして海外からも激励のお言葉や様々な支援をいただきました。まず感謝を申し上げたいと思います。約1万4千棟の家屋被害が出ましたが、小さな地域だからこそ出来るような、先手先手を打つ復興活動を展開して参りました。一週間あまりで応急復旧を仕上げ、学校も4日目から再開するなど、普通の生活に戻す日をなるべく早く設定しようと進めてきました。残念ながら観光面では私たちの大切なお客さまからのキャンセルの電話が相次ぎ、4万5000件ほどの旅行・宿泊取消が発生しました。そこで、「鳥取は元気に頑張っている」とアピールしようと、キャラバンを組みました。2017年1月から3月まで、政府のバックアップのもと、「とっとりで待っとります」という観光キャンペーンを実施しました。
-最近は海外から日本への観光客が随分増えていて、昨年度は2千万人を超えました。
政府は2020年に4千万人を目指していますが、もっと増やすことができるのではないかとも言われています。
鳥取県では海外からの観光客、海外ビジネス誘致戦略をどのように展開されていますか。
いくつかのルートづくりをしています。一つは空からのルートです。エアソウルのソウル便と併せて、香港との直行ルートが2016年9月に開設され、香港のお客様にたくさんお越しいただいています。また香港を乗り継いで中国の深圳(シンセン)や東南アジアにもアクセスが便利ですので、このルートをぜひ活用していただければと思います。
またクルーズ客船も多く入ってくるようになりました。10年ぐらい前、アジアクルーズターミナル協会(ACTA)が設立される際に、鳥取の境港がチャーターメンバーとして参加したのがご縁で、クルーズ客船のシンジケートとつながることが出来ました。今年度はクルーズ客船が33回寄港しており、来年度は50回以上の寄港が見込まれています。現在、港の改修を進め、キャパシティを増やそうとしています。
鳥取県を含む中国地方は、ちょうど朝鮮半島や大陸に手を差し伸べたような位置関係にあります。妻木晩田(むきばんだ)遺跡と呼ばれる、吉野ケ里遺跡よりも大きな弥生時代の遺跡があるのも、渡来人の往来が多かったからですが、この地理関係がクルーズ客船の往来にもつながっています。クルーズ客船には、2か国以上周らなければいけないというルールがあり、釜山港などを組み合わせるには東京に行くよりも鳥取の港の方が便利なことから、船舶会社にも認知されるようになりました。(写真:鳥取県提供)
-観光客誘致の方法としては効果的ですね。
アジア諸国や欧米など、ぞれぞれの地域によって観光客の好みのテイストが異なります。中国系の観光客はショッピングに加えて、港近くの水木しげるロードや近隣の歴史的な場所を歩かれることがお好きなようです。欧米系の観光客は、富士山にも似た雄大な景色の大山や伝統工芸などに興味を持っていらっしゃいます。隣の島根県には世界で一番美しいジャパニーズ・ガーデンと呼ばれる足立美術館もあり、色んなテイストに応じた見どころを持つのが、鳥取のそして山陰の魅力だと思っています。
みなさん、ぜひ鳥取にお越しください。「とっとりで待っとります!」