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長野県 阿部守一知事 (2016年4月) | 公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)

首長による情報発信

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長野県 阿部守一知事 (2016年4月)

投稿日 : 2016年04月28日

自然豊かな山岳地帯を有し、平均寿命が男女とも日本一の健康長寿の地として知られる長野県。都道府県別の「幸福度ランキング」では常に上位にランクインし、移住先としての人気も高い。温泉やウィンタースポーツを目当てに訪れる観光客も多く、新たに祝日となる「山の日」(8月11日)も、豊かな山岳地帯を有する長野県の魅力を発信する追い風となりそうだ。長野県が目指すブランド戦略について、阿部守一知事に聞いた。(聞き手:FPCJ事務局長 杉田明子)

 

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―長野といえば、まずは自然の美しさ、そしてリンゴやレタスの栽培といった農業が盛んなイメージが浮かびます。

 

長野県の農業は、健康長寿の県であることと密接に結びついています。長野県は、男女ともに平均寿命が全国1位。日本が世界一の長寿国であることを考えると、世界一の長寿地域といえます。要因はいくつかありますが、その一つが「食」です。果樹や野菜の栽培が盛んというイメージは定着していると思いますが、それだけではなく、県民が野菜を摂取する量も全国1位。農業と一体となって、健康な生活が営まれています。

 

海外への発信という観点では、農産物の海外戦略を進めています。県の果樹試験場で開発したシナノゴールドという黄色いリンゴは、欧州で最大のりんご生産地であるイタリアの南チロル地方で、本格的な商業栽培に向けた試験栽培が始まっています。知的財産権を活用した農業戦略の一環で、県は苗木1本あたりいくらかの収益をあげることができます。シナノゴールドの普及とあわせて、長野発の果物の素晴らしさをPRしたいです。

 

ブドウの栽培も盛んです。あまり知られていませんが、ワイン用ブドウの生産は長野県が日本一です。ワインというと山梨県のイメージが強いのですが、山梨のワインに長野のブドウが使われていることもあります。「信州ワインバレー構想」を進めていて、ワイナリーを経営したいという方がだんだんと長野県に集まり、ワイナリーが計32カ所に増えています。メルローやシャルドネといった伝統的な品種で作られ、世界に流通しやすいワインであることが長野のワインの強みです。

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【写真左:シナノゴールドの栽培の様子 右:県内に増えているワイナリー】

 

海外からの観光客の方々は、ワインよりも日本酒を飲みたいと思われるかもしれません。長野県は蔵元の数も新潟県に次いで2位、82軒あります。美味しいワインもあり、多様な日本酒もある。こうしたお酒とともに、長野で栽培されているレタスやセロリなどの野菜、エリンギやえのきといったキノコなど、健康長寿を「食」を通じて体験していただけたらと思います。

 

― 農業と、健康的な生活が強く結びついていることがよく分かりました。長野県では、2013年から「しあわせ信州」を掲げて、ブランド力の強化に取り組んでおられます。響きのよいキャッチフレーズですね。

 

県民の皆さん一人ひとりが幸せになってもらいたい、という思いを込めています。道路整備などももちろん行政の重要な役割ですが、暮らしの実感の中で県民の幸福度を上げていきたいです。数値化は難しいですが、一般財団法人日本総合研究所の調査による都道府県別幸福度ランキングでは常に上位に入っており、2013年は1位でした。健康長寿、勤勉で教育熱心な県民性、そして豊かな自然という地域の強みを大切にしながら発展していくブランド戦略を描いています。

 

― 単なる長寿ではなく、「健康で長生きする」ことが大切ですね。県の5か年計画(しあわせ信州創造プラン)の中で、健康長寿の根幹をなすともいえる「健康づくり・医療充実プロジェクト」を進めておられますが、具体的な内容をお聞かせいただけますか。

 

長野県佐久市には、健康なまま天寿を全うするという意味の「ぴんころ地蔵」がありまして、私もご利益にあやかろうとお参りをしました。健康長寿にはいろいろな要因があるのですが、重要なのは、長野県が、何もしないで漫然と長寿県になったのではないということです。

 

かつての県内の農村の医療環境は必ずしも良くありませんでした。漬物を食べる食文化もあり、塩分の取り過ぎで脳溢血で亡くなる人も多かった。そのような中、例えば、佐久総合病院や諏訪中央病院の医師や看護師などが、戦後、地域において演劇や勉強会などを行って、健康に良い生活や食生活の工夫などを普及しました。こうした活動が基盤となり、食生活改善推進員、保健補導員といった地域の健康ボランティアが、地域の健康の守り手として、地域の健康づくりに貢献するという動きにつながりました。

 

          1_減塩教室  3_保健補導員研究大会

【写真左:地域で行われる減塩教室の様子 右:保健補導員による研究大会】

 

男女とも平均寿命が日本一となり、今や他の自治体に追われる立場です。私たちも負けてはいられないと、2014年から健康づくり県民運動「信州ACEプロジェクト」を始めました。生活習慣病予防に効果のあるAction(体を動かす)、 Check(健診を受ける)、 Eat(健康に食べる)の3本柱を掲げています。これまでの地域中心だけでなく、企業も連携して進めているのが特徴で、健康保険組合と一緒に健診を呼びかけたり、飲食店や社員食堂のメニュー、コンビニの弁当に工夫をしていただいたりしています。県庁でも、就業時間中に私を含めて全職員で体操をします。私自身も、食生活では塩分摂取量などの目標を立てています。

 

健康長寿には、勤勉な県民性も大きく影響していると思います。農業県であることも起因していると思いますが、長野県は高齢者の就業率が全国1位で、元気なうちは働こうという方が多いです。

 

― 素晴らしいですね。健康・医療プロジェクトのほか、教育についても力を入れておられるとのことですが、具体的にお聞かせいただけますか。

 

海外との関係では、高等教育の振興に力を入れています。2018年度の開学に向けて、県立の4年制大学の設立を進めています。少子高齢化の時代になぜ、という声もありますが、大学は地域発展の大きな核となる知の拠点です。海外のイノベーティブ(革新的)な地域を見ると、大学と一緒に発展している事例が多いです。

 

この新しい県立大学が目指す人材育成の特色は二つあります。一つは、グローバルな視野を持った人材、二つ目は、地域でイノベーションを起こせる人材です。そのため、全学生に海外留学を義務付けます。さらに、一年生は全寮制で、寮生活も学習の場として位置付けています。海外の大学と積極的に提携し、交換留学の機会も広げたいです。実学も勉学もしっかりさせたいという狙いから、大学の理事長予定者には元ソニー社長の安藤国威氏、学長予定者には、慶応大学名誉教授の金田一真澄氏が内定しています。

 

県内には他に、国立の信州大学、私立の長野大学、松本大学などもあり、地域貢献度が高いといわれています。県では、「高等教育支援センター」を立ち上げてこうした県内の大学の改革を積極的に支援し、県外の大学との窓口の役割を果たすなど、大学と地域を結びつける役割を果たしていきます。

 

八方池越しに望む白馬三山― 「山の日」についてお聞きしたいと思います。今年8月11日に国民の祝日として施行されますが、山の魅力あふれる長野県として、国内外にどのようにPRされていくのでしょうか。

 

長野の山岳景観は世界に誇れるものです。これを「守る」と同時に「活用する」という両面が大切だと考えています。

 

長野県の山は、長野の財産であると同時に、日本の、そして世界の財産であり、私は「お預かりしている」という感覚でいます。「守る」という側面では、たくさんの方の支援が必要です。先日、長野県の生物多様性を一緒に守りましょうという協定(信州の生物多様性保全の推進にかかる基本協定)を、三菱UFJリサーチ&コンサルティング、帝京科学大学(東京都)と結びました。ほかに、森の里親促進事業という制度もあり、県外の団体や企業に、資金的な援助のみならず、社員の方に間伐作業を手伝っていただくなどの交流を進めています。

 

守ると同時に「生かす」ことも必要です。多くの犠牲者を出した2014年の御嶽山噴火を教訓として、新しい登山安全条例を制定しました。火山対策に加えて、山に入る人が守るべきルール、これまで関係者の努力で維持されていた登山道の整備について定めています。山域ごとに方針を立て、自然のまま残すべきところは残し、整備すべきところは整備するという方向を、県としてしっかり支援します。長野の山に大勢の方をお迎えする環境整備は進んでいます。

 

栄えある、第1回山の日記念全国大会は、8月11日に松本市上高地で開催されます。これを契機に、長野の山岳の美しさ、豊かさ、素晴らしさを国内外に発信したいです。

 

― インバウンド観光については、日本全体が盛り上がっています。海外に向けて発信したい県の魅力をお聞かせください。

 

海外から観光客に一番魅力を感じていただけているのは、地獄谷野猿公苑の“スノー・モンキー”ですね。私も人気に驚いています。このほか、海外の方に人気なのが忍者で、長野には「戸隠(とがくれ)流忍術」があります。忍者や侍のゆかりの地をつなぐ「サムライルート」が外国人観光客に人気の観光コースとなっており、関係自治体と連携してPRしています。

 

それだけではなく、長野は四季がはっきりしているので、折々の楽しみ方ができます。冬はスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツ、それ以外の季節でもサイクリングやカヌー、カヤックなどアウトドアのアクティビティが体験できます。海外ではアウトドアを楽しむ環境が整備されていますが、日本ではまだ一部の人だけのものという感じがあるので、もっと普及させたいと考えています。

 

        カヤック  スノーシューツアー 

【写真左:大自然のなかで楽しむカヤック 右:白銀の世界でのスノーシュー】

 

その第一歩として、2015年に開業した北陸新幹線の飯山駅に、アクティビティセンターをオープンしました。トレッキング用品や自転車のレンタルを行っています。東京駅から手ぶらで来ても楽しんでもらえることを目指しています。

 

ウィンタースポーツについていうと、1998年の長野オリンピック・パラリンピックの開催地でもありますから、雪質に自信を持ってお客様を迎えています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックと前後して、2018年は韓国・平昌、2022年は中国・北京および河北省で冬季オリンピック・パラリンピックが開催されます。河北省と長野県は友好提携をしており、すでに関係者の方が視察に来られています。こうした交流を通じてノウハウを共有し、共に東アジアのウィンタースポーツの環境づくりに取り組みたいと思います。

 

― 観光客のみならず、企業の集積にも積極的に取り組んでおられますね。

 

長野県はもともと、ものづくり産業の比重が大きく、製糸業から精密・電子機器産業へと進化してきた経緯があります。世界的に有名な企業では、精密機器メーカーのセイコーエプソンが諏訪市に本社を置いています。

 

新しい動きとしては、飯田市を中心とした地域が「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」に指定されています。三菱リージョナルジェット(MRJ)の部品を製造している企業や、米ボーイング社と直接取引している企業もあります。長野にはすでに高い技術力を有する企業が多く立地しているので、企業同士のコンソーシアムを組むといった取り組みにより、長野に立地することの優位性を発揮できると思います。

 

航空宇宙産業以外にも、信州大学が中心となり、株式会社日立製作所、東レ株式会社や長野県等が共同提案した「アクア・イノベーションプロジェクト」という動きもあります。こちらは、ナノカーボンの技術を用いて、世界の水問題を解決しようというものです。このように、企業誘致の面でも、航空宇宙産業や環境技術、健康医療など、地域の強みを生かしていきたいと考えています。

 

― 長野県の多様な魅力が世界に発信されるよう、お手伝いができたらと思います。今日はありがとうございました。

 

※   写真は長野県にご提供いただきました

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