急がれる〝所有者不明地″への対策
投稿日 : 2017年11月27日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞:所有者不明地 縦割り排して対策急げ
日本経済新聞(日経):「迷子の土地」生かす法制度の整備急げ
登記の義務化含む土地対策を
毎日新聞:持ち主不明地 増加に歯止めかけよう
読売新聞:空き地活用策 地域の新たな「資源」にしたい
少子高齢化や人口減少の加速に伴い、所有者の分からない土地が急増し、大きな社会問題となりつつある。増田寛也元総務相が座長を務める民間研究会「所有者不明土地問題研究会」が10月末に公表した試算によると、2040年には所有者が不明の土地が全国で約720万ヘクタールに達し、これが原因で生じる経済損失額は40年までに6兆円規模に上ると推計した。2016年の推定面積は410万ヘクタールで九州を上回る規模だが、40年になると北海道本島(約780万ヘクタール)に迫る面積になる計算だ。
人口減少で活用されない土地が増えることの経済損失に加え、災害復旧、耕作放棄地の解消、空き家対策などに際して所有者を探すのに時間がかかり、多くの支障が出ている。政府は、今年6月に閣議決定した「骨太の方針2017」で、所有者不明地の有効活用に向けた法案の次期通常国会への提出を目指す方針を示した。
全国紙4紙(産経除く)は、この土地有者不明地問題を取り上げ、土地所有者の所在が分からなくなる最大の要因になっている不動産登記制度の問題点について論じるとともに、所有者不明でも土地の有効活用ができる法整備など実効性のある対策の早期実現を強く求めた。
■ 政府の総合的かつ抜本的な対策が不可欠
日経は6月15日と10月27日付の社説で、『迷子の土地』問題を取りあげ、「由々しき事態と言わざるを得ない」とし、現状では不動産登記が義務づけられていないため、管理の手間やコストを避けるために登録しない人がいるという実情を挙げつつ、税負担や手数料を大幅に軽減したうえで、不動産登記を義務化すべきだとした。さらに、土地所有権のあり方の再考など、政府に対し「総合的かつ抜本的な対策」を急ぐように求めた。日経は、こうした事態が深刻化した背景に、「土地に対する国民の意識の変化」があるとするとともに、「現在の不動産登記制度がずさんな点も問題を深刻にしている」と指摘した。明治、大正時代に登記されたままの土地がかなりあり、登記制度の空洞化を防ぐ有効な対策を講じてこなかった行政の責任にも言及している。
具体的対策として、不動産登記簿や固定資産税の課税台帳の照合による「土地情報の一元化」を図るよう求めている。また、所有者が不明の場合も土地を広く活用できる制度を創設すべきだとした。
■ 不動産登記の義務化の検討も
朝日(9月21日付)も、政府のこれまでの対応について国土交通省や農林水産省が災害復旧や林道整備などで部分的に対応してきたが「効果は十分にあがっていない」と指摘した。その上で、根本的な問題は土地の相続時に所有権の移転登記をしない人が少なくないことを挙げ、発生の予防策として「登記にかかる税金の軽減のほか、登記の義務化も選択肢になるだろう」と提言し、そのやり方や効果の有無、法的問題についての検討を急ぐよう求めた。
毎日(2月27日付)は、所有者不明地問題の深刻さが浮き彫りになった例として、福島第1原発事故後の対応を挙げ、中間貯蔵施設の建設が進む福島県内で計画に関連する登記簿上の土地所有者2360人のうち、連絡先が分からない人は全体の4分の1以上に上り、「地域防災や震災復興の壁になっている」と指摘した。空き家対策では2015年に「空き家対策特別措置法」が施行され、倒壊の恐れのある空き家は市町村が強制的に撤去できるようになっており、所有者不明地についても「行政の裁量で柔軟に利用できる仕組みを検討する余地はないか」と提起した。
読売(7月17日付)は、人口減少で増え続ける空き地や空き家を街づくりの『資源』と捉え、「地域を活性化するテコと位置付け、効果的な利用法を探る」ことを求め、所有者不明地の対策として受け皿作りを重視すべきだと指摘。しかし、国や自治体は行政目的での使用予定がない限り、原則として土地の寄付を受け付けておらず、土地が放置され、相続未登記のまま荒地となっているのが実情であるとし、読売は、適切な受け皿を作っていくためには、「行政と不動産業者、市民団体などが協議会を作り、街づくりの絵を描く」などの方策が必要だと強調した。
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