教師の長時間労働が深刻化。過労を防ぐ対策を
投稿日 : 2017年10月12日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞:忙しい先生 仕事増えれば人も要る
産経新聞:教師の働き方 「本業」に力注げる改革を
日本経済新聞(日経):学校現場の疲弊を防ぐには
毎日新聞:小中の教員、週60時間勤務 先生の悲鳴が聞こえる
読売新聞:教師の過労対策 雑務を抱え込む慣行なくそう
過労死の危険が高まる「過労死ライン」に当たる月平均80時間以上の残業(週60時間以上の勤務)を強いられている公立学校の教員が、中学校で約6割、小学校で約3割に達した。そんな実態が文部科学省の2016年度「教員勤務実態調査」(4月公表)で浮き彫りになった。このため、文部科学省・中央教育審議会は8月29日に「学校における働き方改革に係る緊急提言」をまとめ、教師の退勤時刻管理のためのタイムカード導入や事務職員との連携・業務分担などの見直しを求めた。
国際機関の調査では、先進国の中学教員の勤務は平均で週約38時間であり、日本の教員は突出して勤務時間が長い。主な要因は、教育課程(カリキュラム)改定による授業コマ数増加に伴う準備時間の増加や、土・日曜日の部活動における指導時間の倍増などで、政府が進める「働き方改革」とは裏腹に、”教員の多忙化”が一層進んでいる。
全国紙は、この教員の過労問題を「過酷な実態を放置できない」として順次社説で取り上げ、本来の職務である授業に専念できるような「働き方改革」のための具体的な改善策を速やかに実施するように求めた。
■ 教員の「勤退管理」の見直し不可欠
公立の教員の時間外労働に対する割増賃金は労働基準法の対象外となっており、その代わりに給与(基本給)の4%を実質的な超勤報酬として支給している。このため、教職員の給与に関する特例法は、「残業代や休日勤務手当を支給しない」と定められている。日経(9月27日付)は、この法律的な根拠が、「時間管理は不要、との慣習を生む一因だ」とするとともに「同法は、40年以上前の教員の勤務実態を参考に施行された。近年の多忙な学校職場の実態にそぐわない」と指摘した。中央教育審議会の緊急提言によると、教員の勤怠状況を把握するためにタイムカードなどで出退勤時間を管理しているのは、小学校で10.3%、中学校で13.3%にとどまっている。
読売(9月18日付)も、「退勤時間を記録している小中学校が全体の2割程度にとどまる」ことになったのは、基本給の4%が一律で上乗せ支給されていることが要因と指摘した。さらに、日本の教員は労働時間が長い半面、授業時間が先進国の平均より下回っているのは「課外活動や雑務が多い」ためだとして、「大切なのは、教師が何でも抱え込む慣行を見直すことだ」と強調した。文科省によれば、給食費の集金を手渡しで行う小中学校は依然2割を超えており、学級担任らが未納の督促を行うことは、「(教員の)本来の業務とは言えまい」と疑問を投げかけた。
■ 主因は「授業時間」と「部活指導」
長時間労働の大きな要因として全紙が共通して指摘したのは、「授業時間数の増加」と「部活動の指導」である。
朝日(5月7日付)は、ゆとり教育からの脱却のために小中学校では授業のコマ数が増え、さらに小学校では2020年度から3~6年生で英語授業が週1コマ増えることについて、教師の人数は近年、横ばいか減少傾向にあるため「やむなく残業して穴を埋める」事態を招いていると指摘した。特に昨秋、財務省が少子化による児童生徒の減少を理由に、教員を今の69万人から10年間で4万数千人減らす必要があると提案したことに対して、「現状の働き方を前提に単純計算で済ませていい話ではない。ことは命と健康にかかわる。(中略)根本から見直すべきだ」と批判した。また、部活動についても、政府の有識者会議が20年前に、義務教育における「週2日の休養日」導入を提言したにもかかわらず実現していないことについて、「先生が忙しすぎると、子どもたちに向き合う時間にも質にも影響が及ぶ」として、休養日の義務化を求めた。
毎日(4月29日付)も、授業時間の増加とともに部活動指導による負担増を問題視し、特に中学校では「休日の部活動の指導時間が倍増し、平均で2時間(土日で4時間)を超えている」として、外部からの部活指導員を学校職員と位置付けるように求めた。また、同紙は「年間で5000人前後もの教員が精神疾患で休職している」という現状に触れ、「教員増とともに、外部の支援や仕事内容の見直しが不可欠だ」と主張した。
この他、各紙とも中央教育審議会の特別部会が緊急提言した専科教員・生徒指導担当教員の充実、学習プリント印刷や授業準備などの事務作業をサポートするスタッフの配置促進のなど支援策を早急に講じるよう求めた。産経は、「雑務に疲れ果てる職場では、自己研鑽(けんさん)など望めず、優秀な人材も集まらなくなる。公教育再生は教師の資質向上にかかっている」と強調した。
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