クロマグロやウナギの枯渇で、いま問われる日本の水産資源管理体制
投稿日 : 2017年10月01日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞: 水産資源 管理強化の具体策急げ
産経新聞: クロマグロ 長期的視野で対策主導を
日本経済新聞(日経): クロマグロ管理に「甘え」は許されない
毎日新聞: 二ホンウナギの危機 流通経路の透明性確保を
読売新聞: 漁業資源保全 襟を正して国際協調を目指せ (50音順)
水産大国・日本が、水産資源の保全問題で国際社会に厳しい対応を迫られている。寿司や刺身の食材として人気が高いクロマグロは、日本が世界一の消費国であり、日本の漁船による乱獲などで漁獲量が大幅に減少しているのだ。2017年8月28日~9月1日に韓国・釜山で開催された国際会議「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)」では、太平洋クロマグロの資源量が初期資源量(漁業が開始される以前の推定資源量)に対して「2.6%」にまで激減しているとして、日本は資源管理の新たな目標の策定や、漁獲の在り方の改善を強く迫られた。
一方で、日本全体の漁獲量も、日本に近い公海での中国、台湾などの漁船の操業が急増した影響で、ピーク時の3分の1に減少している。日本人の好物であるウナギも、密漁や漁獲量の過少報告などの違法行為によって稚魚の国際的な漁獲管理がうまく機能していない。また、日本国内の流通経路も不透明な部分が多く、問題を抱えている。
全国紙各紙は、水産資源の保全という観点から、クロマグロやウナギの問題を7月から9月にかけて社説で取り上げ、水産大国・日本が国際的な批判の矢面に立たされるのを避け、国際協調や対策を主導するよう強く求めるとともに、日本の水産行政は改革の必要があると訴えた。
■ “クロマグロ管理”で問われる姿勢
産経(8月22日付)は、太平洋の海の生態系の頂点に立つクロマグロについて、「初期資源の2.6%まで落ち込み、禁漁すべき状態にある」と枯渇状態に懸念を示した。「より厳しい管理は当然である。実効性を担保するためにも、漁業大国・日本の姿勢が改めて問われている」として、「水産庁は危機意識に乏しいと指摘されても、いたしかたない」と強調した。
特に、WCPFCが強く求めている30キロ未満の幼魚の漁獲制限について、日本は割当漁獲量を破ったことで国際社会から厳しい批判を浴びた。産経は、その要因について、日本の“地域別の漁獲量割り当て”が早取り競争を招いたことや、巻き網漁の規制の緩さなどを挙げ、漁業先進国で採用されている“個別漁獲枠方式”などの対策をとるべきであり、「資源保護にむけた抜本的な水産行政改革の時ではないか」と論じた。
日経(9月3日付)も、太平洋クロマグロの6割を日本が漁獲し、全世界の漁獲量の8割を日本人が食している実情を挙げ、「政府や漁業関係者は現実を直視し乱獲防止策で各国の先頭に立たなければならない」と訴えた。WCPFCでは、2034年までにクロマグロの親魚をおよそ13万トンまでに回復させることで合意した。資源の回復ペースを見て漁獲枠を増減させるという日本が提案した手法については、米国などから注文がつき、漁獲枠拡大が認められる条件は厳しいものになった。日経は、日本のクロマグロの漁獲違反が頻発し、国際公約である漁獲量も守られていない現実について、「『多少のとり過ぎは仕方ない』という甘い考え方はもう通用しない」と改善を強く求めた。
読売(8月20日付)も、「自ら資源保護のルールを順守しなければ、国際協調を呼びかけても説得力を持たない」として、実効性のある体制作りのために政府、自治体、漁協の連携強化を強く求めた。その一方で、日本の漁獲量については、中国や台湾などの漁船の操業が急増したことで、ピーク時の3分の1まで低下したと指摘。海域ごとの関係国による「地域漁業管理機関」の設置や、科学的データを基にしたルール作りを関係国に働きかけるべきだと指摘した。
朝日(8月16日付)は、日本周辺の魚種50種の半分近くの資源量が過去と比較して低水準にとどまっているとして、「漁業自体がじり貧になりかねない。自主的管理の利点は生かしつつ、公的な数量管理の強化を早急に進めるべきだ」と主張した。特にクロマグロは、日本の対策が後手に回った典型であるとして、早い者勝ちの先取り競争を防止するために、“個別割り当て方式”の本格導入に向けた議論を深めるべきだと強調した。
■ ウナギ流通経路の不透明さ
毎日(7月31日付)は、日本人の好物である二ホンウナギについて、国際自然保護連合が絶滅危惧種に指定した2014年と比べ「資源量が回復したとは言い難い」と指摘。稚魚の密漁の横行に対し「国際協調で資源管理に取り組む必要がある」と訴えた。同時に、密漁や漁獲量の過少申告を防ぐために、「流通経路の透明性確保は、喫緊の課題だ」として、稚魚の捕獲から養殖、販売に至る経路を追跡できる体制の整備を求めた。
さらに、毎日は、二ホンウナギの主要養殖地である日本、中国、韓国、台湾の4か国・地域が資源の回復を図る目的で、養殖池に入れる稚魚の量に2015年から上限を設定している点について、実際に各国が使った稚魚の量は上限の半分に留まり、上限の設定自体が甘いため、資源の回復につながっていないと指摘。しかも、この取り組みは「紳士協定で、法的拘束力はない」として、流通経路の透明化や国際協調体制の強化が実現できなければ、ウナギが「ワシントン条約に基づく国際取引の規制対象となる可能性があり、日本の伝統的な食文化の維持も危うくなる」と強調した。
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