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【外国記者の素顔に迫る】「The Foreign Press」Vol. 6 フリーランス・フィクサー 斎木 茜(さいき・あかね)さん

投稿日 : 2024年12月25日


今年9月にスタートしたThe Foreign Pressも今回で第6号となりました。これまでお読みいただいた方、また励ましのメール等いただいた方、心よりお礼申し上げます。今回は、あまり知られていないものの、外国メディアと深く関わりのある職業をご紹介していますが、これから進路を模索する若い世代にとっても参考になれば幸いです。来年も引き続きのご支援をお願い申し上げます。どうぞ良いお年をお迎えください。





 

The Foreign Press Vol.6 2024年12月25日

フリーランス・フィクサー 斎木 茜(さいき・あかね)さん

 

 

※写真:右から2番目が斎木さん      ※写真:右端

 

 

※写真:中央               ※写真:左

 

 

 皆さんは「フィクサー(fixer)」という職業をご存じでしょうか。辞書を引くと、調整人とか仲介者といった訳語が出てきます。日本では、コーディネーターと呼ばれることが多いようですが、取材の過程で発生するあらゆる問題を解決し取材を強力にサポートする万能な便利屋さん、もしくは「究極の裏方さん」といったところでしょうか。今回は、普段は裏方に徹した地味な役回りのフィクサーにスポットライトを当て、フィクサー歴14年目の円熟期を迎え、苦労の多いこの仕事への自信とプライドを感じさせる斎木茜さんに、フィクサー業の苦労や醍醐味などを語っていただきました。「あれ、この企画って外国記者を紹介するものだと思っていたけど・・・」とおっしゃる方にも是非お読みいただき、フィクサーの大切さをご理解いただけると幸いです。

 
 例えば1週間や10日程度の短期間で来日し、慌しく取材していくテレビチームにとっては、事前に調整した日程に沿って、効率よく取材できるよう現場でスケジュールを管理するフィクサーの存在は不可欠です。斎木さんに具体的な仕事の内容を問うと、取材先のリサーチに始まり、アポ取り、移動手段の確保、取材現場での通訳、取材先へのフォローアップなどを挙げながら、キーワードは「ひとり」だと言いました。フィクサーの多くは、ひとりひとりが個人事業主(フリーランス)であり、急病になっても交代要員はいません。「私ひとりの失敗で全て台無しになる。その重圧はものすごい」と斎木さん。しかし、ようやく最近では、依頼主である記者に早期に問題を共有することで、チームとして解決できるようになってきたといいます。「はるばる日本まで来るのは、経験豊富な記者が多い。相談すればいくらでも解決方法が提示されます」。

 
 もう一つ困るのが、「色眼鏡で取材する記者」だそうです。ある固定観念を持って来日し、それを裏付けるコメントのみを求める記者に対して、斎木さんは料理人に例えて、こう注文を付けました。「まずは冷蔵庫の中をきちんと見てほしい。そして今ある材料で何ができるか考えてほしい。冷蔵庫にないものを買ってきて全く別のものを作るのは、違うと思います」。斎木さんのようなフィクサーは、記者の要望を叶えるだけでなく、事実と異なる日本が世界に伝わるリスクも低くしているとも言えましょう。

 
 昔から裏方の仕事に強い関心を持っていたという斎木さん。「同じ舞台を見るにしても、舞台裏でどんなことが行われているかを知ったうえで見るのとでは、楽しみ方が全然違います」と目を輝かせます。裏方好きが高じて究極の裏方さんにまで昇りつめた斎木さんにフィクサーの醍醐味を問うと、東京電力福島第一原発事故を例に、「現地に暮らす人々の声として報道されるのはごく一部だけ。しかし現地で直接話を聞くと、本音を吐き出してもらえて、その結果として相手との交流も生まれます。好奇心が人一倍強い自分には、実際に起こっていることを直接見て、聞いて、知ることができる『パス』を提供されたようなものです」。

 

 今月、ノーベル賞授与式に合わせた番組のために、ノルウェー国営テレビの広島取材で活躍した斎木さん(写真参照)。その顧客リストには、既に欧米やアジアの大手メディア20社以上が名を連ねます。かつて米国の科学誌「ナショナル・ジオグラフィック」が日本に取材に来る度にフィクサーを務めた京都移住のKさんは、撮影日にカメラマンが希望する雪まで降らせたという逸話の残るレジェンドとして記憶されています。いつの日か到達するであろうレジェンドに向けた斎木さんの歩みにエールを送ります。(J.Y.)

 

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