【外国記者の素顔に迫る】「The Foreign Press」Vol. 2 モンズルール・ハックさん(バングラデシュ「プロトム・アロ」紙東京支局長)
投稿日 : 2024年10月15日
フォーリン・プレスセンター(FPCJ)の「The Foreign Press」の第二号をお届けします。このたび、日本原水爆被害者団体協議会に対してノーベル平和賞が授与されることが決定されました。長年、核兵器の廃絶に向けて取り組んできた同団体に、ノーベル平和賞が授与されることは極めて意義深いことだと考えています。当センターは、これまで長きにわたり、プレスツアーやプレス・ブリーフィングの実施を通じて、核兵器の廃絶を目指す広島、長崎の人々の思いや取組を外国メディアに伝えることで、人々の核廃絶に向けた取組をサポートしてきました。今回は特別号として、被爆地の核廃絶への願いを世界に伝えることをライフワークとし、当センターのプレスツアー等にも積極的に参加してきた記者を取り上げます。
The Foreign Press Vol.2 2024年10月15日
モンズルール・ハック 「プロトム・アロ」紙(バングラデシュ) 東京支局長
Mr. Monzurul Huq, Tokyo Bureau Chief, Prothom Alo (Bangladesh)
10月11日、今年のノーベル平和賞が、被爆者の立場から核兵器の廃絶を訴えてきた日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)に贈られるとのニュースが世界を駆け巡りました。
そのころ、バングラデシュの首都ダッカにある、発行部数約50万部の同国最大の新聞「プロトム・アロ(Prothom Alo)」の編集部では、二つの長文記事の掲載準備が急ピッチで進んでいました。一つは、昨年夏に、同紙のベテラン記者が行った被爆者へのインタビューに基づいて、当時11歳の少女が体験した8月6日とその後の苦悩を書いた記事「笠岡貞江のつらい過去と核兵器のない世界への夢」の再掲載で、日本語にすると5,000字近い大作です。もう一つは、この受賞の評価について、同じ記者が書き下ろした長文の論説記事で、タイトルはずばり「ノーベル平和賞は日本被団協、世界の指導者の良心はどこまで目覚めるだろうか」。
「সাদায়ে কাসাওকার বেদনাদায়ক অতীত ও পারমাণবিক অস্ত্রমুক্ত পৃথিবীর স্বপ্ন(笠岡貞江のつらい過去と核兵器のない世界への夢)」(prothomalo.com)
「শান্তিতে নোবেলজয়ী নিহন হিদানকায়ো: বিশ্ব নেতৃত্বের বিবেক কতটুকু জাগবে (ノーベル平和賞は日本被団協、世界の指導者の良心はどこまで目覚めるだろうか)」(prothomalo.com)
このベテラン記者こそ、今回ご紹介するモンズルール・ハックさんです。ハックさんは1952年生まれの72歳。1998年以来、元同僚が立ち上げたプロトム・アロの東京支局長を任されており、核廃絶に向けた被爆者の活動をバングラデシュ及び世界に伝えることを自身のライフワークとしています。今回の受賞も自分のことのように喜んでいるだろうと思いコメントを求めると、ごく短い冷静な返答が戻ってきました。「この全く異論のありえない決定をノーベル委員会がやっとのことで行ったことを喜んでいるのは、真に核兵器のない世界の実現を夢見ている人たちだけです」。
さて、ハックさんってどんな方か、もう少しご紹介しましょう。1970年代初め、バングラデシュの独立戦争が終わり、ジャーナリズムを学ぼうとした青年ハックさんが選んだのは、モスクワ大学でした。なぜ言論の自由を学ぶのにモスクワへと問うと、ハックさんは二つの理由を挙げました。1) 当時バングラデシュの独立を強力に支援していたのがソ連で、独立後にはいち早く奨学金制度を整え、多くの若者を招き入れていたこと。2) 途上国支援の在り方などについて国際的な議論が西側メディアにより支配されているとの批判が高まりつつあり、このテーマで学ぶならモスクワでしょう、となった。
モスクワでは、さらにハックさんの人生を変える出来事が待っていました。日本の大学からの交換留学生としてモスクワ大学で学んでいた妻、由美子さんとの運命的な出会いです。ほどなく結婚を決めた二人はモスクワを後にし、ダッカ、ロンドンを経て、94年から日本に移り住みました。ロンドン時代はBBCのベンガル語サービスで働きましたが、近い将来、日本で仕事をするチャンスが必ず来るとの予想の下、ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で学び、日本の政治と歴史で修士号を取得。しっかり「予習」もして、自ら運命を引き寄せてきたと言えましょう。
ちなみに、まだ引き寄せられていないのは、ハックさんにとって最大の難問である「後任探し」だそうで、こればかりはFPCJのサービスもお役に立てそうにないのが、悩ましいところです。。。(J.Y.)