<テーマ>
1. 自然と共生する大分 ~気候変動の影響/自然災害に強いまちづくり~
2. 守るべき大分の歴史 ~少子高齢化時代における伝統や歴史的街並みの継承/空き家活用による地域再生~
<取材内容>
海岸線や平野、高原、川、山など、多様な地形を有する大分県は、豊かな自然と生物多様性の宝庫として知られています。一方で、大分県は、気候変動による豪雨などの災害にも直面してきました。近年は、6名が犠牲になった2020年7月の豪雨をはじめ、県内で高い頻度で大規模災害が発生しており、災害に強いまちづくりが喫緊の課題となっています。また、海水温の上昇は、生態系の変化や漁業への影響をもたらしています。こうしたなか、希少な生物が生息する干潟では、市民による保全活動が続けられています。
大分県は日本の多くの自治体と同様に、深刻な人口減少と高齢化に直面しています。同県の人口は1955年の128万人をピークに減少し、2023年10月時点の人口は戦後初めて110万人を下回りました。国立社会保障・人口問題研究所は、2050年の県内の総人口は30年前の約4分の3(約84万人)まで減少すると推計しています。また、総人口に占める65歳以上の割合は2023年10月時点で34.2%と、全国平均を約5%ポイント上回っています。こうしたなか、大分が誇る伝統・文化の継承や地域コミュニティの存続が大きな課題となっています。
本プレスツアーでは、気候変動と向き合う現場として、豊かな生態系を有する中津干潟や、豪雨被害からの復興と災害に強いまちづくりを目指す天ヶ瀬温泉などを取材します。また、人口減少のなかで伝統継承や地域再生に取り組む現場として、地元の伝統芸能を高齢者から継承する子どもたちや、交流拠点の設置や空き家の有効活用などを通じてコミュニティを元気づける杵築市の人々を取材します。
テーマ1: 自然と共生する大分
~気候変動の影響/自然災害に強いまちづくり~
1. 中津干潟 (中津市)
~「生命のゆりかご」干潟における気候変動の影響と保全活動~
大分県北部に位置する中津干潟(なかつひがた)は、東西に約10㎞、面積1,347haに及ぶ瀬戸内海最大の干潟です。干潟は川から流れてくる栄養分によって多様な生物が育つことから「生命のゆりかご」とも呼ばれ、中津干潟にもカブトガニやアオギスをはじめとする希少な生物が数多く生息しています。地域の市民がつくる「NPO法人 水辺に遊ぶ会」の調査では、中津干潟に生息する生き物の3割近くが希少種であることが明らかになっています。また、渡り鳥の飛来地でもあり、絶滅危惧種のズグロカモメも越冬のために中津干潟へやって来ます。
画像提供:NPO法人 水辺に遊ぶ会
近年、中津干潟では気候変動によるものと考えられる影響が出始めています。周辺の海水温上昇により、南方系の生物が増加したり、ノリやカキの不作が報告されたりしています。中津干潟の環境保全に取り組む水辺に遊ぶ会は、人々に干潟の価値を伝え、保全意識を高めてもらうため、干潟を「自然共生サイト(OECM)※1」や、「ラムサール条約※2」に登録することを目指しています。
※1 環境省が認定する「民間の取り組みによって生物多様性の保全が図られている区域」のこと。2023年度から認定が始まった。
※2 水鳥の生息地として国際的に重要な湿地の保護を定めた条約。
中津干潟を視察するとともに、水辺に遊ぶ会の理事長を務める足利慶聖(あしかが・よしまさ)氏と、事務局長の山守巧(やまもり・たくみ)氏から、干潟に起きている変化や、保全活動について聞きます。
画像左:足利慶聖氏 右:山守巧氏
2. 天ヶ瀬温泉 (日田市)
~豪雨被害に見舞われた温泉街の復興と災害に強いまちづくり~
画像提供:天瀬振興局
天ヶ瀬温泉(あまがせおんせん)は、玖珠川(くすがわ)の両岸に旅館やホテルが立ち並ぶ情緒ある温泉街で、1300年の歴史を誇ります。2020年7月に発生した豪雨災害では玖珠川が氾濫し、14軒の旅館のうち8軒に浸水や土砂流入といった大きな被害があったほか、4つあった橋のうち2つが流出しました。地域のシンボルであった歩行者用の吊り橋は2021年に復旧し、自動車用の橋も2024年7月にようやく復旧したことで、観光客の回復が期待されています。
日田市は、災害に強いまちづくりと温泉街の活性化や賑わい創出を意識した「天ヶ瀬温泉街復興まちづくり計画」を2023年に策定。若手を中心とする地元住民らでつくる「天ヶ瀬温泉未来創造プロジェクト」のメンバーなどとアイディアを出し合いながら復興と魅力あるまちづくりを行う計画です。具体的な施策として、玖珠川の改修のほか、ライトアップによる夜間景観の創出、カヤックやSUPなどの新しい観光アクティビティの導入、さらには川の氾濫の危険を知らせるアラート照明の設置などが検討されています。
天瀬振興局の担当者から豪雨被害と復興計画について聞くとともに、地元の若手有志グループによる「天ヶ瀬温泉未来創造プロジェクト」代表の近藤真平(こんどう・しんぺい)氏の案内のもと、温泉街を視察します。
3. 久恒山林株式会社 (中津市)
~アロマオイル製造を通じて持続可能な林業を実現する~
日本は国土の約3分の2が森林の、世界有数の“森林国”で、大分も県土の70%が森林です。森林は木材の生産だけでなく、水害や土砂災害を防ぐ機能や、生物多様性の保全、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素を吸収する機能を持ちます。
近年は、安価な輸入木材の増加や担い手不足により、国内の林業従事者は減少傾向にあります。林野庁の調査によると、1980年に14万6000人ほどいた従事者は2020年には4万4000人と、40年で7割ほども減りました。その結果、間伐などの適切な管理がされず、雨による土壌流出や山崩れのリスクのある人工林も見られるようになっています。
こうした課題に対応しようと、「久恒山林(ひさつねさんりん)株式会社」では「持続可能な林業」を掲げ、使われない間伐材を利用したアロマオイルの製造を行っています。アロマ事業によって新たな収入源を生み出し、林業の持続可能性を確保するとともに、かぼすなどの地元の特産品を材料に積極的に使用することで農村地帯の活性化にも貢献しています。久恒山林の社長を務める久恒雄一郎(ひさつね・ゆういちろう)氏は、「アロマオイルをきっかけに、消費者が森林の大切さや林業の現状について関心を持ってほしい」と話します。
築100年で、国の有形文化財に指定されている久恒山林株式会社の社屋を訪れ、社長の久恒雄一郎氏から林業を取り巻く現状やアロマオイル事業について聞きます。また、社屋内部やアロマオイルの製造風景を視察します。
※森林の視察はありません。
テーマ2: 守るべき大分の歴史
~少子高齢化時代における伝統や歴史的街並みの継承/空き家活用による地域再生~
4. 北原人形芝居 (中津市)
~700年以上の歴史を持つ伝統芸能を小学生に伝える~
画像提供(右):北原人形芝居保存会
北原人形芝居(きたばるにんぎょうしばい)は中津市北原地区で鎌倉時代(1180年~1336年)から続くとされる伝統芸能で、大分県の無形民俗文化財に指定されています。この芝居は、三味線の伴奏と太夫の語りに合わせて、3人の操り手が息を合わせて1体の人形を操る独特な技法で知られています。
少子化の影響で担い手の減少が課題となる中、伝統の継承に力を入れているのが北原人形芝居保存会です。保存会は、地元の三保(みほ)小学校の人形劇クラブに所属する児童たちに、人形芝居を指導し、未来の担い手を育てています。毎年2月には、地元の神社で奉納公演が行われており、児童たちは晴れ舞台での発表を目指して月に2回の練習に励んでいます。
北原人形芝居保存会の顧問を務める澤村大助(さわむら・だいすけ)氏(84)から、北原人形芝居の歴史や継承への思いを聞きます。また、三保小学校の児童らが北原人形芝居を練習する様子を視察するとともに、児童や澤村氏へのインタビューを行います。
5. 杵築(きつき)市
~高齢化が進む地域における、地域再生や移住者による空き家活用~
杵築市の総人口に占める65歳以上の割合は2020年時点で38.7%と、県や全国の平均を上回っており、民間有識者らでつくる「人口戦略会議」は2024年4月、人口減少が進むことで2050年までに消滅する可能性のある「消滅可能性自治体」のリストに杵築市を追加しました。空き家も課題となっており、同市の総住宅数に占める空き家の割合は2018年時点で全国平均(13.6%)を大きく上回る24.0%となっています。
杵築市では以下の4カ所を訪れ、同市の魅力を知るとともに、地域再生に取り組む住民や、空き家を活用して宿泊施設を営む移住者などを取材します。
5-1. 杵築城下町:江戸時代の街並みが残る歴史的エリアを高齢化のなかでどう守るか
杵築城下町(きつきじょうかまち)は、江戸時代の武家屋敷や石畳の道が今も残る、歴史的価値の高いエリアです。「日本一小さな城」として知られる杵築城を中心に、南北の高台に武家屋敷が立ち並び、高台に挟まれた低地に商人が暮らすエリアが広がる独特な街並みが特徴です。この構造から、杵築城下町は江戸時代の身分制度が反映された「サンドイッチ型城下町」とも呼ばれます。
近年は、建物の所有者の高齢化などに伴い、老朽化した建物の修復が進まず、歴史的な景観を保つことが困難となっています。貴重な街並みを未来に引き継ぐため、杵築市が歴史的建造物の保存や修理に補助金を提供するなど、歴史保全の取り組みが行われています。
ボランティアガイドの案内のもと、杵築城下町の街並みや、大分県の有形文化財に指定された武家屋敷「大原邸(おおはらてい)」を視察します。
画像(左から): ボランティアガイドの尾上敦子(おのうえ・あつこ)氏、二野瀬久美子(にのせ・くみこ)氏
5-2. 柳家: 150年続いた元食堂が、城下町に活気をもたらす交流拠点に。90歳の起業家も誕生!
杵築城下町にある「柳家(やなぎや)」は、明治時代から150年にわたって料亭や食堂として営業してきました。経営者の夫婦が高齢となり、廃業や建物の解体が検討されることになりましたが、「地域のシンボルである柳家をなくしたくない」と考えた娘の小倉倫子(おぐら・のりこ)氏は、2020年にこの場所をキッチン付きのシェアスペースとしてリニューアルオープンしました。
現在、柳家は外国人観光客が自身の国の料理を地域住民にふるまって交流したり、起業を目指す人が商品のテスト販売をしたりと、幅広く活用されています。柳家をきかっけに起業した人はこの3年間で20人にのぼり、そのなかには城下町の空き家を活用して事業を始めた人もいます。2024年11月には建物の2階にゲストハウスがオープンする予定で、地元住民がゲストと一緒に料理作りを行うなど、新たな交流施策も検討されています。
柳家周辺の地域では、小倉氏の活動に触発され、地域の活性化にチャレンジする住民も増えており、11月下旬には柳家の近くに暮らす90歳の女性がジェラート店をオープンさせる予定で、地域に新たな賑わいをもたらすことが期待されます。
小倉倫子氏から柳家を拠点とした地域再生の取り組みについて話を聞き、建物内を視察します。また、90歳の女性が運営するジェラート店などを訪れ、インタビューを行います。
5-3. 山香文庫: 移住者が空き家となった古民家を民泊施設に改装
杵築市山香町(やまがまち)にある「山香文庫(やまが・ぶんこ)」は、農村地帯にある築150年の古民家に宿泊して土地の暮らしを体験できる「農村民泊」施設です。運営者の牧野史和(まきの・ふみかず)氏は、山口県出身で、地域おこし協力隊として杵築市で農業振興に携わったことがきっかけで、2014年にこの地域へ移住しました。その際、15年ほど空き家になっていた古民家を買い取り、住居兼農業の魅力を発信する拠点として再生しました。
現在、2019年に移住した埼玉県出身の鯨井結理(くじらい・ゆり)氏と2人で運営しており、地元で生産された食材を使った食事を提供するなどしながら、ゲストに山香町の暮らしや食の魅力を伝えています。
牧野史和氏と鯨井結理氏から山香文庫の概要や目指すビジョンについて聞き、施設内を視察します。
5-4. 中野酒造: 城下町に唯一残る酒蔵が挑む“伝統と革新”の酒造り
杵築城下町にはかつて多くの酒蔵がありましたが、1軒また1軒と姿を消し、現在残るのは2024年に創業150年を迎えた「中野酒造」ただ1軒です。城下町に唯一残る酒蔵として伝統を守りながら次代に酒造りを継承するため、中野酒造は海外への販路を積極的に拡大。イギリスやブラジルなど15ヵ国に日本酒を輸出しています。さらに、地元産の原料を使った酒造りや、地元食材とのペアリングを提案するなど、地域活性化にも力を入れています。
また、中野酒造は食品ロス削減を意識した酒造りにも挑戦しています。日本酒の製造では、原料となる米の表層を削る過程があり、一般的に「削れば削るほど米の香りが高まり、美味しく高級な酒ができる」と言われます。高級な日本酒「大吟醸(だいぎんじょう)」は米を50%以上削っていますが、中野酒造は、米を削る割合が小さくても味わいのある日本酒を作るために試行錯誤を続けていました。その結果、米を30%しか削らない「ちえびじん 純米酒」が誕生し、2018年にパリで開催された日本酒コンテスト「Kura Master」で最優秀賞を受賞するなど、海外での知名度も確実に広がりつつあります。
2015年に30代で中野酒造の経営を引き継いだ中野淳之(なかの・あつゆき)氏から、同社の酒造りについて聞くとともに、酒蔵の一部を視察します。また、希望する人はお酒の試飲を行います。
<実施要領>
1.日程
2024年11月28日(木)~29日(金)
2.スケジュール
【1日目:11月28日(木)】
07:35~09:20 羽田空港→北九州空港
10:45~12:25 中津干潟
12:40~13:25 昼食
13:35~15:30 久恒山林
15:50~17:20 北原人形芝居
18:30 宿舎着(日田市内)
【2日目:11月29日(金)】
07:45 宿舎発
08:30~10:15 天ヶ瀬温泉
11:35~12:35 山香文庫
12:55~13:40 昼食
13:45~14:20 杵築城下町
14:40~16:00 柳家
16:10~17:30 中野酒造
19:45~21:20 大分空港→羽田空港
3.参加資格
原則として、外務省発行外国記者登録証保持者
*参加者は主催者の判断で決定します。
4.参加費用
15,000円
(全行程交通費、宿泊費(1泊朝食)、昼食(1、2日目)を含む)
※お支払い方法、キャンセル料等については、参加者にご連絡します。
※集合場所までの交通費、解散後の交通費は自己負担となります。
5.募集人数
10名(各社ペン又はカメラ1名、TVは1社2名まで)
※定員を超えた場合は主催者側で調整することがあります。
6.以下を必ずご確認・ご了承されたうえで、お申し込みください
6-1.基本事項
(1) 本ツアーは大分県が主催し、フォーリン・プレスセンター(FPCJ)が運営を担当しています。
(2) 本ツアーの内容は、予告なく変更になる可能性があります。
(3) 参加者には経費の一部を負担いただいていますが、営利を目的とした事業ではありません。
(4) 本ツアー中に発生した事故や怪我・病気、トラブル等について、大分県(主催者)及びFPCJ(運営者)は一切の責任を負いかねます。
(5) 写真・TV撮影を含めて、各取材地では担当者の指示に従ってください。
(6) 本ツアーは、報道を目的とした取材機会の提供を目的としているため、参加者には、本国での報道後、FPCJを通じ大分県に、記事、映像、音声(ラジオの場合)のコピーの提出をお願いしています。また、報道が英語・日本語以外の場合は、内容を把握するため英語または日本語の概要の提出も併せてお願いしています。参加申込者は、これらに同意いただいたものとみなします。
6-2.個人情報の取り扱いについて
以下について予めご了承ください。
※プレスツアーの主催者および運営者は、個人情報の取り扱いに関し、「個人情報保護に関する法律」をはじめとする個人情報保護に関する法令、ガイドラインを遵守し、個人情報を適正に取り扱います。
(1) 運営者は、申し込み時に送信された個人情報(所属機関名・氏名等)を、各プレスツアーにおいて必要があると認められる場合に、以下の目的でそれぞれの関係先に提供します。
・旅行会社を通じた旅行手配・保険加入(提供先:旅行会社、宿泊先、交通機関、保険会社)
・取材の円滑な運営(提供先:通訳者、取材先)
(2) 運営者は、円滑な事業運営を目的に、主催者に申し込み者の所属機関名・氏名を共有します。
6-3.プレスツアー中の主催者・運営者による記録用の撮影
以下について予めご了承ください。
(1) 記録用に、運営者がツアー中の様子を撮影します。その写真・動画の著作権は主催者に帰属します。
(2) ツアーの様子を記録した写真、記事、動画を、主催者および運営者のホームページやSNS等に掲載することがあります。
(3) 前各項の写真・動画に、参加者の肖像・声が映り込むことがありますが、主催者・運営者がそれらを利用することに同意していただきます。
7.FPCJ担当
取材協力課 清水、吉田、水谷
(Tel: 03-3501-3405、E-mail: ma@fpcjpn.or.jp)
◆以下の点を必ずご了承いただいたうえで、お申し込みください◆
・プレスツアーは複数のメディアが参加する共同取材であり、インタビューや撮影は合同で行うのが前提です。したがって、必ずしも全ての取材先で個別の撮影・インタビューができるとは限りません。
・プレスツアーの進行、取材時間、撮影制限に関しては、主催者及び運営者の指示に必ず従ってください。指示に従っていただけない場合、その時点から、プレスツアーへの参加をご遠慮いただく場合もあります。