【カタール】アルジャジーラ 東京支局 松村 マハ リポーター
投稿日 : 2014年11月25日
中東から見ると「日本はほとんどミステリー」だというアルジャジーラ東京支局の松村マハ・リポーター(34)=東京都。日本人の母、シリア人の父を持つ松村リポーターは、シリアの首都ダマスカスで生まれ育ち、20代になって初めて来日した。日々の取材で中東地域にどのような姿の日本を伝えているのかを松村リポーターに聞いた。
Q日本の印象についてお聞かせください。
良い面としては、日本人は几帳面で、計画性があり、時間に正確という印象があります。反対に、日本の社会問題としてよく聞かれる自殺者や、孤独死などについては、人と人の繋がりが強い中東ではまず起こりえないことだと思います。
Q中東の人々の関心が高いのは、日本のどのようなニュースでしょうか。
視聴者にとって、ほとんどのトピックが珍しく映ります。日本人にとって中東諸国については知らないことが多いことと同じだと思います。例えば、カプセルホテル。五つ星ホテルであったり、プールつきであったり、豪華なホテルへ行きたいと考えている中東の人々にとって、日本人が何故カプセルホテルに泊まりたいのか、理解できないでしょう。中東から見て、日本は遠く離れた国。まさにミステリーです。それから、扱うテーマには注意が必要です。ムスリム社会なので、例えば、ファッションショーなど、ミニスカートをはいた女性が登場するような映像は避けなければいけません。
Qジャーナリストを目指すようになったきっかけや、アルジャジーラ東京支局の特派員になると決まった時の感想をお聞かせください。
ジャーナリストを目指していたわけではなく、専門の勉強もしていませんが、運命だと思います。きっかけは、MBC Channel (アラブ首長国連邦)の仕事を手伝ったことです。MBC Channelの現場を通じて、ジャーナリストに必要なスキルを身に付けていく中、この分野への関心も高まりました。ちょうどその頃、アルジャジーラの東京支局から声がかかりました。ここでは、取材テーマ設定、取材アレンジ、スクリプトの作成まで全て一人で行っています。それまで、自分一人でリポートを完結させたことはなく、必ずしも自信があるとは言えないので、今の仕事に大きな責任を感じています。
Qハーフであることは、今の仕事に有利ですか。
日本語ではハーフという。でもダブルと呼ばれたい。中東と日本の架け橋になれればと考えています。私は、日本とシリア、両方の文化が好きです。シリアで起こっている戦争がシリアのことを嫌いにさせるかときかれたら、それは全くない。日本にいると、アラビア語を共通言語として話している中東地域全体が好きだともいえる。中東と日本は非常に離れた国なので難しいとは思いますが、お互いにそれぞれのものの考え方が理解できるようになれればと考えています。仕事を通じた私のゴールは、相互理解を促進することです。
Q最も印象に残っている取材は。
苦労したこととして、鹿児島県にある知覧特攻平和会館の取材が印象に残っています。取材許可をとるまでに1ヶ月半かかり、さらに、現地でも撮影できる場所とできない場所の指定が厳しかった。このリポートの中では、宮崎駿監督の映画「風立ちぬ」(2013年)のクリップも交えたニュース映像を作ったので、使用許可を得るのにも時間がかかり、結局リポートが完成するのに2ヶ月近くかかりました。実は、アルジャジーラ東京支局での初めての仕事で、ああ、これは大変な仕事だとあらためて感じました。
Q日本での取材で戸惑った経験は。
限られた期間で、多角的な取材ができるよう複数の取材先をアレンジすることは、やはり難しいです。取材テーマを決定した後、企業であれば、一つの取材許可を得るのに少なくとも5社には声をかけ、その内1社から取材許可がとれれば良い方。今年の6月上旬には、京都、大阪、神戸を5日間で取材しました。京都では、禅、石庭、舞妓の取材をしたが、撮影許可を出してくれるお寺が一つもなく、観光庁に協力を求めました。この時は、5日間に5本のリポートを作らなければなりませんでした。やはり取材アレンジメントが一番大変だと言えます。
Q一日の仕事の流れを教えてください。
まず、3時間程度かけ、日本の主要紙に目を通します。その後、取材のアポ取りやスクリプトの作成などに取り掛かります。ちなみに、完成したリポートは、夜7時のニュース番組のなかで、国際ニュースの一つとして取り上げられることが多いです。放送された番組(※)はほぼ全て、You Tubeでも視聴できます。これらは、アラビア語だけなので、将来、退職して時間ができたら日本語訳でも作ろうかと考えています。
※FPCJプレスツアーによる報道(2014年09月04日 - 05日 伊勢市プレスツアー「日本至高の聖地・神宮と伊勢の民」)
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松村マハ 東京支局リポーター
1980年12月生まれ。シリア・ダマスカス出身。1999年ダマスカス・ツアリズムカレッジ卒。代々木アニメーション学院でアニメを専攻。国内外の観光業で働いた後、フリーランスリポーターとしてMBC Channel(アラブ首長国連邦)で、伊賀の忍者からお台場の日本科学未来館まで幅広いトピックを紹介したり、Alkass Sport Channel(カタール)で、2011年サッカー・アジアカップ(ドーハ)やトヨタカップの取材を経験。2013年10月から現職。 アルジャジーラ東京支局では、文化を担当。
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アラビア語で半島を意味するAl Jazeeraは、サーニー・カタール首長の資金提供により、1996年首都ドーハに開局した衛星放送テレビ局。アラビア語、英語、ロシア語などでの放送があり、100ヵ国以上の約2.5億世帯へむけて放送している。世界65ヵ国・地域に支局があり、東京支局の開設は2004年。現在東京支局には松村氏他、政治・経済担当、スポーツ担当の、計3名のジャーナリストが所属。