プレスツアー(報告)

一覧に戻る

実施日 : 2019年02月19日 - 20日

報告:福島プレスツアー

投稿日 : 2019年03月22日

東日本大震災・原発事故から8年を迎える福島のありのままの姿、困難な状況の中でも復興に向け挑戦し続ける人々の取り組みを日本駐在の外国記者に取材してもらい、世界に発信するためのプレスツアーが行われました。韓国、中国、台湾、英国、ドイツ、スイス、ハンガリー、米国のメディアから計9名の記者が参加しました(うち米国2名は2日目の中間貯蔵施設部分のみ参加)。

 

※本プレスツアーは福島県が主催し、フォーリン・プレスセンターが企画・運営しました。

 

※ツアー案内はこちら

 

 

【1日目】

 

<コミュタン福島>


 

新幹線で郡山に入った一行は、「福島のいま」を体感できる施設「コミュタン福島」へ。2日間のツアーの導入として、原子力災害からの福島の環境回復の現状、福島県内の空間放射線量をリアルタイムで過去と比較した展示などを視察した後、福島県全体の復興の現状について県担当者から説明を受けました。記者からは、「国が定めた『復興・創生期間』は2020年度で終わる。あと2年で十分な復興が達成できると考えるか」、「2017年度の県産農産物の輸出量が震災前を上回り過去最高を記録したとのことだが、主な輸出先と品目は何か」などの質問がありました。

  

 

 

<かつらお胡蝶蘭合同会社>

 

一部の地区を除いて2016年6月に全村避難指示が解除された葛尾村で村の農業再生に取り組む「かつらお胡蝶蘭合同会社」を訪れ、出荷を待つコチョウランが咲き並ぶビニールハウス内で杉下博澄さんから話を聞きました。記者からは、葛尾村の農業復興にあたりコチョウラン栽培を選んだ理由、事業開始にあたっての行政からの支援の有無などの質問がありました。コチョウランのブランド名「ホープホワイト」に掛けて「今の願い(ホープ)は何か」と問われた杉下さんは、「一度避難した住民が村に帰還して再び生活をやり直すには仕事がなければならない。コチョウラン栽培を軌道に乗せ、葛尾村をもう一度、人が多く住める場所にすること、子どもたちがやってみたいと思うものにしていくことが願いだ」と述べました。

 

 

 

<佐久間牧場>

 

2019年1月に震災発生から7年10カ月ぶりに生乳の出荷を再開した佐久間牧場を訪れました。オーナーの佐久間哲次さんは、原発事故による全村避難指示でそれまで飼育していた約130頭の乳牛すべてを手放したこと、一部の地域を除いて村の避難指示が解除された後、多くの困難を乗り越えて2018年9月に約7年半ぶりに酪農を再開したこと、生乳の出荷までには同10月から計16回の放射線物質検査をクリアしたことを説明しました。記者からは、「乳牛を手放した際に東京電力からの賠償はあったか」「再開にあたり、風評被害により生乳が売れないという不安はなかったか」「村会議員でもある佐久間さんは葛尾村の現状や今後の展望をどう見ているか」などの質問が挙がりました。

  

 

 

<Jヴィレッジ>

 

かつて「日本サッカーの聖地」と呼ばれたJヴィレッジは、原発事故後は東京電力が借り受けて作業車両の駐車場や作業員の寄宿舎として使用されていましたが、2018年7月に7年4カ月ぶりに運営を一部再開しました。記者一行は、広報担当の猪狩安博さんから運営再開までのJヴィレッジのあゆみについて説明を受けた後、天然芝のピッチや、運営再開にあたり新設された屋根付きの全天候型練習場を視察しました。原発事故の影響を心配する声があるかとの記者の質問に猪狩さんは、「関東地方で行ったアンケートで、子どものいる親の半数以上が自分の子どもを合宿等のためJヴィレッジに行かせるかとの問いにNoと回答した。日本代表がJヴィレッジで事前合宿を行うなど使用するようになれば、一般の人たちの利用インセンティブも高まるとの声があったので、トップレベルの選手が使う様子を発信していきたい」と答え、取材翌日(2月20日)からはサッカー日本女子代表(なでしこジャパン)がキャンプを行うと明かしました。

 

  

 

<株式会社ふたば>

 

測量や建設コンサルティングを行う富岡町の(株)ふたばは、東日本大震災と原発事故により全社避難を余儀なくされ、郡山市に本社機能を移していましたが、2017年8月に富岡町に本社社屋を再建しました。遠藤秀文社長は記者団に震災・原発事故発生から現在までのあゆみを説明した上で、「廃炉、高齢化などの課題が山積するこの地域は、日本や世界がいずれ抱える課題を先取りする『課題先進地域』だ。ここでの経験と技術で国内外に貢献したい」と述べました。記者から富岡町に本社を戻した決断について問われた遠藤社長は、「復興がひと段落したときに会社が存続できるかが課題だ。町に住民が戻らず税収もなければ、この地域だけを見ていたのでは会社が持たない。不安はあるが、新しいことにチャレンジしていかなければならない」と答えました。最後に、同社が最先端の測量技術でVR(ヴァーチャルリアリティ)化した、今なお一部が帰還困難区域内の富岡町「夜の森地区」の桜並木を鑑賞しました。

 

 


【2日目】

 

 

富岡町内の宿舎を発った一行は、帰還困難区域を通過して南相馬市へ。バス車内では記者たちが車窓から帰還困難区域の様子や福島第一原発の遠景を撮影する姿が見られました。

 

 

<タカワ精密>

 

産業用機械を製造する南相馬市の(株)タカワ精密を訪れ、福島ロボットテストフィールドが市内にできることを機にロボット産業への進出に挑戦した同社の取り組みについて取材しました。取締役の渡邉光貴さんは、原発の廃炉作業で使用するために開発を進めている水中ロボットを前に、「水中ロボットを地元企業が作ることによって、少しずつでも『ロボットのまち南相馬』を実現していきたい」と説明。記者からは、大手企業が開発している廃炉ロボットとの違い、補助金がなくなった場合のロボット開発の継続可否などについて質問がありました。人材確保について問われた渡邉取締役は、「震災の影響により、この地域は日本でもっとも少子高齢化が進んでいる地域とも言われ、採用には苦労している。ロボット事業などを積極的に進めて会社のブランド価値を高めていきたい」と述べました。

 

 

 

<福島ロボットテストフィールド>

 

2019年度末までに全面開所の予定で整備が進む大規模試験場「福島ロボットテストフィールド」を訪れ、福島県ロボット産業推進室の北島明文室長から概要について説明を受けるとともに、発電所や製鉄所を模した6階建ての「試験用プラント」を建物の外から視察しました。北島室長は、ロボットテストフィールドでは実用化一歩手前のロボットを実際に近い環境でテストできると説明した上で、「浜通りでは既に27件のロボット研究開発が進められており、研究者の間でこの地域は、『被災地』というよりも、『ロボットを使って新しいチャレンジができる場所』として広く認知されている」と述べました。記者からは、ロボット関連企業の新規進出による雇用効果、ロボットテストフィールドの整備や運営に掛かる予算の出所と規模などについて質問がありました。

 

 

 

<富岡復興メガソーラー・SAKURA>

 

 原発事故の影響による休耕農地を活用した富岡町内の「富岡復興メガソーラー・SAKURA」を訪れ、運営の中心を担う福島発電(株)の鈴木精一社長から話を聞きました。鈴木社長は、福島県が2040年頃を目途に県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再生可能エネルギーで賄うことを目標にしていることを説明した上で、SAKURAの出力は約30MWと県内最大級で一般家庭約9100世帯分の電力を賄うことができること、浜通り地域全体で太陽光と風力を合わせて原発1基分に相当する100万kW規模の発電が行われる予定であることを説明しました。記者からは、休耕農地の所有者に支払う賃料、固定価格買取制度による売電価格、メガソーラーを作ることに対する地元住民の反応などについて質問があがりました。

 

 

<中間貯蔵施設>

 

福島県内市町村の仮置場や除染の現場に保管されている除染土壌等は、最終処分に至るまでの間、「中間貯蔵施設」で安全かつ集中的に保管されます。記者たちはまず「中間貯蔵工事情報センター」で、除去土壌等の中間貯蔵施設への輸送から始まる一連の作業の流れ、中間貯蔵施設の施設整備工事の進捗状況について環境省福島地方環境事務所から説明を受けました。続いて、バスで中間貯蔵施設の敷地内へ移動。「土壌貯蔵施設」で降車し、工事担当者から施設の構造について説明を受けるとともに、「受入・分別施設」から運び込まれた分別済みの土壌を重機が敷きならす様子を視察しました。

 

「受入・分別施設」ではバスのまま施設内に入り、仮置場等から運ばれた除去土壌の大型土のう袋(フレコンバッグ)が破られふるいにかけられる分別作業の様子を窓越しに撮影しました。中間貯蔵施設の取材は初めてということで記者の関心が非常に高く、質疑応答では、中間貯蔵に関する作業に従事する作業者の人数、中間貯蔵施設の総工費とその負担者、中間貯蔵施設がそのまま「最終処分場」となる可能性、用地取得交渉の状況などについて質問がありました。

 

 

 

本プレスツアーに関連する報道の一部をご紹介します(タイトルはFPCJ仮訳)

 

中央通信社(台湾/通信社)

3月11日「日本311大地震8週年」(3.11大地震8周年)

 

新華社(中国/通信社)

2月25日「核禁区内的大工地——走进福岛污染土处理设施」(核禁止区域内の大工事現場――福島の汚染土処理施設に入る)

 

参考消息網(中国/ネット)

2月26日「8年过去了,福岛“核禁区”如今变成了这样——」(8年が経った今、福島の「核禁域」はこうなっている)

 

聯合ニュース(韓国/通信社)

2月27日「[르포] 동일본대지진 8년…원전사고 현장 후쿠시마 가보니」([ルポ]東日本大地震8年・・・原発事故の現場・福島を訪ねて)

 

SRV(スイス/テレビ)

3月11日「Leben und Arbeiten in «Fukushima» – acht Jahre nach der Katastrophe」(震災後8年:福島で暮らし働く)

 

Frankfurter Allgemeine Zeitung(ドイツ/新聞)

3月10日「Wiederbelebung in Fukushima」(終着駅 富岡)

3月10日「Orchideen namens «Weisse Hoffnung» aus der Präfektur Fukushima」(メルトダウンから8年:福島における復活)(動画)

 

The Guardian(英国/新聞)

3月11日「Fukushima grapples with toxic soil that no one wants」(福島は誰も欲しがらない有害土壌に取り組む)

3月11日「Eight years after Fukushima, what has made evacuees come home?」(福島原発事故から8年、何が避難者を帰還させたか)


FPCJとは
取材協力
取材に役立つ情報
活動の記録
外国への情報発信