【北陸新幹線開業記念】ウォッチ・TOYAMA・なう! ~ 地方創生は「人」から!~
投稿日 : 2015年04月03日
【北陸新幹線開業記念】ウォッチ・TOYAMA・なう! ~ 地方創生は「人」から!~
日本列島・本州の中北部に位置し、この春開業した北陸新幹線沿線に3つの駅が誕生した富山県。人口も面積も日本全体の約1%であるため、日本の縮図といわれる。全国平均を上回るスピードで高齢化や人口減少が進む地方都市だが、地方ならではの強みを生かして輝きを増す企業も多い。安倍政権が掲げる地方創生のヒントを求め、まあたらしい新幹線で富山を訪ねた。
【東京と富山・金沢を結ぶ北陸新幹線(東京駅)】
富山は、北陸新幹線のターミナル駅となる隣の石川県・金沢と比べると、観光地としての人気や知名度は低い。地元の人も、地味な県だと認めるほどだ。しかし、実際に訪れてみると、美味しい魚が獲れる日本海と2000~3000㍍級の迫力ある山々に囲まれた、自然豊かな土地であることがわかる。
【富山駅に向かう車窓から臨む立山連峰】
北陸新幹線が開業し、これまで3時間11分だった東京-富山間が2時間8分に短縮された。東京-京都間とほぼ同じ時間で結ばれることになり、日帰りでの往来も容易になる。国内外の観光客の呼び込みのほか、企業誘致などへの波及効果が期待される。すでに大手企業が本社機能を移すなどの動きも出ており、観光やビジネスなどで年間約88億円の経済効果が見込まれるとの試算もある(日本政策投資銀行)。一方で、地元では「結局は東京に人が流出してしまう」という声も聞かれ、長期的な影響が注目される。
~世界から富山へ、富山から世界へ~
富山で外国人に人気の観光スポットに、高さ約20㍍にも達する雪の壁を通り抜ける「雪の大谷」(4-6月限定)がある。富山県の渋谷克人観光・地域振興局長は「特にシーズンの始まりは、日本語が聞こえないほど海外の観光客が多い」と話す。渋谷氏によると、周辺のバスやロープウェーを運行する立山黒部貫光株式会社(TKK)がPRに力を入れた結果、2~3年前から海外の観光客が急増。立山黒部アルペンルートにおける年間17万人の団体観光客の約7割(12万人)が台湾人という(H26実績)。タイ・シンガポール・マレーシアからも徐々に増えており、北陸新幹線の開業後も宿泊施設の整備が課題となっている。
【立山黒部アルペンルートの「雪の大谷」】
海外から熱い視線が注がれるのは、雪ばかりではない。日本お得意の「ものづくり」は富山でも健在。なかでも1000度近い高温で銅やアルミニウムなどの金属を溶かし、型に流し固めて加工する伝統的な金属加工技術(鋳造)が発達しており、世界を市場としている。メーカーや関連会社が集まる高岡市に工場がある高田製作所では、硬く凍ったアイスクリームを簡単にすくうことができるアルミニウム製のスプーンが大ヒット。ハーゲンダッツとのコラボで人気に火が付き、ドイツ・ベルリンなどでも広がった。高田晃一常務取締役によると、現在6000人待ちという品薄状態のため工場の新設を計画している。同社のルーツは銅製仏具の製作であり、アイスクリームスプーンはイノベーションの好例だ。
【写真左:アルミニウムの効率的な熱伝導の性質を利用したアイスクリームスプーン 写真中:高田製作所の工場 写真右:金属を高温で溶かす工程の様子】
高田氏は、金属加工で重要な技術な「溶接」や「彫金」の職人が激減していることに危機感を抱き、優秀な人材を確保するため海外にも採用の門戸を開いている。「日本は全体の労働人口が減り、それとともによい人材も減っている」と高田氏。現在、工場で働く34人(19-61歳)のうち4人がベトナム人だ。手先の器用さや集中力、協調性などが優れており、ベトナムが仏教国であることも同社との親和性があるという。今後、インドネシアからも2名を採用する予定だ。
歴史的にものづくりが盛んな富山には、最先端の技術で世界に挑む企業も多い。時速約1224km(=マッハ3)という超高圧水を小さな穴(ノズル)から噴射する工業用切断機器(ウォータージェット)などを製造・販売する株式会社スギノマシンは、1945年から魚津市に本社を構える。同社の技術は、福島第一原子力発電所内部のデブリ(溶けた燃料)の切断・取り出しへの応用が期待されるなど、国内外で注目されている。杉野太加良社長は、同社の発展を支える富山の風土について「水資源が豊富で、安価な水力発電が利用できる。地震も少ない。人々が勤勉で助け合いの精神がある」と語る。今後も富山を拠点に、輸出の割合を5割に引き上げることを目指すなど、積極的な事業展開を描く。
【写真左:高田製作所の高田晃一常務取締役 写真右:スギノマシンの杉野太加良社長】
~「地方創生」は、物ではなく「人」から!~
高田氏は、「地方創生においては、『物』ではなく、『人』に注目するべき。物への注目はそこで止まってしまうが、『この人が作ったものだから買いたい』という気持ちが、その土地へのより深い関心につながる」と語る。この思いから、高田氏は、高岡市で数十名規模が参加するイベントを2か月に1回開催し、地域の生産者との交流の場を設けたり、工場見学やものづくり体験などの機会を提供したりしている。自身も、工場ですず製のお猪口を作る体験プログラムを実施した。自社の商品を直接的に販売するわけではないが、人と人をつなぐこうした取り組みこそが、会社の売り上げや、ものづくりを中心とした地域全体の活性化を長期的に支えると考えている。
杉野氏もまた、厳しい国際競争を勝ち抜くために不可欠な要素として、まず人を重視する。製造業界では品質管理、コスト、納期が3つの基本といえるが、同社はそれに加え「三品主義=品位(のあるサービス)・品格(のある商品)・品性(のある売り方)」を掲げる。「ビジネスは人であり、人は崇高なもの」との強い信念を社員に浸透させ、世界と向き合う。
高田製作所やスギノマシンは、日本全国で奮闘する多くの企業の一例にすぎないが、それでも「人が大事」と語る高田氏や杉野氏の言葉には十分に説得力がある。北陸新幹線開業のブームが去っても、こうした人々が地方を支えていくだろう。
(Copyright 2015 Foreign Press Center/Japan)