三菱総合研究所理事長 小宮山 宏 「世界的課題への対応:『課題先進国』日本の取り組み」 【1】
投稿日 : 2014年11月04日
My Opinion インタビューシリーズ 1 (第1部 第2部 第3部)
総人口に占める65歳以上の高齢者の割合が25%を超え、未曽有の少子高齢化の時代に入った日本。人口減少も進んでおり、地方の疲弊、省エネルギー、年金・医療制度の維持など様々な課題を解決し、いかに持続可能な経済成長を実現するかが問われています。当センターでは、専門家にインタビューを行い、これらの課題の深層に迫る連載を開始します。
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第1回は、元東京大学総長で、現在は(株)三菱総合研究所理事長を務める小宮山宏氏に「課題先進国」である日本の状況について伺いました。小宮山氏の専門は化学システム工学、地球環境工学、知識の構造化で、「地球持続の技術」(岩波新書)、「『課題先進国』日本」(中央公論新社)、「日本『再創造』」(東洋経済新報社)など多数の著書があります。
Q: 日本は「課題先進国」だと、よく言われるようになりましたが、「課題先進国」とは、どのようなものでしょうか。
A: 「『課題先進国』日本」は、私が2007年に執筆した本のタイトルです。私はその中で、「人類が抱える課題を、日本が他の地域より先だって抱える状況になっている」ということを書いています。人類が抱える本質的な問題は、「地球の有限性」「知識の爆発的な増大」「長寿化」の3つだと私は思います。日本は、狭い国土に多くの人が住んでいる。資源が乏しいにもかかわらず、多くの人が高度な文明を享受しています。そこから、課題が生じているのです。
日本はかつて、公害問題や、エネルギー危機の際のオイルショックを経験しています。情報過多の中で個人間の絆が失われる現象も起き、長寿化、高齢社会という問題もあります。文明が成功しているからこそ抱える問題です。
Q: 高齢化の進展は急速ですね。
A:驚くことに、 1900年の世界の平均寿命は31歳でした。それが去年は70歳を超え、先進国に至っては78歳まで平均寿命が伸びてきています。これは、もちろんアフリカの飢餓や貧困などといった問題は依然としてありますが、大きな視点では食糧が行きわたるようになったということです。食糧が足りると、人は長く生きられるのです。聖徳太子は48歳まで生きましたし、ジュリアス・シーザーが暗殺されたのは56歳だと言われています。昔は食べられる人がほんの一部でしたが、今は文明が成功した結果、みんなの食糧が足り、長寿になったのです。
Q: 「地球の有限性」についてはどうでしょうか。
A: 有限の狭い国土で、人口が多く、資源が少ないというのが日本の状況です。これは、やがて地球全体に到来する状況だと思います。人口も増えるでしょうし、資源も少なくなっていきます。ブラジルが開発中の海底油田「プレサル」は、水面下7000メートルにあります。(資源開発が海底深くまで及んでいることが示すように)資源が減少しているのにもかかわらず、地球上の人々が高度な文明を享受し始めたのです。
日本は、「先進的に様々な課題を抱えてきたが、それを解決してきている」というのが、私の主張です。
Q: 「知識の爆発」についてはどうでしょうか。
A: 私が「知識の爆発」を最初に感じたのは、博士課程の学生のころです。40年以上前になります。(所属する)研究室では、学生が論文を分担して読むということになっていましたが、他の学生もそうでしたが、読み切れない学術誌が増えてきたのです。
現在でも、専門家は分野を狭くしないと関連する論文を読み切れない。分業も、全体像が共有されないと成り立たなくなってきている。それには「知識の構造化」が必要です。専門家は、何を前提としてその専門領域が成り立っているのか、外部に知らせることが必要です。領域の境界を意識し合って議論を進めていくのが、一般論で言えば、唯一の方法ではないでしょうか。
Q: 「知識の構造化」がうまくいっている国はあるのでしょうか。
A: ないでしょう。しかし、欧米には議論の風土があります。例えば、マサチューセッツ工科大学のような大学でも、学生が知らないのを前提に基礎から教えるのです。そこで議論し、全体像を共有するわけです。日本には、そこが欠けています。