防衛予算、6年連続の増額
投稿日 : 2018年01月16日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞:来年度予算防衛費 どこまで膨らむのか
日本経済新聞(日経):新たな危機にも目配りする防衛体制に
毎日新聞:防衛費の膨張と北朝鮮 軍事と外交のバランスを
読売新聞:防衛予算増額 「陸上イージス」配備を着実に
12月末に政府が2018年度予算案を発表した。うち、防衛費は総額5兆1911億円で、6年連続の増額、4年連続の過去最高額更新となった。
注目されたのは、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」や長距離巡航ミサイル、戦闘機F35A、無人偵察機グローバルホーク、新型輸送機オスプレイなど米国製の高額な兵器の購入で、産経を除く全国紙4紙は「防衛費増額」を社説で取り上げた。
■ 防衛費増額の妥当性を巡る議論
読売(12月25日付)は、「北朝鮮や中国の軍備増強に対し、日本も相応の防衛力を装備し、抑止力を高める必要がある」として、防衛費の6年連続増額を「適切である」と評価した。特に、北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を踏まえた陸上型イージスシステム(2基、23年度運用開始)を秋田、山口両県の陸上自衛隊演習場に導入し、高度1000キロ超の迎撃ミサイルを配備することで、「ミサイル防衛能力は大きく向上しよう」と指摘した。その上で、2018年末に予定されている新たな防衛大綱と中期防衛力整備計画の策定に関して、「新たな脅威に的確に対処するため離島やサイバー空間の防御、テロ対策を含め、防衛態勢を多角的に強化することが欠かせない」と求めた。
日経(12月24日付)も、「東アジアの安保環境の悪化を考慮すれば防衛力の増強は不可欠」と論じた。しかし、同時に防衛費が効率的に運用されているのかよく見極める必要性を指摘し、「いまの自衛隊のまま、ただ装備を増やせばよいのか。抜本的な組織改編も視野に防衛のあり方を考えるときだ」と主張した。また、サイバー攻撃や電磁パルスなど新たな危機への対応について、「古典的な戦争はもはや想定しがたい」とした上で、「陸海空いずれの自衛隊にとっても主業務でない課題への感度が鈍い」と指摘した。
これに対し朝日(12月23日付)は、「限りある予算のなかで防衛費が膨張すれば、それだけ財政全体が圧迫される」とするとともに、ミサイル防衛をどこまで優先するかについて「巨額の費用に見合う効果があるのか。次々と兵器を購入する背景に、米国への過度な配慮があるのではないか」と慎重な姿勢を求め、年明けの通常国会で徹底的な議論が不可欠だと主張した。
毎日(12月27日付)は、米国の国防費の約1割増額、北大西洋条約機構(NATO)の防衛費の3年連続増額、中国の国防費の1兆元(約17兆円)突破など、軍事力の増強は世界的な傾向だとしながらも、「危惧するのは、軍事力に頼るあまり外交力がかすんでしまうことだ」と指摘し、「地域の安全保障環境をにらみつつ、専守防衛を踏まえた防衛力をどう整備するか。不断の議論が必要だ」と強調した。
■ 米国政府の「言い値」への懸念
一方で各紙は、米国政府による「対外有償軍事援助(FMS: Foreign Military Sales)」に基づく防衛装備の購入の急増に対する懸念も示した。これは、米国政府が窓口となる取引で、「米側が見積もった金額を前払いした後に納入が始まり、納入が完了した後、精算して価格を確定される。このため、後になって価格が上がることもある」(朝日)。このFMSが、2012年度の1380億円から来年度は4102億円にまで膨れ上がることについて、朝日は「日本政府は米国製の最新鋭兵器を買える利点を強調するが、売り手の米国が有利なことは否めない」と主張。事例として、FMSにより2基を導入するイージス・アショアについて、当初は1基あたり800億円と防衛大臣が説明していたものが、わずか半月で1基1千億円弱に上方修正した件を挙げ、「見通しの甘さがあらわになった」と批判した。しかも、同紙は「北朝鮮がミサイルを同時に多数発射したり、複数の弾頭を搭載したりすれば迎撃は困難だ」と疑問を投げかけた。
読売も、FMSによる米国からの防衛装備の購入急増について、「やむを得ない面があろう」としながらも、「米国が価格や納期の設定に主導権を持つ制度のため、その言い値で購入を迫られがちだ」と指摘した。その結果、その他の装備の調達や維持費、自衛隊の訓練経費などへのしわ寄せが深刻化していると懸念を示すとともに「法外な価格上昇を招かないよう、米政府と粘り強く交渉することを忘れてはならない」と念押しした。
日経も、イージス・アショアの価格高騰について、「米トランプ政権の言うがままに、高値づかみすることのないようにしてもらいたい」とするとともに、本来8月の概算要求には含まれていなかった巡航ミサイルは、「使い方によっては敵領土に撃ち込めるとの見方がある。(中略)野党の一部は違憲と反発している。もう少し丁寧に論議してから導入を決めてもよかったのではないか」と指摘した。
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