200年ぶりの天皇の退位に向けた特例法が成立。女性皇族の今後のあり方について、割れる各紙の論調
投稿日 : 2017年06月23日
日本の主要な全国紙5紙(朝日、産経、日経、毎日、読売)から、同じテーマについて論じた社説を選び、その論調を分かりやすく比較しながら紹介します。
朝日新聞: 「象徴天皇」不断の論議を
産経新聞: 円滑な実現に力尽くそう 皇統の男系継承を堅持せよ
日本経済新聞(日経): 改元準備を急ぎ皇族数減少への対策を
毎日新聞: 国民との共同作業は続く
読売新聞: 新天皇への代替わりを円滑に 安定的な皇位継承も検討したい (50音順)
天皇陛下の退位を実現する皇室典範の特例法が6月9日に成立した。天皇陛下が2016年夏に国民へのビデオメッセージでお気持ちを表明されたことを受け、法制化されたものだ。公布から3年以内に施行されるが、2018年末を目途に皇位を皇太子に継承され、「上皇」となられる見通し。天皇の退位は江戸時代後期の光格天皇以来、約200年ぶりとなる。明治時代の旧皇室典範で終身在位制が制定されて以降、崩御によらない退位が実現するのは初めてとなる。
全国紙5紙は6月9、10両日付(朝日のみ9日付)紙面で、天皇制の大きな転機となる「特例法」について拡大版の社説(日経は通常版)を掲げ、天皇退位問題が国会で〝政争の具〟とならずに幅広い合意のもとで成立したことを歓迎した。しかし、「象徴天皇とは何か」や、皇族減少対策のために特例法で付帯決議された「女性宮家の創設」問題については、各紙の論調が分かれ、今後の退位・即位儀式などへ向けた準備過程の中で更なる議論が深まることを求めた。
■ 天皇退位に国民の理解と支持
読売は、特例法成立について、「丁寧に手順を踏んだ結果、陛下のお気持ちに対する国民の共感が法制化の理由に据えられた」として、終身在位の原則を維持しながら特例として退位を認めたことを「現実的な着地点だった」と評価した。また、退位実現の理由の一つに、皇太子が国事代行などをしっかり務め「十分に実績を重ねられている」ことを敢えて強調した。
産経は、「陛下を敬愛する国民が、譲位をかなえてさしあげたいと願い、それが政府や国会を後押しした」として、陛下の〝望まれた譲位〟が実現することを「喜びたい」と歓迎した。また、天皇が退位後「上皇」になられることに関して、古代のような天皇と上皇といった『二重権威』による争いはあり得ないとして、「上皇としての活動を妨げるようなことがあってはならない」と強調した。一方で、特例法整備過程で「首相官邸と宮内庁の間の意思疎通が十分なのか、疑問を感じる場面もあった」と指摘し、今後このようなことが繰り返されないように注文を付けた。
朝日は、特例法成立の背景として、天皇陛下の活動が広範な国民の理解と支持を得たのは「基本的人権の尊重、平和主義、国際協調主義など、憲法がかかげる理念に沿うものだったからだ」と強調した。しかし、特例法の速やかな成立のため、国会における象徴天皇制問題の議論が「表面をなでただけで終わったのは残念というほかない」と論評した。また、『存在するだけで有り難い」と天皇を神格化しようとした〝右派〟の声は「さすがに社会に受け入れられなかった」とも指摘した。
毎日も、「公務に真剣に取り組んだ陛下への共感が、国会の総意を生み出した」とするとともに、今回の特例法成立までの約1年の議論は「当たり前のように社会に根付いた象徴天皇制の現実を直視し、陛下と国民が認識を共有する作業だった」と論評した。しかし、「公務の在り方を含め象徴天皇制の議論は十分には深まらなかった」と指摘。その上で、「〝象徴〟の姿が、ときの天皇の個性や社会情勢に応じて変化するのは当然だろう」との立場から、「天皇と国民が時代に即して議論していくべきだ」と提言した。
日経は、多くの国民が天皇陛下による戦争犠牲者への慰霊や被災地へのご訪問などに「深い共感を寄せた」ことが、「法案の速やかな成立を後押しした」と強調した。また国会において審議が与野党の〝政争の具〟にならなかったのは、「静かな環境を保ち審議を進めた結果である」と評価するとともに、「特例法案で見られた熟議を尽くした末の合意形成の手法は、他の国民的な政策課題に関しても範となることだろう」と論じた。
■ 女性宮家創設では〝論調〟分かれる
特例法成立への評価や歓迎とは裏腹に、同法に付帯決議された「女性宮家創設」や将来の皇位継承問題については論調が分かれた。現在7人いる未婚の女性皇族は、皇室典範の規定により、今後結婚されれば皇籍を離れて民間人となる。一方で皇太子、秋篠宮両殿下に続く男子皇族は、秋篠宮家の悠仁さま一人しかいないという現実がある。
毎日は、女性宮家創設について「具体的な対策として早急に検討すべきだろう」と訴えた。さらに、右派の反発の強い「女系天皇」を容認するかどうかの問題について、明言を避けながらも「男女平等などの時代的背景や安定的な皇位継承という点で現実的な対応だと賛同する意見は多い」と指摘し、将来の皇室の在り方を「どう描くかの議論が欠かせない」と強調した。
日経も、皇族数の減少対策について「遅滞は許されない」と主張した。特に皇族数の減少は「特定の方に負担を強い、国民と皇室の距離に微妙な隔たりを生みかねない」と懸念を表明し、女性宮家の創設に加えて「結婚後も女性皇族が公務へ参加できる枠組みも含め検討する必要があろう」と提言した。
読売は、「皇族数の減少対策として、女性宮家の新設は有効だろう」と評価するとともに「女性宮家の議論を加速させねばならない」と強調した。
朝日は、女性宮家問題は「(天皇陛下の)公的行為をどう位置付け、皇室全体でいかに担っていくか」という問題と密接にかかわるとして「引き続き政府・国会で検討すべきテーマである」との認識を示すにとどまった。
これに対し、産経は「安定的な皇位継承を確保すること」が最重要課題だとしながらも、125代にわたって「一度の例外もなく天皇の即位に貫かれてきた原則は、男系継承である」と強く主張した。その上で「女系継承が行われれば、原則を放棄し、別の王朝を創始するに等しい」として女系天皇は容認できないとの立場を改めて強調した。 このため、女性宮家の創設についても、「安易に『女性宮家』を考えることは、女系継承に道を開く恐れがある」とクギを刺した。
写真: ロイター/アフロ
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