米朝交渉と日本の対北政策
投稿日 : 2019年04月19日
■船橋洋一 『文藝春秋』4月号
ジャーナリストの船橋洋一氏は『文藝春秋』の連載コラム・新世界地政学(「韓国は戦略的に不要」論)で、韓国は保守系政権時代から「日本不要(expendable)論」へ傾斜しているが、その過程で米国で聞かれていた『韓国不要論』が「トランプ政権でより強まっているように見える」と指摘した。これに関連し、船橋氏は、アチソン元国務長官が1950年1月に提唱した“アチソンライン”、つまり在韓米軍を撤退させ日本の沖縄などの軍事基地を対共産主義防衛線とする戦略論への回帰に対する不安が韓国内で高まりつつあるものの、「いま米国で、再びぶり返すとは思えない」と分析する。
しかし、船橋氏はトランプ大統領と北朝鮮の金正恩労働党委員長との非核化交渉をめぐる“取引”が米韓同盟を弱体化させ、文在寅政権がそれを甘受すれば、日米韓防衛の「不可分性」は崩壊して「韓国不要論」が台頭しかねないとする。船橋氏は「怖いのは、性急な“取引”によって非核化が不十分な状態で積み残され、同国(北朝鮮)の核保有化をもたらす」ことであり、そうなれば、「米国の抑止力の失敗を刻印するとともに、(中略)核抑止力の信頼性への深刻な疑問符を惹起することになる」と警鐘を鳴らした。
■古川勝久 『Voice』4月号
国連安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネル元委員の古勝久氏は『Voice』の論文「進まない非核化と『トランプ劇場』」で、トランプ米政権による北朝鮮との非核化交渉について、外交実績を築くために米朝会議を「劇場化」しようとの意向がうかがえ「真剣に考えているようにはとても見えない」と断じた。古川氏は、トランプ政権の外交政策は「イラン包囲網の構築」と「中国との覇権争い」が柱であり、北朝鮮側も「二年後も大統領執務室にいるかどうかわからないトランプ氏を信用していない。そんな人物に、いちばん大事な『資産』たる核・ミサイルを容易に手放す可能性はやはり低い」と強調した。
古川氏は、米朝交渉は始まったばかりであり「トランプ氏には、対北朝鮮交渉をたんなる得点稼ぎの場として考えさせてはならない」とクギを刺すとともに、日本の対応について「非核化が思ったように進まなくとも、少なくとも後退はしないように、あらゆる外交努力を尽くすべきである」と論じた。
写真:AP/アフロ
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