新防衛大綱・中期防の狙い
投稿日 : 2019年04月19日
■森本敏 『外交』Vol. 53
新防衛大綱(31年大綱)と中期防衛力整備計画(中期防)が2018年12月に閣議決定されたが、拓殖大学総長の森本敏・元防衛相は『外交』Vol. 53の論文「新防衛大綱・中期防の焦点」で、全体的な大綱と計画について、「従来と比較して圧倒的に完成度が高く、考え得るあらゆる要素を考慮した、非常に包括的な内容」と評価した。10年ごとに改定される大綱が5年繰り上げて改定された点にいても、日本を取り巻く安全保障環境が急速かつ質的に変化し「より現実に即した対応が必要になった」ことが理由であると強調した。
森本氏は、新防衛大綱の注目すべき点として、①クロス・ドメイン(領域横断的)の脅威に対し日本の防衛力を有機的に融合する②「真に実効的な防衛力」という表現で、相手に確実に打撃を与える防衛力への強い決意を表明する③グローバルな次元への対応として「多次元統合防衛力」を構築する、このため日米同盟をさらに深化させ、かつ多国間の安全保障協力も進めることで実効性を高めることを挙げた。また、新防衛大綱を具体化する中期防(2019年度から5か年間)についても、短距離離陸・垂直着陸が可能な戦闘機「STOVL」機の導入に注目する。背景には、中国の空母「遼寧」が沖縄・宮古島間の海域を通過した例を挙げ、「(中国の)太平洋への進出を踏まえて海上戦の防衛能力を強化する必要性に迫られている」と強調した。中国の空母整備は中期防の期間中に「3隻体制」になるとしている。
一方、森本氏はメディアが「いずも」型のヘリコプター搭載護衛艦(DDH)の改修は“空母化”であり専守防衛に抵触するのではないかと問題視していることについても、「『いずも』型DDHを改修してSTOVL機を搭載しても『攻撃型空母』にならないことは明白」と論じた。同時に、森本氏はDDHの整備の今後の課題について「現在の2隻体制でよいのか」と問題提起し、STVOL機とDDHの統合運用の調査・研究の必要性を指摘した。
■猿田佐世 『世界』3月号
シンクタンク「新外交イニシアティブ」代表で弁護士の猿田佐世氏は『世界』の論文「第4次アーミテージ・ナイ報告分析」で、昨年10月に発表された米国の第4次「アーミテージ・ナイ」報告書」について、経済的、軍事的に拡張する“対中国”色を前面に出した「日米のさらなる一体化、同盟強化を求めるもの」と分析した。さらに、報告書は同盟国を軽視し続けているトランプ米大統領に対し、「いかに日米同盟が重要であるかを訴える」内容だとしている。
報告書は、「日米の経済的結びつきの強化」、「(日米)軍事作戦の調整の深化」、「(防衛産業の)共同技術開発の推進」、「地域のパートナーとの協力拡大」が4本柱となっている。中でも、猿田氏は日米軍事作戦の調整強化のために、①自衛隊と米軍による基地共同使用②西太平洋における日米合同の統合任務部隊の創設③自衛隊への統合作戦司令部の設置④有事における日米共同計画の作成を提案している点について、「高度の日米一体化を指向する提起である」と強調した。
しかし、猿田氏は全体的な評価として、中国を「パワーバランスを変える」存在と位置づけることで、日本に対し「米国がより使いやすい自衛隊」の方向へ誘導しようとしているのではないかと疑問を呈した。また、報告書は「日米の利益は一体」を前提としているが、「日本と米国では利益が異なる場合がある」として、米中、米台関係と日中、日台関係はまったく異なると指摘した。猿田氏は、「第4次報告書は、そうそうたる米知日派の手によるものだが、直接的には現政権に影響力を及ぼせない」として、第1次から第3次までの報告書のような影響力はないとする。しかしながら、「日米同盟が現在の速度で軍事強化を進めていくことは、安全保障のジレンマと呼ばれる軍拡競争を際限なくよび、偶発的な衝突や過剰なエスカレーションを招きかねず、その場合に直接の被害を被るのは日本である」とし、「なぜ「専守防衛」が適切であるとの判断が過去になされたのかについて、立ち止まって考える必要がある」と論じた。
写真:Imaginechina/アフロ
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