全世代型の社会保障とは
投稿日 : 2018年03月09日
■大沢真理・武川正吾 東京大学教授、宮本太郎 中央大学教授
「本来の全世代型社会保障とは何か」 世界 2月号
安倍内閣は2017年10月の総選挙で、消費税の全額を社会保障、教育費に充当する「全世代型社会保障」の方針を打ち出したが、大沢真理、武川正吾両東京大学教授、宮本太郎中央大学教授は『世界』の鼎談で、「反貧困」政策の観点から、高齢化社会の中で深刻化する貧困の進行という現実を直視した社会保障の本来の在り方を論じている。
宮本氏は、政府の社会保障国民会議が「全世代型社会保障」への転換を打ち出したのは2010年であるにもかかわらず、2016年度の予算で消費税引き上げ(3%)によって生じた増収分8.2兆円のうち社会保障に充当したのは1.35兆円に過ぎなかったと指摘。相当部分は国の借金返済に充てられたとし、消費増税が2度延期されたことにも言及し、政権側による(全世代型社会保障)推進の遅れを指摘した。
武川教授も、日本の社会保障給付は「年金」と「医療」中心で、子ども・家族向け給付や福祉サービスへの割合が他国と比べ著しく低いことを挙げ、「『地域包括ケア』『全世代型』などネーミング、スローガンを出すことで何か新しく事態が急速に変わるように印象付けようとしている」と疑問を呈した。
また、厚生労働省は2017年6月に日本の貧困率が下落したと発表したが、大沢氏は独自に再調査した結果、貧困基準は名目では前回と変わらず122万円だが、実質で見ると前回より数万円低下していたとして、「貧困基準の実質値が下がったということは、名目の貧困基準で営める生活の質が低下している」ことであり、貧困率が下がり事態は改善しつつあるとの分析に疑問を呈した。その上で、「公式には貧困層ではないが、生活保護基準に届いていないという層がジワジワ増える事態になっている」と懸念を示した。宮本氏によると、生活保護の申請をしても受理されない人は年間40万人に上っており、国民保険料を払えない人は336万人に達している。
さらに、大沢氏は「就労しているひとり親の貧困率は、日本はOECD(経済開発協力機構)諸+インドと中国の中で最悪」と指摘。宮本氏も、母子家庭のような〝ひとり親世帯″には、「年収が130万円を超えて児童扶養手当が部分的にカットされてしまう人も増えている」と、制度上の硬直性から生活を圧迫する要因になっていると問題視した。
大沢氏はまた、日本とドイツは社会保険料負担が世界で最も高い国であるとしながら、低所得者への対応では、ドイツが「社会保険は強制適用されない」のに対し、日本は「全員適用」であると指摘。社会保険料の負担増から低所得者が貧困化しかねないと懸念を示した。
さらに、大沢氏は所得税の〝累進度″についても、「日本の税・社会保障制度はOECD諸国の中で最も累進度が低く、政府が所得再分配することによってかえって貧困が深まってしまう層もいる」と指摘する。どのように累進制を回復するかについては、「最高税率を若干引き上げるといった手法では追い付かない」と強調、縦割り行政を排し、「現実を直視して、総合的に知恵を絞れる部署を政府の中に設けること」を提言した。
写真:森川秀典/アフロ
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