高齢者介護問題とシルバー人材活用
投稿日 : 2017年11月28日
■長岡美代「施設の急増と人手不足で特養にまさかの空床も」中央公論11月号
介護・医療ジャーナリストの長岡美代氏は『中央公論』の論文で、高齢化社会の到来で一時は入居待機者が52万人にも上っていた特別養護老人ホーム(特養)が、最近では「入居者が思うように集められず、各地で定員割れを起こしている」とし、「約26%の施設で空床が生じ、新規開設でも満床になるまで平均5.8カ月もかかっている」と強調した。最大の理由は、2015年度から入居者が原則「要介護3」以上の中重度者に限定されたためだと指摘、特養を含む老人ホームに関する全国の120自治体調査を実施した結果、「老人ホーム全体が危機的な状態に直面しており、この先、介護業界の存続が危ぶまれる事態が生じている」と述べた。
また、特養の定員割れの要因の一つは、民間の老人ホームである「サービス付き高齢者向け住宅」が、国の建設補助導入で制度創設6年間に全国各地に22万戸も急造されたことを挙げる。しかも、そうした老人ホームは質的なばらつきが大きく、「介護施設のような人員基準がないため必ずしも入居者の数や心身状態に見合う職員が配置されているとは限らない」と問題点を指摘。また、介護分野の人手不足は深刻で、倒産の業種別内訳を見ると、13年1月から17年6月末までの人手不足による倒産が最も多かったのは、老人福祉事業の19件であったとしている。
長岡氏は、介護認定者を上回る老人ホームの供給過剰についても、「団塊の世代の高齢化への対応が急務とはいえ、現状を踏まえないまま前倒しして箱モノを作り過ぎると、余計に人材不足を招くだけでなく、財政にも悪影響をもたらしかねない」と批判した。
■【対談】橘木俊詔 x 石本淳也「現場の人手不足をどう解決するか」中央公論11月号
京都女子大学客員教授の橘木俊詔氏は、『中央公論』の石本淳也・日本介護福祉士会会長との対談で、介護職の有効求人倍率は3.56倍(2017年7月)と高いのに人材が集まらず、しかも定着率も極めて悪いとして、介護現場の深刻な人手不足に警鐘を鳴らした。
橘木氏は、人材不足の解決策として、①介護職の賃金の上昇②50代、60代の雇用拡大③(石本氏の指摘として)介護福祉士の専門性の評価向上――を挙げる。さらに、介護現場への外国人材受け入れが必要としているが、「資格条件が厳しすぎる」として、日本語が多少できれば外国人の介護士を増加すべきだと指摘した。また、介護職の報酬単価の引き上げのためには、保険料、自己負担、税制の3つの選択肢があるが、「経済学者として、福祉、社会保障は税が中心であるべきである」とし、「税金を介護に投入して報酬単価を上げてほしい」と主張した。
さらに橘木氏は、介護保険料の徴収額をアップするため、支払い開始年齢を現行の40歳から引き下げる議論を本格的に行うべきと提案。他方で、「年金や医療と違って国民の大半がベネフィットを受ける制度ではない」ため、「掛け捨て」となる8割の人たちに「我々経済学者の責任で、『保険とはそういうものである』と説得する」必要性を主張した。
■葉上太郎「シルバー人材センターがすごい」文藝春秋10月号
地方自治ジャーナリストの葉上太郎氏は、『文藝春秋』の記事で、高齢化社会のもう一つの側面として「シルバー人材」の活動が活性化し、各地のユニークなサービスが成果を挙げていると報告した。シルバー人材センターは高齢者の生きがいのために、原則として市区町村単位に設置された社団法人で、自治体の60歳以上の居住者が登録し安価で仕事を引き受けるというもの。2015年度末の団体数は1324団体に上り、約72万人が登録している。
成果を挙げている一つが、埼玉県川越市のシルバー人材センターによる観光ガイド「妖怪伝説ツアー」。1986年の発足という歴史を持ち、厳しい面接を経て、妖怪伝説で有名な川越の観光案内を現在80歳までのガイド36人で担当している。葉上氏によると、ガイドになるためには「1年間無報酬で研修し、内部の試験に合格して初めてガイドになれる」としている。
このほか、兵庫県芦屋市の悩みのある人の話を聞く「傾聴グループ」や、現役時代の経験を活用した語学研修や庭木剪定講座等を紹介、葉上氏は、「シルバー人材センターは面白い。第一の人生から解き放たれた人々を結び直す。軽作業で小遣い稼ぎの場にすることもできるし、新たな可能性を模索できる」と指摘した。
写真: Haruyoshi Yamaguchi/アフロ
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