日ロ関係は進展するか
投稿日 : 2016年12月08日
■日ロ関係は進展するか
・鈴木宗男 「二島返還だって大成功だよ」 文藝春秋12月号
ロシアのプーチン大統領の12月15日からの訪日を控え、北方領土(択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島)問題の解決に向けた日ロ交渉の行方に国内の期待が高まっている。こうした中北海道出身で新党大地代表の鈴木宗男氏は、文藝春秋12月号で、安倍晋三首相とプーチン大統領との首脳会談では、「たとえば、一八年までに平和条約を締結し、二島を引き渡す」という声明を出すことが、膠着状態にある日ロ交渉を進展させる方法ではないかと主張している。
鈴木氏が、この段階で歯舞、色丹両島の「2島返還」を改めて強く主張する理由の1つは、1951年サンフランシスコ講和条約締結の際、日本は南樺太と千島列島を放棄したが、「当時の外務省の西村熊雄条約局長は千島列島に南千島(国後と択捉)も含まれると答弁している。つまり、日本は国後と択捉を放棄している」との立場をとっているためだ。
また、鈴木氏は1956年の日ソ共同宣言について、「『歯舞諸島及び色丹島については、平和条約の締結後、日本に引き渡す』ことについても同意した」「プーチン大統領は、二島引き渡しを認めた日ソ共同宣言は、法的な義務だとしている」と主張。その後ロシアとの駆け引きで要求した「四島一括返還」については、ソ連崩壊とロシアの誕生を境に「旗を降ろした」との見解を示す。2島返還後の国後、択捉両島の「継続協議」については、ロシアの世論などを考えても、「私はもはやこれは通用しないと考えています」としている。
では、国後、択捉両島についてどのような折り合いをつけるのか。鈴木氏は、「共同経済活動や人的交流、共同統治などさまざまな選択肢がある」として、日ロ両国が英知を結集させるべきだとしている。特に、択捉島にはロシアの巨大民間企業「ギドロストロイ」が進出し、観光、公共事業などを行っていることから「共同活動ができるようにするのが良い」としている。
また、鈴木氏は、ロシアが2016年から二百海里経済水域でのサケ、マスの流し網漁を禁止したことは「根室だけで二百五十億円の経済損失」だと指摘し、歯舞、色丹両島が返還されれば日本の漁場は何百倍にも拡大することから、「島の面積ではなく、海の面積も考慮すべきだ」と持論を展開した。
・中西輝政 「二島返還は売国の行ない」 Voice12月号
これに対して、京都大学名誉教授の中西輝政氏はVoice12月号で、歯舞、色丹の“2島先行返還論”は「国家としての日本の原則である『法と正義』の立場の放棄を意味する」と強く反対。欧米諸国がロシアのクリミヤ侵略やシリアにおける戦争犯罪行為などに猛反発している情勢において、「平和友好条約締結というほどの対ロシア接近を行うことは、少なくいって『適切ではない』ことは誰の目にも明らかではないだろうか。失うものがあまりにも大きいことに気付くべきだ」と強調した。
中西氏の主張は、北方領土4島が日本の固有の領土であるとの前提に基づく。1855年に当時の江戸幕府が日露通好条約を締結した際、両国は千島列島の最南端にある「得撫島」とその南にある「択捉島」との間に国境線を定め、領土の再確認を行った。中西氏はこの条約締結が、「いまも日露関係を律するとされる『法と正義』の原則に基づく日本の国家としての最重要の立脚点」であるとして、択捉島以南の4島が「日本の固有の領土であることは、たとえ何年、時がたっても動かしようのない事実」とした。さらに、1991年4月にゴルバチョフ大統領が訪日した際の「共同声明」において、「四島をめぐって領土問題が存在する、ということを日ソ(露)両国が初めて公式の文書で認めた」と指摘。これこそが日本が死守すべき原則だとして、安易な2島返還論を非難した。
中西氏は、2島返還論者が根拠とする、西村熊雄・外務省条約局長が「国後、択捉両島の放棄」を認めたとする国会答弁(1951年10月19日)についても一蹴。その理由として吉田茂首相によるサンフランシスコ講和会議での演説(1951年9月7日)を挙げ、ソ連による北方領土の「『不法占拠』」を指摘し、1875年の外交交渉で北方4島が日本の領土と認められたと主張した吉田首相の演説は「条約局長の発言など比較にならないほど重い言葉」とした。
プーチン大統領の訪日を控え、中西氏は、安倍内閣の「新しいアプローチ」による日ロの急激な関係改善の動きに、国際情勢の観点から強い懸念を示している。米国、欧州連合(EU)がロシアのクリミヤ侵攻などに厳しく反発しているなかで、日本が対ロ接近することは、①日本の歴史とアイデンティティの喪失につながる②日本の国際的信用にかかわり、国家の安全保障の支えを失いかねない、と指摘。日ロ接近が中国への牽制になるとの見方についても、「日本の側にわずかでも領土に関して譲歩と受け取られるような姿勢が見られれば、すぐさま中国は日本の隙を突いてくるだろう」と警鐘を鳴らす。さらに、日ロ接近は、パワーゲームのダイナミズムから見れば、結果的に“米中接近”を招来しかねず、「これこそ日本として一番困る事態ではないか」と論じている。
写真:代表撮影/ロイター/アフロ
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