シルバー民主主義と世代間対立
投稿日 : 2016年07月08日
・猪木武徳「世代間対立はデモクラシーの宿命である」 中央公論7月号
7月10日に迫った参議院選挙では、18歳選挙権が国政選挙として初めて適用される。世界の主要国で、政治・経済の重要課題としてのしかかっているのが高齢化と長老(高齢者)支配という問題だ。若者の要求をよそに高齢者向けの政策が優先される「シルバー民主主義」の弊害を指摘する声は、年々高まりつつある。少子・高齢化社会の急速な進展の中で生じてきた「世代間対立」の調整は簡単ではない。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
この問題の根本にメスを入れたのが、大阪大学名誉教授の猪木武徳氏の論文だ。少子高齢化による年齢構造の変化が「世代間対立」を助長してきた要因として、「世代間の対立がはっきり浮き彫りになってきた背景に、家族構造の根本的な変容があった」と分析している。
猪木氏は、近年の社会の基本構造について、「本来は垂直的な関係から築かれていたにもかかわらず、水平に置き換えることが当然と思うようになった」とした上で、市場経済やデモクラシーによって社会が経済的に繁栄した結果、「豊かさが人々の独立心を強め、あらゆる年齢層から連携の精神を衰弱させたのである」と指摘する。このため、高齢者と若者が“家族”という共同体を媒介せずに、「相互に無縁の孤立したグループとしてとらえられるようになってきた」としている。
また、猪木氏は、“公正”という視点に立った「世代間のバランス回復」のための直接的な方法は、「選挙権の年齢引き下げという選挙制度の改正であろう」と明言。7月の参院選では若者の有権者が約240万人増えるが、猪木氏は「それ(選挙権の年齢引き下げ)だけで『老いる日本』を救えるわけではない」と言い切るとともに、人間は年齢ごとに抱える悩みや問題が異なるがゆえに、「同世代同士で『公共の事柄』を議論する場所や機会を設ける必要がある」と提言している。そして、問題解決に不可欠な「世代を超えた共感(compassion)」が生まれるためには、同じ世代同士が議論できる合議体を組織するなど、実験的な試みも必要ではないかと述べている。
・岡本章「年金給付削減は政治的に実現できるのか」中央公論7月号
岡山大学教授の経済学者・岡本章氏は、単にシルバー民主主義が進展しているだけではなく、「シルバー民主主義がさらに少子高齢化を加速するという負のスパイラルに陥っているのではないか」と分析、このような悪循環を断ち切るために「ドラスティックな選挙制度改革を早急に実施するべきであろう」と提言している。
具体的な選挙制度改革案として、未成年者に投票権を与え、親が子供に代わって投票を行う「ドメイン投票方式」、有権者を年齢階層別にグループ分けし、青年区(20~30代)、中年区(40~50代)、老年区(60代以上)の各グループから有権者数に比例した定数の議員を選ぶ「世代別選別選挙区制度」、投票権に有権者の余命に応じた重みをつけて若年者の1票を重くする「余命別選挙制度」の3つを挙げている。
岡本氏は、「ここで取り上げた選挙制度改革案は現実離れした劇的なものばかりで、実際には世界のどの国でも実施されていないという反論があるかもしれない」としながらも、「日本の現在の少子高齢化が世界でどの国も経験したことのない、未曽有の水準に達しているという現実を直視しなければならない」と強調。だからこそ、選挙制度改革により「若者世代に蔓延する閉塞感を取り除き、長期的な視点に立った政策が実施可能になる」と論じている。
・古市憲寿「18歳選挙権よりもっと重要なこと」 中央公論7月号
社会学者の古市憲寿氏は、中央公論7月号で、投票権年齢引き下げを評価しながらも「より重要なのは被選挙権年齢の引き下げだと思う」と主張している。古市氏は、「海外で二十代の大臣は当たり前。カナダなど、国のトップが四十代という国は珍しくない。(中略)クールジャパン担当大臣なんてどう考えても六十代のおじいちゃんよりも、二十代のほうがいいに決まっている」と訴え、「被選挙権年齢が引き下げられて初めて、政治が若者のことを本気で迎え入れたことになる」と主張している。選挙権年齢引き下げについては、「選挙権が二歳引き下げられたところで、社会はほぼ何も変わらないはずだ。(中略)新たに有権者に加わるのはたったの二四〇万人に過ぎない。本当に微々たる割合である」と述べている。
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