今月の論壇から

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南シナ海の現状と日米の立場

投稿日 : 2015年08月21日

<今月取り上げた月刊誌>

『正論』『世界』『中央公論』『文藝春秋』『Voice』(いずれも8月号)

◆ 2015年8月 ◆

 

 

2.南シナ海の現状と日米の立場

「『日米+ASEAN』で南シナ海を守れ -中国の海洋支配への抑止力」佐藤正久 [Voice]

「『中華膨張』南シナ海支配の最終段階」香田洋二・小原凡司 [文藝春秋]

◆「日・米・中動乱の幕開けと中国の野望『驚愕の本質』」中西輝政 [正論]

◆「南沙諸島 緊張煽り 集団的自衛権 後押しする米」岡田充 [世界]

 

海■  「南シナ海は力の空白部分」

今月の月刊誌では、南シナ海の現状を取り上げた論文も多い。元自衛官で参議院議員の佐藤正久氏は、『Voice』8月号に寄稿した「『日米+ASEAN』で南シナ海を守れ -中国の海洋支配への抑止力」のなかで、南シナ海を「力の空白部分」だとしたうえで、「……中国は、アメリカの抑止力が衰え、南シナ海におけるパワーバランスが崩れた隙を突き、機は熟したとばかりに領海侵入を繰り返している」と説明。中国の行為に対しては、「アメリカといえども、この状況では戦争でもしないかぎり、中国を止めることは容易ではありません」と分析し、「軍事介入や経済制裁以外で、アメリカが外交努力を通して南シナ海におけるリバランス(再均衡)を推進できるか否かが重要なポイントになります」との見方を示している。

 

佐藤氏は、「中国の最終目的は、世界に通じる太平洋を手中に収めること」として、日米防衛協力の指針(ガイドライン)に基づいた日米の協力に加え、ASEANとの連携の重要性を説いている。中国による「現状変更の試み」に対して、「……日米とASEAN諸国がスクラムを組むことは、南シナ海におけるパワーバランスを保つうえで効果的なメッセージとなる」との考えで、マレーシアやベトナム、インドネシアなどASEAN諸国に自助努力を求めつつ、「平和安全法の整備に基づく共同訓練、共同警戒監視など多国間の連携を強化する体制こそが、中国の海洋支配への抑止力として最も効果的」と主張している。

 

■中国の南シナ海進出がもたらす軍事的脅威

『文藝春秋』8月号では、元自衛艦隊司令官の軍事専門家・香田洋二氏と元駐中国防衛駐在官で東京財団研究員の小原凡司氏が、「『中華膨張』南シナ海支配の最終段階」のテーマで対談している。香田氏は、南シナ海の複数の岩礁で進む中国の埋め立て行為をアメリカが阻止しようとしている動きにふれ、その理由について「……南シナ海を中国の自由にさせると、米本土への核攻撃が可能となる態勢ができるから」と説明。小原氏は、今後の米中関係について、「……九月の習近平訪米までは、南沙諸島をめぐって米中間ではことをこれ以上荒立てずに水面下でのやり取りが続くでしょう」「もし中国がひかない場合、アメリカがさらなる一歩を踏み出さなければならなくなる恐れがあります」との見方を示す。

 

現状を打破する一手として、香田氏は「本来、人間が居住できない岩や岩礁の埋め立てや人造物は、国際法では領土として認められません」「……中国のやっていることは、大規模な自然破壊でもあります」などの点をとらえ、あらゆる側面から国際世論を喚起する必要があると主張している。また、フィリピン、ベトナム、マレーシア、インドネシアの各国が大型巡視船や潜水艦の配備を進めて海洋監視能力を強化していることにふれ、「日米両国は国際社会の一員として、周辺諸国と連携し、中国に対して良識と節度をもって行動するよう信号を送るべきです。日本の果たすべき役割は大きいのです」と締めくくっている。

 

■転換を始めたアメリカ

京都大学名誉教授の中西輝政氏は、より長期的な観点から、米中関係が「……歴史的な転換期を迎えている」と分析している。中西氏は、『正論』8月号に寄稿した「日・米・中動乱の幕開けと中国の野望『驚愕の本質』」で、アメリカが対中融和姿勢を見せていた2008~2009年をピークに米中関係が変質し、中国の南シナ海進出や、今年6月に一部メディアが中国によるものと報じた対米サイバー攻撃を経て、今や「危機的な局面」を迎えていると分析している。中西氏は、2つの資料をあげてこの転換について説明している。

 

一つは、米国防総省で中国の軍事戦略を長年研究してきたマイケル・ピルズベリー氏が執筆し、今年2月に発売された『100年のマラソン』である。この本の内容は、「……中国はアメリカにとって代わって世界の覇権を握る長期戦略を秘密裏に進めている」というもの。中西氏は、「……アメリカが――そしてピルズベリー自らも――長年推進してきた対中関与(エンゲージメント)政策をほぼ全面的に否定したうえで、『我々は騙されて続けてきた』と断じている」点に注目し、「長年アメリカの対中政策の立案にも関わってきた人物の自責の念を込めた決意の発言だけに、衝撃的であると同時に深い説得力がある」としている。

 

二点目は、アメリカの外交政策に影響力を持つ外交問題評議会(CFR)が、今年3月に発表した特別報告書『中国に対するアメリカの大戦略の転換』である。報告書の序文には、「中国の経済軍事両面での大きな膨張は、アメリカのアジアにおける利害、あるいは全世界におけるアメリカの利害に対して、大きな危険をもたらすだろう」などと記されており、中西氏は、CFRのこれまでの見解とは異なる中国への敵対的な認識が読みとれると分析。この報告書の内容が、「……たとえ時間を置いてもアメリカ政府の対中政策に必ず大きく影響すると言ってよい」とみている。

 

中西氏は、「アメリカが、今ようやく中国の本質に目覚め始めている。国際政治の歴史に照らしても、このアメリカの対中政策転換の兆しは、必ず大きな流れになる」と主張する。日本をはじめとする同盟国は、「……アメリカの変化をしっかりと観察しながら、自らの国防体制をしっかりと強化していくべきである」とし、さらに、日本が自国を守る「覚悟」が明確であるほど「……アメリカの対中戦略の歴史的な転換をより確実なものとしうるのである」と論じている。

 

■米国における中国脅威論

これまで紹介したように、中国の脅威についての論文が多く見られる一方で、中国は脅威であるという認識そのものに反対する意見もある。ジャーナリストの岡田充氏は、『世界』8月号に寄稿した「南沙諸島 緊張煽り 集団的自衛権 後押しする米」のなかで、南シナ海の南沙諸島(スプラトリー)を巡る緊張は、アメリカ政府が日本の集団的自衛権行使を後押しするためにあえて危機感を煽っている「疑似緊張」ではないかという疑いをなげかけている。

 

岡田氏は、元米太平洋軍司令官(元国家情報長官)デニス・ブレア氏が今年4月に来日した際に、「東アジアを見渡した場合、紛争が起きる可能性があるところは見当たらない」などと発言したことにふれ、この認識こそが「オバマ大統領の『本音』を代弁していると思う」と述べる。そして、ブレア氏の発言からわずか1ヶ月半後に、米国が中国による南沙諸島での飛行場建設を阻止するため軍事行動を検討していると一部米メディアが報じたのは「世論操作」であると分析している。

 

また岡田氏は、米国の対中政策は、「経済と安保の『股裂き』」とみている。オバマ大統領が、中国の南シナ海進出の動きについて「中国側の領有権主張に一定の理解を示す発言をした」との香港フェニックスTVの報道を紹介し、「オバマ政権がとる『アジア回帰』(リバランス)政策は、世界第二位の経済大国、中国と経済的な利益を共有する一方、日本に米抑止力の肩代わりを委ねる『両面政策』である」と主張している。こうした米国の動きから、岡田氏は、日中和解は米国の「国益」に適うものであり、「……安保法制が国会を通過した後、米中の激しい確執は一点して収まる可能性が高い」との見方を示している。

 

南シナ海をめぐる中国の動き、そして米国の対中政策をどう分析し、自国の安全保障政策を確立するか。この夏、日本の立場があらためて問われている。

 

 ※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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