外国記者に聞く

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【米国】AP通信社 東京支局 山口真理記者

投稿日 : 2014年10月09日

DSC_0120「人の代わりに自分が見たり聞いたりした事をいち早く、多くの人に伝えたい。基本はそこにある」好奇心を原動力に報道の第一線を走り続けるAP通信社の山口真理記者(52)=東京都。あたたかな雰囲気の中に凛とした揺るぎない強さを感じさせる山口記者に外国通信社での仕事ぶりや取材をする際に心がけていることなどについて聞いた。

 

 

 

 

~感謝を忘れず、常に弱者の立場から報じる~

 

-外国通信社の記者になられた経緯を教えてください。

報道の仕事に関心をもったきっかけは、高校時代のアメリカ留学。海外には、日本についてよく知らない人がたくさんいて「こんなことも聞かれるのか」と驚くことがあった。そんなことから、日本の文化や伝統について自分できちんと勉強して、外国の人にもっと日本の事を伝えていく必要があるのではないかと思うようになった。また、父が社会科の教師で、子供のころから人権問題などについて家庭内で話をすることが多かったので、その環境も影響したのかもしれない。

 

-お仕事をする際の「モット-」は。

「力を持っている側におもねることなく、常に弱者の立場に立つこと」を心がけている。政府や大企業などに対して、知る権利を求めて挑戦していく立場はとるとしても、例えば一般の方にインタビューをするときは、ご厚意でお話しを伺っているのだという感謝の気持ちを忘れないようにしたい。それから、冷静さを保つこと。取材の中で、共感することがあっても、自分が活動家になって特定の人の側に行ってしまうことは、一線を越えることになるのでしない。他には、取材したいと思う何かを一度見つけたら、途中であきらめずに追い続けるということ。

 

~早く正確に、今の日本を切り取る~

 

-1日のお仕事の流れを教えてください。

最近は、シフトを作ってこの時間にこれを出すというスタイルではなくなっている。取材があれば先に取材してから出勤したり、記者会見があれば途中で出かけたりとパターンがない生活。iPhoneのカレンダーが頼り。通常は出勤するとまずメールや朝刊をチェック。その後、突発的なニュースがあればそれに取り掛かるが、そうでなければニュースを一方の目で追いつつ、やりかけの企画記事に関する取材や調べものをしたり、原稿を書いたりする。できるだけ早くというのが締め切り。スポットニュースと呼んでいる日々のニュースの場合は、ツイッタ―に載るぐらいの短いものを第1報で出し、できる限り早く第2報を出す。その後、ニュースの重要性に応じコメントや詳細を追加または更新するという段取りで作業する。裏を取ることがものすごく難しいものや刻一刻と事態が変化する事故などを別として、大体1-2時間で終わらせる。他には、新聞の紙面半分もしくは3分の1ほどの長さの記事を写真や映像と共に配信する特集ものなどがある。取材を含め数日から数週間で書き上げたいところだが日々のニュースによって、お預けになることも多い。この2本立てで、いくつかプロジェクトを進めている。

 

―海外に日本の情報を発信する上で、難しいと感じることはありますか。

最近は、日本の全体的な注目度が下がってきている。日本が経済的に優位だった時は、日本というと何かと注目されていたが、その地位は今、中国が担っている。中国との領土問題や歴史問題で記事になることは多いが、日本というだけで何を書いても記事になる時代ではない。今の日本社会の有り様をきちんと切り取っているか、ということを考えながら、それを伝えられる記事にしなければいけない。いろいろ取り上げたい問題はあるが、それをどのように書くのか。今は待っておこう、これはパスして違うことをやろうというように、テーマを選ぶのが難しい。

 

―記者をやっていて良かったことは。

歴史的に重要な出来事の瞬間にその場にいられるということ。何かが起きたら人より先、もしくは同時にそこへ行き、現場で関係した人や事件と接してそれを人に伝える経験ができる。そこにやりがいを感じる。また、取材は必ずしも堅いニュースばかりではなく、いろいろな出会いがある。著名人に限らず一般の方でも同じだが、少し長めのインタビューなどでは「この人にお会いできてよかったな」と感動したり、生き方で教えられるようなことがあったりする。

 

―最も印象に残っている取材は。

もちろん3.11は印象的だったが、それ以前で言えば1995年。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、戦後50周年という人生最大の出来事が重なった。関西出身ということもあり、阪神淡路大震災で神戸の取材をした時は、非常にショックを受けた。3.11後は、2か月ほど原子力安全・保安院に籠る生活で現場には行けなかったが、今後どのように復興していくか追っていきたい。自分が生きている間に終わるかという懸念はあるが、原子力発電所の廃炉作業が完了するまで見届けたい。

 

~大切なのは取材力~

 

-キャリアウーマンとして輝き続ける秘訣は。

幼い頃から物怖じしない性格で、今も「人より先に何かを見つけて伝えたい」という欲望に正直にやっている。しいて言えば、広く浅くになってしまうとしても、様々な知識と問題意識を持ち続けること。何か書く以上は、できれば机の上の取材ではなく、日常からかけはなれたものであればあるほど、自分の目で見て体験し、自分が感じとったことに基づいて書きたい。福島の原発関連の取材で、「女性」という事を理由に制限されそうになったことがこの3年で2回ほどあるが、抗議した結果、どちらも最終的には受け入れてもらえた。この仕事を始めたころに比べれば日本も変わってきたと思う。世界中の女性のために、というと大げさだが、これから記者を目指している方々にも頑張っていただけるように頑張りたい。

 

―今後、記者を目指す方々にアドバイスをお願いします。

記者と言ってかしこまっているが、基本的にはやじ馬。英文で書くために基本的な語学力は必要だが、調べもの好きで根気強く一つの事を追及することができたり、あるいは世の中で起きているちょっとしたことを面白いと思えたりする、そんな敏感な取材力の方が大切。また、3.11の原発取材を通じて感じたことだが、少しでも自分の専門分野があると力になる。必ずしも、すごく専門的なことを書く必要はないが、知っているということで良い記事が書けるのではないかと思う。普段、すっと通り過ぎていくことでも、知っているからこそ質問ができ、そこからまた疑問が生まれる可能性もある。それに加え、今後はどの会社でも、書くだけ写真だけというのではなく、一人で全部できる人材が求められる。複数の媒体を取り扱えるように私たちも頑張らなければならない。

 

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DSC_0161山口真理記者

1962年2月生まれ、京都出身。

同志社大学で経済学、スタンフォード大学院でジャーナリズムを専攻。

大学院卒業後、帰国、1988年より現職。主なカバーエリアは、原子力・政治・外交・安全保障・人権問題など。

 

 

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AP通信社

ロゴ1846年創立。NYに本社を置く5つの新聞社により、非営利の組合組織として誕生。世界最古、最大の国際通信社のひとつ。従業員は全世界に約4,000名、280カ所に支局を構え、英語・スペイン語・アラビア語の3か国語で配信している。東京支局では記者6名をはじめ、写真・テレビ・技術担当者など約30名が活動している。

 

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