実施日 : 2008年09月25日 - 26日
9月25-26日:新潟市プレスツアー
投稿日 : 2013年08月23日
食料自給率63%を誇る日本の米どころ
“田園型政令市”新潟が食とエネルギーの安全保障に取り組む
-「米粉」利用の普及と「イネ原料バイオエタノール」開発-
日本を代表する農産物「コメ」。今、主産地の新潟を中心に「コメ」を巡る新しい動きが起っている。小麦粉の高値が続く中、輸入小麦粉の代わりに国産の「米粉」がパン、麺、洋菓子の材料に使われるようになってきた。また、エネルギーの地域生産・消費を目指して、イネを原料とするバイオエタノールの実証事業も開始されており、原料となる多収穫イネが栽培され、新潟東港にはエタノール製造プラントが今年末に完成する。コシヒカリの収穫が最盛期を迎える新潟で新たな「コメ」の動きを追う。
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世界的な食糧や原油価格の高騰問題は、今年7月のG8洞爺湖サミットでも、気候変動との関連も大きく、且つ市民の日常生活に直結する緊急の主要議題として取り上げられた。新潟市拠点化戦略アドバイザーのひとり、日本総研会長の寺島実郎氏は「エネルギーと食糧を軸に世界がパラダイムの大転換を始めている。この分野で新潟の役割はとても大きい」と指摘する。
食料自給率63%(カロリー換算)と突出した農業生産力を誇る新潟市は、昨年4月、日本で唯一の「田園型政令市」となり、今年5月にはG8労働大臣会合をホストした。人口81万人、市面積の47%が農地(34,000ha)、そのうち90%が水田(29,000ha)だ。コメ生産量は14万トンで日本の全生産量の1.6%にあたる。農業生産額は日本の1787市町村の中で第3番目だ。
世界最大の食糧輸入大国といわれる日本。2007年実績の食糧輸入額は6兆円、これに対して輸出額は4000億円と15分の1だ。また、原油の無制限な供給に依存してきた「自由経済」社会にも陰りが見え始めた。石油は10年以内にピークアウトを迎えると専門家はみる。世界の人口が増大していく中、日本は自らの食糧とエネルギーの自給率を高めることで、国際貢献していくことを考えるべきだろう。政府は現在39%に落ち込んだ食料自給率を50%に引き上げることを目標に掲げた。
日本を代表する農産物は「コメ」だ。主産地の新潟を中心に「コメ」を巡る新しい動きが起っている。
小麦粉の高値や輸入食品の安全性の問題が続く中、安心・安全な国産食材の消費が増えている。輸入小麦粉の代わりに国産の「米粉」をパン、麺、洋菓子の材料に使われるようになってきた。「米粉パン」はすでに市場に流通し、学校給食にも取り入れられている。また、エネルギーの地域生産・消費を目指して、イネを原料とするバイオエタノールの実証事業も開始されており、原料となる多収穫イネが栽培され、新潟東港にはエタノール製造プラントが今年末に完成する。
危機は見方を変えればチャンスでもある。コメ余りで国内では40%もの減反を実施しながら、コメ不足で暴動すら起きている海外から80万トンものコメを輸入している日本の現状や農業の在り方を見直す好機となる。自らの潜在力で新たな方向を模索している新潟市は日本がこれから歩んでいくべき道の一端を示している。
※当プレスツアーは新潟市が主催し、フォーリンプレスセンターが企画協力しています。
※新潟市ホームページ
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取材内容
■食料危機、原油高、温暖化・・市民生活を直撃するグローバルな問題にローカルな視点と強みで挑む
篠田氏は「本州日本海側初の政令指定都市をつくること」と「合併に伴う市役所改革」を公約に掲げて2002年11月、市長に就任。05年に近隣13市町村を合併、06年の再選後、07年4月に政令市新潟を誕生させ、今年5月のG8労働大臣会合をホストした。食料自給率63%、新潟市の水田面積が市域の半分であることを積極的にPR、「田園型政令市」に相応しいまちづくりを進める。「完全米飯給食を新潟市が先頭を切って行い、日本の良き食習慣を身につける場にしたい」と食育にも力を注ぐ(写真:市内小学校での「オール新潟市産給食」)。世界的な食糧危機が叫ばれる今を「新潟の優位性を活かし、食料自給のあり方を考える最大のチャンス」と捉え、農業政策に新機軸を打ち出したい構えだ。
2.「新潟市の農業」ブリーフィング:新潟市都市政策研究所・望月迪洋主任研究員
新潟市の農業生産の現状、及び昨今の変化と今後の課題について、新潟市都市政策研究所の望月主任研究員に伺う。同研究所は「田園政令市」を目指す市の様々な課題を行政の枠を超えて調査研究する機関として政令市移行と共に設立された。この30年間で新潟市の農家数は半減、高齢化が加速し、後継者問題を抱える一方、農業生産法人の設立も進んでいる。生産額は655億円と30年間ほぼ横ばい、コメの価格低落による減少分を園芸作物の増加で補完している。新潟市で生産されるコメの80%以上は主食用のコシヒカリで最高級米として市場評価が高いが、コメ消費量は50年前の約半分に落ち込み、コメ価格は下落を続ける。加えて農業者の高齢化でコメ農家の離脱が静かに進行しており、29,000haもの水田を抱える新潟市としての対策が問われるところである。
3.菜種やイネを原料とする地域生産・消費の「バイオ燃料」を推進:新潟市・地球温暖化対策室
菜の花を栽培して良好な景観をつくると共に、菜種油を生産して学校給食等に使用し、その廃食油を原料としてBDF(バイオディーゼル燃料)を精製して公用車等の燃料として利用する「菜の花プラン」を2005年度より進めている。また、原料イネの栽培から、エタノールの製造、エタノール混合ガソリンの販売まで一貫して行う「イネ原料バイオエタノールの地域エネルギー循環モデル実証事業」も支援。地元の農産物を原料とする「エネルギーの地産地消」に力を入れている。
■小麦粉に替わる「米粉」、お米の「粒食」から「粉食」へ-新スタイルでコメ消費拡大
4.「国産米粉普及の取り組み」:協同組合 米ワールド21普及協議会
政府は現在39%に落ち込んだ食料自給率を50%に引き上げる具体策を検討しており、今年8月末、農水省は2009年度予算案概算要求に総額3025億円の食糧自給率向上に向けた総合対策を盛り込むことを発表した。その柱となるのが米粉・飼料用などの新規需要米の作付拡大に対する助成金の新設だ。また、小麦の国際価格高騰を受け、代替原料として米粉の増産支援にも乗り出すとしている。最近では小麦粉に比べて米粉の価格が下がってきており、「米粉ビジネス」に追い風が吹いている。
従来は米菓や和菓子の原料として使われてきた米粉だが、最先端製粉技術の開発も手伝って、パン、パスタ、麺、洋菓子(ケーキ・クッキー等)の材料として使われる動きが加速している。今夏、大手コーヒーチェーン店で米粉のロールケーキが限定販売された。9月からは大手コンビニエンス・ストアで米粉パンが販売されている。
新潟市に拠点を構え、15年前から国産米粉の普及に取り組んできた「米ワールド21普及協議会」の高橋仙一郎専務理事は「ようやく我々の地道な努力が結実するときが来た」と更なる情熱を燃やす。ツアーでは、高橋専務理事から将来の食料不足を睨んだ米粉普及の取り組みについて伺いながら、第3セクターで米粉を生産する新潟製粉(株)の製粉工場や米粉食品の製造現場を訪ねた後、今話題の米粉パン、パスタ、ケーキなどを試食する機会をもつ。
■コメでエネルギーの地産地消を目指す-イネを原料とするバイオエタノール
5.イネ原料バイオエタノールの地域エネルギー循環モデル実証事業
アメリカではトウモロコシ、ブラジルではサトウキビと、世界各地で農産物を原料とするエタノール製造が盛んに行われており、様々な議論も呼んでいるところだが、日本では新潟が主力農産物の米を活用し、原料イネの栽培から、エタノール精製、エタノール混合ガソリンの販売まで一貫して行う実証事業に取り組んでいる。「JA全農にいがた」が事業主体となり、新潟市は県などと共に地域協議会を設立して同事業を支援する。
今年度は、エタノール原料イネとして、食用稲の1.5倍の収穫量を持つ多収穫種「北陸193号」を地元農家の協力を得て栽培し、新潟東港に今年末完成予定のエタノール製造プラントでバイオエタノールを精製、隣接する全農新潟石油基地においてガソリンに混合し、来年3月ごろ地域内のJAガソリンスタンドで供給される予定。多収穫イネの栽培量は2250トン、バイオエタノール製造量は1,000KLが目標。休耕田を活用し、非主食用の米を使用することで国内の水田農業を守る「生産調整」にも役立つ形だ。
ツアーでは、JA全農にいがたより事業概要を説明頂きながら、新潟東港の製造プラント建設現場、全農石油基地、多収穫イネ「北陸193号」が生育する圃場を視察する。
■「安心・安全」な食材を食卓に―農業の新方向を切り拓く新潟の生産者
農業生産法人は全国で昨年9460法人まで増えてきたが、新潟市では現在122法人を数える。政府が目標とする食料自給率50%への回復には「農業生産法人等を通じたシステムとしての農業を成功させることが鍵」(寺島日本総研会長)だという。木津みずほ生産組合は旧横越村木津地内の米作り農家が1986年に設立。「安全、安心、安価、安定供給」をモットーに米作りに励み、「美味しい新潟のお米」を直接消費者に届けている。2005年から有機栽培米の栽培・販売も行っており、最近では、米を香港・台湾へ、梨の穂木を台湾へと輸出も手掛ける。代表理事の坪谷利之氏は「農の学校」という消費者交流会を主宰し、「今大事なのはファーストフードばかり食べている子供の食育」だと大阪の小学校へ出張する。コシヒカリ収穫最盛期の田んぼを坪谷氏にご案内頂き、生産法人経営についてきく。
7.諸橋弥次郎農園
オーナーの諸橋夫妻と7名の従業員で運営されている農園。「生産者と消費者の信頼醸成」をモットーに有機農法による米、野菜、果物を栽培し、販売する。また、田んぼを利用したビオトープ「メダカのがっこう」を整備し、近所の子供たちがいつでも自然の中で遊べる環境を提供している。国の有形文化財として登録されている諸橋オーナーの自宅母屋を活用したレストラン「弥次郎」では、囲炉裏ばたで、農園で収穫されたばかりの旬の食材をつかったスローフードが供される。ツアー初日の昼食では、ロシア出張を目前に控えた諸橋オーナーと懇談しながら、新米コシヒカリ膳を堪能する。