プレスツアー(案内)

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実施日 : 2006年04月22日

「コミュニティを内包する住まい」プレスツアー

投稿日 : 2013年08月22日

都市生活者が新たに求める、「脱・核家族」の暮らし方

 

日本の「住まい」が揺れている。大都市圏の地価は再び上昇しており、都心型高級マンションの好調な売れ行きに、かつてのバブルの姿を重ねる向きもある。一方、団塊の世代の退職に伴う『2007年問題』を控え、不動産売買の動向はまだまだ予想できない部分が多い。加えて耐震偽装。数十年のローンを抱え、何千万円もの私財を費やして手に入れた住居が根底から崩れるという事実に、多くの日本人が驚きとともに怒りを覚えている。

 

その一方で、既存の住宅供給のありかたに疑問を抱き、自分自身の住まいに対してできる限り深く関与し、個々が納得のいく暮らしを手に入れようとする新しい動きが見られるようになった。そのひとつがコレクティブハウジング(collective housing)である。コレクティブハウジングとは、集合住宅の一部に共用空間を取り入れ、住人同士が家事の一部をシェアするなどしてお互いに支えあう暮らし方で、北欧の働く女性たちにより1970年代に実現したもの。現在でも欧米では暮らし方のひとつの選択肢として広く受け入れられているが、こうした考え方を取り入れた日本の住宅としては、阪神大震災後の高齢者向け復興住宅など限られた事例にとどまっている。

 

日本におけるコレクティブハウジングの推進役であるNPO法人コレクティブハウジング社(CHC)では、コレクティブハウジングにおける先進国・スウェーデンの視察などを通じ、「日本社会で本当に必要とされるコレクティブハウジングのありかた」を長期にわたって調査、研究を重ねた。その後協議の上、2002年に既存の古民家を7名の住民で暮らす「松陰コモンズ」、2003年に28世帯が集合する多世代賃貸住宅「かんかん森」の企画・コーディネートに携わり、コレクティブハウス運営の基礎を築いた。興味深いのは、欧州ではいまでも「家事軽減」がコレクティブハウジングの主要な目的であるのに対し、日本のそれは「コミュニティづくり」にあるということ。戦後進んだ核家族化の動きが成熟し、近隣とのつきあいが希薄になるなかで、「脱・核家族」を目指してコレクティブハウジングを希望する人は増加するばかりだという。

 

今回のツアーでは、NPO法人コレクティブハウジング社(CHC社)が運営に関わる上記2つの住まいに焦点をあてる。居住者やCHCスタッフへの取材を通じて、日本の都市居住者が試みる「現代版・共同生活」のありかたを考察する。

 

取材内容

 

 

○「コレクティブハウスかんかん森」(東京都荒川区)  

下町情緒が色濃く残る荒川区東日暮里の区立中学校跡地に建設された12階建ての複合施設「日暮里コミュニティーハウス」。高齢者向け住宅や有料老人ホーム、保育園・診療所などに挟まれた2・3階部分が、多世代型賃貸住宅「コレクティブハウスかんかん森」となっている。24~62平米のさまざまな間取りからなる28戸分の賃貸住戸のほかにのべ166平米ものコモンスペース(住民が自由に使えるキッチンやリビングルーム、ランドリールーム等)が完備され、住民同士は主に「コモンミール」と呼ばれる週3度の食事の準備や施設内の掃除分担等で協働化を図るが、その他にも子どもの面倒や定年後の新たな人脈作りなど、住民それぞれのニーズに合わせた思い思いの共同生活を実践している。現在は0歳から80歳まで28世帯36人が暮らし、多世代型のコレクティブハウスとして、日本国内では他に例を見ない存在となっている。

 

 

「かんかん森」の日々の運営・管理は、居住者組合である「森の風」が行っている。「森の風」は月に一度、原則として全員参加の定例会を行い、生活上起こる諸問題はすべてこの場で合議制により解決が図られている。また住民は自発的に「活動グループ」に所属し、そこでも居住スペースのメンテナンスや各種作業などが分担して行われ、特にひとり暮らしの中高年居住者にとってはこうした協働サポート体制が心強いという意見が聞かれる。しかし「かんかん森」に居住を決めた人の多くはそうした家事軽減よりも、「顔の見える関係づくり」といったコミュニティへの帰属を求めるケースが多い。これは日本のコレクティブハウジングに特徴的な動きだとCHCは分析する。

 

ツアー当日はまず、CHC理事の宮前眞理子氏に日本におけるコレクティブハウジングの取り組みやCHCの活動について概要をご説明いただく。その後プライベートスペースを含む居住スペースを視察し、運営上の工夫点や共同生活の仕組みを理解する。続いて「コモンミール」を体験し、「かんかん森」の居住者への質疑応答を行う。

 

 

 

○「松陰コモンズ」(東京都世田谷区)

 

古くからの閑静な住宅街である、世田谷区世田谷。その一角に、築150年の日本家屋と、外観がコンクリートでできたモダンで瀟洒な5階建ての集合住宅、そしてゆったりとした造りの新しい邸宅が、緑豊かな屋敷林を囲むように並んで建っている。合計敷地面積は約2000平米。2001年、先代の逝去に伴い、相続税のためにこの土地を切り売りすること余儀なくされた地主の鈴木誠夫氏は、やりきれない気持ちでいっぱいだったという。売却が決まれば、樹齢250年という大きな欅の木を始め、敷地内の木々や建造物はすべて取り払われて更地となり、すぐにでも一般戸建て用の土地として切り売りされてしまう。

 

その事実に疑問を抱いた鈴木氏に対し、既存のものを極力残す、まったく新しい手法として提案されたプロジェクトが、CHCが実践するシェアードハウススタイルの新しいスタイルの住まい「松陰コモンズ」と、隣接するコーポラティブ方式の分譲マンション「欅(けやき)ハウス」であった。それぞれの居住予定者と、CHCを含む事業主サイド、さらに鈴木氏は居住前から何度も話し合いを持ち、まったく別の敷地でありながら間に柵を設けず、欅の大木は3つの敷地の中心へ移植された。その結果、上述の3つの建造物が緑を抱きながらゆるやかにつながりあう、他に例を見ない「世田谷の森」ともいうべきコミュニティが完成した。

 

「松陰コモンズ」は、数年前まで鈴木氏一家が暮らしていた築150年の日本家屋に、20代から40代の独身男女7名が暮らしている。「かんかん森」と異なり、6畳から10畳程度の個人居室以外の水周り等はすべて共有となっていて、定義上はコレクティブハウスとして認められない。ただ、一般的なシェアードハウスと異なるのは、1階の縁側に面した20畳の大広間を「パブリックコモンスペース」として開放し、「松陰コモンズ」での暮らしを地域社会とリンクさせようと試みている点にある。定期的に開放日を設けてイベントなどを行うほか、居住者を訪ねてくる友人・知人、お向かいの「欅ハウス」に住む人々の憩いの場となっており、まさにぬくもりのあるコミュニティ形成の場といえる。

 

居住者のひとりである野口朋子氏は、「自分たちが“松陰コモンズ”に居住を決めた2002年当初、周囲は“変わった暮らし方だね”という反応が大半だった。しかし今は“すごく素敵な暮らし方だと思う”という共感を得ることが多い。このプロジェクトが始まってまだ数年だが、“人と関わりながら暮らしたい”という世の中の大きな流れを感じる」と言う。

 

ツアー当日は「松陰コモンズ」を訪ね、建物内部を視察して、築150年の日本家屋で暮らす上での工夫やメリットなどについて説明を受ける。また「ひとり暮らしだけど、7人暮らし」と自称する居住者へのインタビューを通じ、失いつつあった地域コミュニティを復活させながら暮らす、新しい日本の住まい方について考察する。

 

 

 

 

実施要領

 

 

 

1.日程:2006年4月22日(土)

 

9:50 FPC発
10:20 荒川区「かんかん森」着
10:20~11:10 「かんかん森」にてCHC社に関するブリーフィング
11:10~11:30 「かんかん森」に関するブリーフィング
11:30~12:00 「かんかん森」見学
12:00~12:30 昼食(コモンミール)
12:30~13:00 質疑応答
13:00 「かんかん森」発
(バスの中で「松陰コモンズ」に関するブリーフィング)
14:00 世田谷区「松陰コモンズ」着
14:00~14:30 「松陰コモンズ」屋内見学
14:30~15:15 居住者によるプレゼンテーションならびに質疑応答
15:20 「松陰コモンズ」発
16:00 FPC着後、解散

 

 

2.参加資格:外務省発行外国記者登録証保持者

 

3.参加費用:1人1,500円(バス、昼食代等含む)
*お支払い方法、キャンセル料等は、後程参加者にご連絡します。

 

4.募集人数:先着順15名(各社ペン1名、カメラ1名、TVは1社2名まで)。
*申し込み人数が15名を超えた場合は、国別の参加者数に上限を設定することがあります。

 

5.参加申込:
FPCホームページ>> Link
「メディア・アシスタンス」の「プレスツアー情報」ページより直接お申し込み下さい。(「申し込み」ページへはユーザー名:fpcj、パスワード:membersでアクセスできます)

 

6.FPC担当:山代(Tel: 03-3501-3401)

 

7.備考:
(1)写真・TV撮影は担当者の指示に従ってください。
(2)FPCはツアー中に生じるいかなる不都合、トラブル、事故等に対して、一切責任を負いません。

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