実施日 : 2016年11月14日 - 15日
案内:高知プレスツアー
投稿日 : 2016年10月28日
- マグニチュード9級の巨大地震と津波に備える -
- 人口減少に挑む山間の町。自然エネルギー自給率100%を目指す-
- 世界一薄い紙を生み出す小さな和紙メーカー -
―― 森林面積日本一。豊かな自然に恵まれた高知県 ――
四国の太平洋側に位置する高知県 は、山、川、海の自然が豊かな場所だ。森林面積は83%と日本一。また、年間降水量も日本一(2014年)で、日本最後の清流といわれる四万十川を始め、豊富な水にも恵まれている。高知の海(太平洋)には、世界最大の海流の一つである黒潮が流れ、豊かな漁場を形成している。
―― 「最大34メートル」の津波想定に立ち向かう ――
一方、高知県沿岸部では、日本列島の太平洋側で発生する恐れがあるとされる最大マグニチュード9級の「南海トラフ地震」による津波に対し、備えが強化されている。最大34メートルという津波の想定に対して、県は、避難路や避難場所の確保、高台のない場所への津波避難タワーの建設、住民への啓発などの取り組みを地道に進めてきた。また、高知には、災害に強いインフラを作る独自の「杭打ち」技術を世界各国に輸出し、東北の被災地の防潮堤工事にも貢献している企業がある。この企業は、近年、地下に自転車を収納する駐輪場を開発したことでも話題を呼んでいる。
―― 人口減少に歯止めをかける山間のまち ――
高知県の高原地帯に、人口減少幅に歯止めをかけ、若い世代の移住者を増やしている小さな町がある。住宅や子育てへの支援を徹底的に充実させることにより、人口わずか3,659人の町に、約2年半の間で92人もの人々が移住してきたのだ。この町は、自然エネルギーの導入をいち早く進めたことでも知られている。現在その自給率は30%。2050年には自然エネルギーによる自給率100%を目指している。
―― 和紙の名産地で開発された、世界一薄い紙 ――
高知では、豊かな水を利用して、1000年以上前から和紙がつくられてきた。この歴史ある産地の小さな和紙メーカーが、世界一薄い紙の開発に成功した。その薄さわずか0.02ミリの紙は、古文書や絵画、木像といった文化財の修復を手掛ける世界の専門家たちに注目され、大英博物館やルーブル美術館でも使われている。
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本プレスツアーは、高知県を訪れ、地震・津波への備え、人口減少への挑戦、ものづくりのイノベーションをテーマに、以下の取材をする。
・高知市: 高知県庁(南海トラフ地震への備え、防災産業の振興)、
技研製作所(地震・津波に強い建設工法の世界的パイオニア)
・南国市: 津波避難タワー
・日高村: 世界一薄い紙を開発した和紙メーカー
・梼原町: 梼原町役場(移住・定住促進政策)、若い世代の移住者、自然エネルギー導入事例
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※本プレスツアーは、高知県とフォーリン・プレスセンターの共催事業です。フォーリン・プレスセンターとしては、創立40年周年の記念事業となります。
【取材内容】
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<テーマⅠ>
- マグニチュード9級の巨大地震と津波に備える -
- 津波に強い堤防をつくる、建設工法のパイオニア -
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1.南海トラフ地震への備えを強化する高知県
~最大34メートルの津波予想に立ち向かう~
・高知県 危機管理部 南海トラフ地震対策課 課長 窪田 佳史さん
http://www.kochi-kia.or.jp/earthquake/
(日本語、英語、中国語、韓国語など多言語の情報)
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/010201/higaisoutei-2013.html
2012年8月、日本政府は、将来発生の恐れがある「南海トラフ地震」の被害想定を発表した。「南海トラフ地震」とは、日本列島の太平洋沖にある南海トラフ沿いの広い地震域で連動して起こると警戒されているマグニチュード9クラスの巨大地震のことだ。過去このエリアで多くの地震が発生していることから、警戒が強められている。
政府の被害想定は、2011年の東日本大震災の教訓を踏まえてつくられたもので、地震と津波の発生により、最悪のケースでは全国で死者が32万人、被害総額は220兆円に上るとしている。
これを受け、高知県も県内被害についての独自の想定を発表。場所によっては全国最大となる高さ34メートルの津波が襲来し、死者は4万2000人になるとの想定を示した(いずれも最悪の場合)。このあまりにも深刻な想定は大きな衝撃を呼び、発表直後は人々の間に諦めムードすら漂ったという。しかし、県ではこの想定を基に、最悪の場合でも人々が逃げ切り、生き延びられるよう、着実に対策を進めてきた。
地震への対策として、住宅の耐震化を促進し、2016年3月末現在で、県全体の77%までが耐震化を終えた。早期避難を浸透させる住民への啓発にも力を入れてきた。津波対策としては、避難路や避難場所(1,361箇所)を整備したほか、津波避難タワー(90基)や津波シェルターを建設した。また県は、沿岸19市町村が策定した地域津波避難計画の実効性を確保するために、県や市の職員が地元の人々と一緒に避難ルートの現場を実際に歩いて危険箇所を確認する作業も進めている。
県の試算によると、これらの取組みにより、2013年5月時点の予想では4万2,000人とされていた死者数を、2016年3月末時点で1万3,000人(人口減少の影響を含む)まで減らすことができる見込みだという。県は、今後さらに備えを強化し、死者数を限りなくゼロに近づけることを目標にしている。
◆高知県庁を訪れ、 南海トラフ地震対策課 窪田課長に、被害想定やそれを受けて2013年から3年間かけて地道に進めてきた対策、今後の目標などについて聞く。
2.命を守る砦、津波避難タワー
~高台がない地域に、逃げ込める場所をつくる~
・大湊小南タワー
南国市役所(高知県) 危機管理課 係長 野村 学さん
http://www.city.nankoku.lg.jp/map/index.php?m=11&c=61
高知県が進めてきた津波対策のひとつに津波避難タワーの建設がある。これは、高台や高いビルがない地域につくられる、緊急的に逃げ込ことを目的にした鉄骨や鉄筋コンクリートの建物だ。県では、2013年から整備を進め、目標115基のうち既に90基が完成している。
高知県の中東部に位置する南国市には、14基の津波避難タワーが整備されている。県による「南海トラフ地震」被害想定によると、同市には高さ16メートル(最大)の津波が襲うと試算されているが、海に接するエリアには高台が少ない。そこで、短い時間で逃げ込んで命を守る砦として津波避難タワーがつくられたのだ。「大湊小南タワー」もそのひとつで、すぐ隣には小学校と保育園がある。いざという時に、子供たちと周辺300メール圏内(徒歩5分の距離)の住人が逃げ込めるよう設計されており、3階建で361人を収容することが可能だ。
このタワーには階段のほか、スロープもついており、車いすでも上ることができる。また、倉庫もあり、避難時に必要な物資も備蓄されているほか、トイレなどの個室を組み立て式で作るためのパネルも用意されている。救助ヘリコプターがホバリングできるスペースもある。
南国市のタワーは、扉や鍵がなくいつでも入ることができる、住民に開かれた場所だ。地震があったときに初めて行くのではなく、行き慣れておくことが大切であることから、地域の祭事や花火鑑賞などにも活用されている。タワーを中心に住民による避難訓練も活発だ。南国市役所 危機管理課の野村さんによると、「タワーができたことによって、住民の間でしっかり逃げようという意識が高まったように感じる」という。
◆津波避難タワーを訪れ、その役割について説明を受けると共に、タワー内部を視察する。また、敷地内に設置してある船型の津波救命シェルターも見る。
~蓄積したノウハウの海外輸出を目指す~
・高知県 商工労働部 工業振興課 主幹 北村 友一さん
http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/150501/bousaiseihin26.html
http://kuroshiocan.co.jp/index.html
高知県は、台風の上陸数が日本で2番目に多く(1位は鹿児島県)、年間の降雨量も全国平均の1.6倍と多い。そのため、大規模な風水害を多く経験してきており、地震・津波への備えだけではなく、様々な分野の防災技術が蓄積されている。県内には防災関連の製品を手掛ける企業も多い。そこで、県では、メイド・イン高知の防災関連製品・技術の地産地消・外商を後押ししようと、品質・安全性の面で審査を行い、高知県防災関連登録製品として認定する制度を設け、現在116点を登録している。なかには、最大34メートルの津波の襲来が予想されている黒潮町が設立した缶詰工場の製品もある。地元の新鮮な魚を加工して作られる缶詰は、7大アレルゲン不使用で、アレルギーに悩む人々にも好評だ。
高知県では、県内の防災産業の輸出促進にも乗り出している。今年9月には、知事が自然災害の多いフィリピンを訪れ、防災に関するセミナーや、メイド・イン高知の防災関連製品・技術の売り込みを行った。
◆高知県庁で、県の戦略について説明を受けたのち、黒潮町でつくられているアレルギーフリーの缶詰を試食する。
4. 地震・津波に強い建設工法の世界的パイオニア、技研製作所
~高知海岸の堤防工事や、東北の被災地で独自の杭打ち技術が貢献~
南海トラフ地震・津波への備えとして、太平洋に面する高知の海岸部で堤防の補強工事が進んでいる。ここで採用されているのが、地元企業である株式会社技研製作所が独自開発した、地盤に杭を打ち込む技術だ。
・「インプラント工法」で建設を変革する。株式会社 技研製作所 代表取締役社長 北村 精男さん
https://www.giken.com/ja/aboutus/message/
建設工事に欠かせない材料である「杭」。構造物を支える基礎や土を押さえる擁壁、水をせき止める止水壁など様々な用途で用いられる。高知県に本社を構える株式会社技研製作所は、この「杭」を地盤に打ちこむ工程に新たな技術を持ち込んだ世界的なパイオニアだ。1967年に社長である北村精男さんが創業。現在、米国、イギリス、ドイツ、オランダ、中国、シンガポールに拠点を置き、世界30カ国以上で、河川、道路、港湾、橋などの改修・補強工事に同社の技術が使われている。
同社が世界に誇る建設工法が、「インプラント工法」だ。躯体部(建造物の骨組み)とそれを地下で支える基礎部分が一体となった杭を、地中深くに押し込むことで、地球と一体化した強靭な構造物を構築できる工法だ。出来上がった構造物は、地震や津波などに強い防災インフラとして機能する。高知県や愛知県の海岸の堤防補強工事のほか、東日本大震災の被災地域の防潮堤建設や海岸・河川復旧工事などにも採用されている。
「インプラント工法」を可能にするのが、同社が開発した杭打ち機械「サイレントパイラー」だ。 地中深くに打ち込まれた複数本の杭を機械の一部がしっかりと掴むことで、その杭の引き抜き抵抗力を利用して、油圧の力で次の杭を地中に静かに押し込んでいく。従来の打撃や振動によって杭を打ち込む工法とは異なる、「圧入」と呼ばれるこの方法を世界で初めて杭打ち機械に取り入れたのが同社だ。いわば地球の力を利用することで、小さな機体でも大きな力を発揮することが可能になる。騒音や振動などの建設公害を発生させることなく高精度でスピーディな杭打ちを実現できるのだ。
◆「業界のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれ、イノベーターとして知られる社長に、技術開発の背景や、防災への理念、事業展望などについてインタビューする。また、圧入杭打ち機械「サイレントパイラー」も視察する。
・津波に強い堤防を研究する実験設備、「津波シミュレータ」
https://www.giken.com/ja/construction_revolution/scientific_verification/
技研製作所では、水路上に津波を再現して実験を行う「津波シミュレータ」を本社内に設けている。インプラント構造物の性能を科学的に検証するとともに、津波による構造物の被災メカニズムの分析を目的にしている。
◆津波シミュレータによる実験の様子を視察する。
・自転車を地下に収納する、コンピュータ制御の駐輪場「エコサイクル」
https://www.giken.com/ja/developments/eco_cycle/
エコな乗り物として人気が高まっている自転車だが、特に都市部では駐輪場が不足しており、迷惑駐輪も多い。技研製作所では、独自の杭の圧入技術を応用することで、この問題を解決する耐震型の地下駐輪場、「エコサイクル」を開発した。
地上に出ているのは自転車を出し入れする小さなブースのみで、収納スペースは全て地下につくられる。そのため、十分な敷地が確保できない駅前などの場所でも設置可能だ。圧入で地中に押し込まれる杭材がそのまま耐震構造壁となる仕組みで、収容可能台数は204台。コンピュータ制御により自動で出し入れできる。自転車を取り出すのにかかる時間は最短8秒と驚異的なスピードだ。現在、東京都心など全国19カ所で50基が導入されている。
◆社内の敷地内にあるデモンストレーション用の「エコサイクル」を視察する。本来は地下に建設される自転車収納スペースが地上に出ており、その仕組みをつぶさに見ることができる。
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<テーマⅡ>
人口減少に立ち向かう梼原町。
自然エネルギー自給率100%を目指す
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1. 人口減少に歯止めをかける梼原町
~山間のまちに若い世代の移住が増加。住宅や子育てへの手厚い支援がカギ~
・梼原町役場 企画財政課 係長 松山 真弓さん
移住定住コーディネーター 片岡 幸作さん
人口減少が進む日本。特に地方ではその傾向が深刻化し、大きな課題になっている。そんななか、高知県の山間部にあり、町の下に雲が張ることから「雲の上の町」と呼ばれている小さな町が、人口の減少幅を抑えていることで大きな注目を集めている。森林に囲まれた人口3,659人の梼原町(ゆすはらちょう)だ。2014年4月~2016年の8月末現在までの約2年半で92名もの人々が移住。その平均年齢は約37歳と、子育て世代が多いのが特徴だ。
梼原町も、他の山間部の地域と同じように、人口減少に長年悩んできた。そこで町は2011年から「2020年度に人口4,000人を目指す」との目標を掲げ、移住・定住の促進に力を注いできた。
2013年からは、町内の空き家を町が借り上げ、現代のライフスタイルに合うように台所やトイレ、浴室をリフォームしたうえで(費用上限570万円)、移住者に月額15,000円で貸し出すサービスを開始。快適な住まいに生まれ変わった空き家は、改修が完成する前から予約が入るほどの人気ぶりだ。
町は子育て支援も充実させており、保育料、幼稚園費、給食費を全て無料にしたほか、0歳~15歳までの医療費も無料化。さらに、中学生、高校生には、海外留学支援制度も整えている。
町では、住居、教育、雇用など移住者の様々な相談に応じる専門のコーディネーターを置き、移住後も地域に溶け込めるよう手厚くサポートしている。コーディネーターの片岡さんは、「困った時は何時でも携帯に電話してきていいよ」と万全の態勢。親身な姿勢が移住者に安心感をもたらす、なんとも頼れる存在だ。
◆梼原町の移住・定住促進施策について町役場で説明を受ける。
2. 移住者へのインタビュー
~都会を離れ、梼原町で暮らすことを選び取った若い世代~
http://www.yusuhara-iju.jp/life/
◆都会にはない価値を見出し、梼原町に移り住んだ3人の移住者の方々にインタビューする。
・作曲家/演奏家/音楽指導者 大村 太一郎さん(35歳)
http://traceeverafter.wixsite.com/taichiomura/profile
東京で15年間、作曲やコントラバス奏者として仕事をしてきた大村さん。2011年の震災をきっかけに東京以外のところで子育てをしたいと考え、2013年に移住した。現在は作曲などの仕事を続けるとともに、自宅で音楽教室を開いている。また、町内の子供たちを対象にした太鼓クラブでも教えている。町にはそれまで音楽の専門家がいなかったが、大村さんが移り住んだことで、子供たちが音楽に触れる機会が増した。大村さんは、「東京では与えられた仕事をこなすという感じだったが、ここでは仕事をつくりだす楽しみがある」という。
大村さん一家が暮らすのは、元は空き家で町がリフォームした築100年の家。コミュニティに溶け込みたいと、70代~80代のメンバーが大半を占める集落の集まりにも積極的に参加している。移住して一番良かった点は、子供の様子が変わったことだという。「朝起きて外を歩くだけでも気持ちがいい。移住前は、子供が保育園に行きたがらなくてぐずっていたが、今は楽しそう」と語る。また、原発事故があったこともあり、自然エネルギーの導入を推進している町の政策にも魅力を感じている。
・林業 上田 創平さん(34歳)
梼原町出身で、一度は高知市内で就職して6年ほどの都会生活の後、約10年前に地元にUターンしてきた上田さん。現在は町の代表的な産業である林業に従事し、伐期を迎えた杉やヒノキの伐採や、間伐などの作業をしている。
地元産の木を使って自宅を新築した際には、町の補助金をフルに活用。若者定住、町産材利用、浄化槽、エコ給湯器を対象にした各制度により、全部で約400万円もの補助を受けた。2人の子供の父親でもある上田さんは、「子育てする上で、保育料や15歳までの医療費が無料なのがありがたい。他の町と比べても支援が飛び抜けて手厚く、子供をつくりやすい環境が整っている」と語る。
・アウトドアブランド「if you have」代表 山口 貴史さん(32歳)、麻梨子さん(36歳) 夫妻
東京や海外、長野での暮らしを経て2015年に移住してきた山口さん夫婦。登山の趣味が高じて、自分の欲しいものをつくりたいとアウトドア製品の個人メーカー「if you have」を経営している。自宅でデザインや制作を行い、オンラインショップで全国に販売している。
近所の人たちの仲が良く、野菜や卵などを持ってきてくれるのが嬉しいという山口さん。移住を検討する際には、移住定住コーディネーターの片岡さんに空き家の物件を4軒ほど見せて貰ったが、町がきれいにリフォームしていて、そのまますぐに住める環境なのが魅力だったという。
3.自然エネルギーによる自給率が30%の梼原町。2050年には100%を目指す
~環境政策がまちの魅力に~
http://www.town.yusuhara.kochi.jp/town/environment/
・梼原町役場 環境整備課 環境モデル都市推進室 室長 中越 健三(なかごえ けんぞう)さん
主事 十亀 勇一郎(そがめ ゆういちろう)さん
梼原町では、豊かな自然を生かして、全国でもいち早く風力、太陽光、水力、地熱などの自然エネルギーの導入を進めてきた。現在、自然再生エネルギーによる自給率は約30%に達している。
シンボル的な存在が、標高1,300メートルの高原地帯に建てられた風車だ。2基の風車が年間380kwを発電しており、これを電力会社に売却して得られる約5,000万円(年間)を財源に、町はさらなる循環型社会への転換を後押ししてきた。太陽光発電設備の住宅への取り付けに対する最大80万円の補助もその一例だ。この結果、町内では全国屈指となる20軒に1軒の割合で、太陽光発電が導入されている。このほか、小水力発電や木質ペレットの生産も行っている。町の目標は2050年に自然エネルギーによる自給率を100%にすること。なお、町は2009年に国の環境モデル都市に選定されている。
子育て世代の移住者のなかには、自然エネルギーの利用が盛んな町のあり方も、町の魅力のひとつだと語る人もいる。
◆梼原町の環境政策について町役場で説明を受けた後、小水力発電所と木質ペレット工場を視察する。
・小水力発電
町では、豊富な川の水を利用した水力発電を行っている。梼原川にある6メートルの落差を利用した小水力発電所で生み出される電力は、隣接する小・中学校に供給されているほか、夜間には街灯82基に使われている。
・ゆすはらペレット株式会社 木質ペレット工場
http://www.town.yusuhara.kochi.jp/town/environment/torikumi/pellet.html
面積の91%を森林が占め、林業が盛んな梼原では、森の恵みもエネルギーに変えている。町では木質ペレット工場を設立し、森から出る間伐材や木くずなどを細かく砕いて圧縮した固形燃料(ペレット)を生産している(年間生産能力1,800トン)。製造されたペレットは農業用、空調用、給湯用のボイラー燃料として利用されている。
4. 梼原町を彩る隈研吾氏の建築
~地元産の木を使い、自然と調和する建物がまちの魅力に~
・環境整備課 建設係 係長 上田 真悟(うえた しんご)さん
2013年完成の新しい歌舞伎座を手掛けたほか、2020年東京オリンピック・パラリンピックの舞台となる新国立競技場のデザインを担当する建築家・隈研吾氏。梼原町の中心部には、隈氏が設計した建物が4つあり、町の風景を印象づけている。いずれも地元産の木材をふんだんに使っており、自然のなかに溶け込んでいる。木を使った建築で知られる隈氏だが、実は本格的に木を使ったのは梼原町の町立ホテル「雲の上のホテル」(1994年)が初めてだった。新国立競技場に通じる、同氏の建築の原点がここにあると言える。
若い世代の移住者のなかには、隈氏の建築物がつくりだす美しい景観に惹かれたのが移住のきっかけになったという人もいる。
◆隈研吾氏の建築物である梼原町役場と雲の上のホテル(レストラン部分)を訪れ、視察する。
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<テーマⅢ>
- 世界一薄い紙を生み出す小さな和紙メーカー -
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1.世界一薄い紙を開発した、小さな和紙メーカー
~1000年の歴史がある産地で生まれた紙が、大英博物館などの文化財修復現場で活用~
・ひだか和紙有限会社 社長 鎮西 寛旨さん
水量豊富な河川に恵まれた高知は、水を大量に必要とする和紙づくりが古くから盛んだ。平安時代(920年頃)の書物にも和紙の名産地として登場するほどで、その歴史は1000年を超える。
この地にある小さな和紙メーカーが、「世界で最も薄い紙」を開発し、注目を集めている。従業員8名のひだか和紙有限会社だ。同社が生み出すその紙は、薄さわずか0.02ミリ。1平方メートルあたりの重さはわずか1.6グラムだ。透き通っているため、紙の向こうにあるものが鮮明に見える。原料は和紙の伝統的な原料である楮(こうぞ:クワ科の植物)で、透明であると同時に強靭さも併せ持っているのが最大の特徴だ。
この和紙を特に評価しているのが、古文書や美術品などの文化財の修復の専門家たちだ。本のページや絵などの劣化した部分に貼ることで保護ができ、しかも透明度が高いため、下にある文字や絵をはっきりと見ることができるのだ。また、この和紙は、仏像などの木彫像の塗料が剥落するのを防ぐのにも使われている。薄くて気づかないが、実は浅草寺の門の右側に立っているあの吽形像(うんぎょうぞう)も、この和紙によって全身が覆われている。さらに、国内のみならず、大英博物館やルーブル美術館などの修復現場でも使われているという。ドイツのワイマールにあるアンナ・アマリア図書館では2004年の火災で多くの貴重な本が損傷したが、それらの修復にもこの紙が用いられた。現在では、欧州、米国、アジア、中東などの世界30カ国で利用が広がっている。
ひだか和紙有限会社では、かつては手漉きで和紙づくりをしていたが、究極の薄さを追求するために、独自の機械を開発。改良を重ね、時代や顧客のニーズに合わせながら現在の0.02ミリの薄さを実現した。社長の鎮西さんは、「劣化が進んで展示できなくなっていた文化財が、自分たちの和紙で修復されることによって、多くの人に見られるようになり、受け継がれていく。その役に立てるのが嬉しい」と語る。
◆ひだか和紙を訪問し、鎮西社長に話を聞くと共に、オリジナルの紙漉き機械を使った和紙づくりの様子を視察する。さらに、和紙が文化財修復にどのように使わるかのデモンストレーションも見る。
(*右上画像の著作権は「浅草寺」に帰属します。なお、像は浅草にあるため、高知で見ることはできません。)
【実施要領】
1.日程案: 実施:2016年11月14日(月)~15日(火)(*1泊2日)
<1日目 11/14(月): 南国市~高知市~梼原町>
時間 |
取材内容 |
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羽田空港集合 |
7:25-08:55(1h30) |
羽田~高知(JAL) |
9:10-9:25(15) |
現地到着後は借り上げバスで移動 |
9:25-10:30(1h5)
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津波避難タワー(大湊小南タワー)
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10:30-:11:10(40) |
バス移動 |
11:20-12:35(1h15) |
高知県庁 危機管理部 南海トラフ地震対策課 商工労働部 工業振興課
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12:40-13:15(35)
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昼食(お弁当) 黒潮町缶詰製作所の缶詰試食(調整中) |
13:20-13:35(15) |
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13:45-15:30(1h45) |
株式会社 技研製作所 津波シミュレータ サイレントパイラー エコサイクル 社長インタビュー |
15:30-16:10(40) |
バス移動 |
16:10-17:20(1h10) |
ひだか和紙 有限会社
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17:30-18:15(45) |
バス移動 |
18:15 |
ホテルチェックイン |
18:45-20:00 |
夕食 |
<2日目 11/15(火): 梼原町>
時間 |
取材内容 |
8:00 |
チェックアウト・出発 |
8:00-9:00(60) |
バス移動(車中で朝食配布) |
9:10-10:30(1h20)
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梼原町役場
梼原町役場 企画財政課(移住定住促進) 梼原町役場 環境モデル都市推進室 隈研吾氏設計 役場庁舎視察 |
10:30-10:40(10) |
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10:40-11:20(40) |
小水力発電
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11:20-11:30(10) |
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11:30-12:30(60) |
昼食: 雲の上のホテル・レストラン 外観撮影 |
12:30-12:40(10) |
バス移動 |
12:40-13:25(45) |
移住者の方への取材①
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13:30-14:15(45) |
ゆすはらペレット工場
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14:15-14:30(15) |
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14:30-15:15(45) |
移住者の方への取材②
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15:15-15:25(10) |
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15:25-16:10(45)
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移住者の方への取材③
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16:15-18:15(2h) |
バス移動
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19:10-20:30(1h15)
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高知~東京(JAL) |
2.参加資格: 外務省発行外国記者登録証保持者
3.参加費用: 1人15,000円(全行程交通費、宿泊費、食費を含む)
*お支払い方法、キャンセル料等は、後日参加者にご連絡します。
4.募集人数: 10名(各社ペン1名、カメラ1名、TVは1社2名まで)。
*申し込み人数が10名を超えた場合は、国別の参加者数に上限を設定することがあります。
5. FPCJ担当:吉田知加(TEL: 03-3501-3405)
6.備考:
(1) 写真・TV撮影に関しては担当者の指示に従ってください。
(2) FPCJおよび高知県はツアー中に生じるいかなる不都合、トラブル、事故等に対して、一切責任を負いません。
(3) 参加者には経費の一部を負担していただいていますが、営利を目的とした事業ではありません。
・・・・・
本記事中に掲載されている全ての画像の無断使用を固く禁じます。
また、以下の画像の帰属先は記載の通りです。
・テーマⅠ.
―1 掲載画像: 高知県庁提供
―2 掲載画像: 技研製作所提供
・テーマⅡ.―2 掲載画像(梼原町の移住者の方々): 梼原町提供(出典:「ゆすはら暮らふと」)
・テーマⅢ.―1 掲載像画像(吽形像): 浅草寺提供