さらなる国際化を目指して ―増える訪日外国人、2020年東京五輪開催への戦略を練るホテル業界―
投稿日 : 2014年06月02日
さらなる国際化を目指して
―増える訪日外国人、2020年東京五輪開催への戦略を練るホテル業界―
記事:林 婉華(FPCJインターン)
約1,036万人という過去最高の訪日外国人数を記録した2013年(日本政府観光局)。6年後の東京五輪開催に向け、いかに海外からの客を「おもてなし」しうるか、観光業界は変革を迫られている。国外に目を向けた取り組みや今後の課題を様々なホテルに聞いた。
ホームページで 10カ国語の案内文を掲載し、英語はもちろん、中国語や韓国語でも手軽にオンラインで予約できる。そんな仕組みを10年以上前から設けているのは東横INN(東京都大田区)だ。全国238カ所に店舗があり、2013年度には計約95万5千人の外国人が利用している。10年前から同ホテルを利用しているというシンガポールの厳宗豪(ゲン・ソウゴウ)さんは、「最初に訪れた頃は英語が通じず身振り手振りで何とかコミュニケーションをはかっていたが、今は英語を話せるスタッフが多い」と話す。
(写真右)東横インの10年越しの印象を語る厳さん(右)と妻(東横INN池袋北口II)
同ホテルは海外進出にも意欲を見せる。韓国で2008年以降順次オープンした6店に加え、2015年にはカンボジアやフィリピンでも開店を予定。フランスやドイツでも数年以内の開業を目指している。
日本での 「国際派」ホテルの走りは何といっても帝国ホテル(東京都千代田区)だ。海外からの要人をもてなすための「迎賓館」として1890年に開業した同ホテルは、50年前の東京五輪でも重要な役割を果たした。国際オリンピック委員会(IOC)の寄宿舎となったほか、選手村で提供される食事を取り仕切ったのも、同ホテルのシェフだったという。
現在も創業の精神を受け継ぎ、「国際的ベストホテルを目指す」ことを企業理念としている。従業員の語学力をネイティブレベルに近づけるよう研修などを行い、要望に応じてイスラム教徒へは礼拝に必要な備品を貸し出すなど、サービスの拡充も進めている。
(写真上)東京オリンピックのIOC本部ホテルになった帝国ホテル(1964年10月)(帝国ホテル提供)
一方で、格安ホテルを求める旅行客も多い。日本独特のスタイルとして注目を集めているものにカプセルホテルがある。1つの部屋の中にブラインドなどで区切られた「カプセル」型の空間がびっしりと並び、簡易ベッドだけがある。好奇心から訪れる外国人客も増えているという。東京都千代田区の「安心お宿」では、英語、中国語、韓国語でのホームページの開設や、緊急時のテレビ通訳システム導入などを進めてきた。
(写真右)各部屋とも2階建ての「カプセル」が並ぶ(安心お宿東京秋葉原店)
新橋店の布目和彦支配人は、「男性専用で18歳未満のお客様もご遠慮いただいているため、ご家族でのご宿泊という要望にお応えしきれていないことを申し訳なく思っているが、スタッフ一同精一杯のおもてなしをしたい」と話す。
(写真右)各スペースには、簡易ベッド、テレビ、タブレットPC、時計などが備え付けられている(同上)
桜美林大学経済・経営学系ビジネスマネジメント学群の五十嵐元一准教授は、「今後、日本の人口が減り、外国人客にどうやって来てもらい、満足してもらってリピーターになってもらえるかは大きな課題。将来のために勉強しないといけない時期だ」と訴える。Wi-Fi環境の拡充などのハード面、言語力を磨くソフト面に加えて、相手の文化や宗教などにも配慮した個別的なサービスを提供する「ヒューマンウェア」にも力を入れるべきだという。「毎日億単位の訪問者をもつ海外の有名検索サイトもあり、その口コミやSNSの影響力は大きい。丁寧に返答するだけで好感度アップにつながる」とも説明。「1つ1つのホテルにできることには限界はあるが、業界全体のネットワークや、旅行会社や航空会社などとの連携も利用し、全体の底上げをはかっていくことが重要だ」と指摘している。
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<編集後記>
日本はサービス業での優れたおもてなしの接客で有名ですが、日本のホテル業界をどう国際化していくかは大きな課題に直面しているようです。取材を通じて、国内のホテルブランドはそれぞれどのように技術面や言語面のハードルを越え、業界全体として動こうとしているのか垣間見ることができました。1964年の五輪当時、ハード面で大きな発展を遂げたように、2020年には高度に発達した先進国として、ソフト面でより素晴らしいイメージを世界に伝えることができるのではと楽しみです。
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