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アベノミクス「新三本の矢」をめぐる是非

投稿日 : 2015年12月08日

■  アベノミクス「新三本の矢」をめぐる是非

・安倍晋三「『一億総活躍』わが真意」『文藝春秋』12月号

・竹中平蔵「規制緩和 まだまだ足りない」『文藝春秋』12月号

・金子勝「また大嘘が始まった アベノミクスは破滅への道」『世界』12月号

・田村秀男「消費増税10%でアベノミクスは終わる」『正論』12月号

・吉崎達彦「便利な経済指標、GDPにご用心」『中央公論』12月号

 

Shinzo Abe第2次安倍政権が発足してからこの12月で3年。9月の自民党総裁選に再選されたあと、安倍晋三首相は、肝入りの経済政策であるアベノミクスの「第二ステージ」を打ち出した。これは、政権発足の際に打ち出した最初のアベノミクスの追加措置だ。しかし、日本経済は依然として不安定さを見せており、安倍政権の経済政策には常に賛否両論がつきまとう。『文藝春秋』12月号「『一億総活躍』わが真意」では、安倍晋三首相自らが日本経済の現状と新しい政策の意図について解説している。

 

まず安倍首相は、「……政権を奪還した私が真っ先に掲げたのが、〈デフレからの脱却〉であり、そのための武器として持ち出したのが、アベノミクスの〈三本の矢〉でした」と振り返る。批判の声も多い中で経済政策を進めた決断について、「……バブル崩壊後の二十年余り、あらゆる政権、あらゆる政策がデフレを解決できなかったのは厳然たる事実です。それはなぜか?二〇〇七年に最初の総理の座を辞してからこの問題を考え続けてきた私は、批判を恐れ、リスクを取って思い切った政策を実行してこなかったからだと結論付けていました」と述べ、「今まさに、日本経済は〈デフレ脱却〉までもう一息というところまで来ているのです」との見方を示している。

 

今後の経済運営で最大の難関と見られているのが、2017年4月からの消費税再引き上げである。今年10月の実施予定が、一度延期されている。中国経済の行方など不安定要因が増しているため再延期の議論も出ているが、これに対して安倍首相は、「……それには与しません。リーマンショックのようなことが起こらない限り、二〇一七年四月には消費税は間違いなく一〇%にします」と明言。そして「その時までに、何としても日本経済を上昇気流に乗せることが必要不可欠」「アベノミクス第二ステージの〈新・三本の矢〉はそのための手段」と述べる。

 

新・三本の矢は、2020年までにGDP600兆円達成を目指す「希望を生み出す強い経済」、2020年半ばまでに希望出生率1.8を目指す「夢をつむぐ子育て支援」、2020年初めごろまでに介護離職ゼロを目指す「安心につながる社会保障」をスローガンにしている。具体的には「……少子高齢化の流れに歯止めをかけることであり、そのためのメルクマール(指標)が〈五十年後も人口一億人維持〉」であるという。ただ人口を維持するだけではない。「一億人の一人一人が活躍する。家庭で、地域で、職場でやりたいことができる、それぞれの能力を発揮できる輝ける社会の仕組みを整備すること」を目指すのが「一億総活躍」であるという。

 

さらに、「単に金銭的な意味での〈一億総中流〉を私は志向しません。そうではなくて、若者もお年寄りも、女性も男性も、難病を抱えた人も障害がある人も、一度失敗した人も、みんなが活躍できる社会を作るために、それを阻むあらゆる制約を取り払いたい。そうした思いから生まれたのが〈一億総活躍〉なのです」と解説している。

 

・竹中平蔵「規制緩和 まだまだ足りない」『文藝春秋』12月号

小泉純一郎政権で経済財政担当大臣を務めた慶應義塾大学教授の竹中平蔵氏は、『文藝春秋』12月号「規制緩和 まだまだ足りない」のなかで、アベノミクスと安倍政権の成果について積極的な評価を示している。その一つが、今年10月5日の環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意である。交渉を極めて迅速にまとめた点と、メリットの大きさを高く評価しているといい、「……日本は大国アメリカを巻き込んだ一大経済圏を生み出すことに成功しました。……将来的には中国も加えたアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)実現を見据えた枠組み交渉を、日本とアメリカがリードしていく第一歩を踏み出したのです」と述べる。

 

さらにアベノミクスの新・三本の矢について、「一見すると旧来の三本の矢から様変わりした印象を受けますが、詳細に見ていけば、旧三本の矢のうち、達成できていないことを引き続き進めていこうと言っているのです」と説明。「アベノミクス第一ステージでは、第三の矢の〈成長戦略〉の達成が不十分だったため、これをより具体的に進めていこうというのが、新三本の矢の基本的な考え方でしょう」と位置付けている。そして2020年をめどにGDP600兆円を達成するという目標についても、大方針として非現実的な数字ではなく、「……最も重要なのは、一度掲げた旗をぶれずに掲げ続けること」であると指摘する。その方策として、元米財務長官のローレンス・サマーズ氏の世界長期停滞打開策を引用し、「一つは規制緩和。もう一つは積極的なインフラ投資」であると主張。カジノの設置など、日本にはまだまだやれることが数多くあると主張している。

 

・金子勝「また大嘘が始まった アベノミクスは破滅への道」『世界』12月号

一方、アベノミクスに懐疑的な慶應義塾大学教授の金子勝氏は、新・三本の矢について「この公約自体が、実現可能性が疑わしいだけでなく、もとの〈三本の矢〉が失敗に終わったことを検証させないために打ち出したことは明白である」と手厳しい。

 

「名目GDP600兆円」については、名目経済成長率3%以上、実質経済成長率2%以上が続くことが前提だが、日本はバブル崩壊以来、リーマンショックの反動があった2010年を除いて「……名目成長率が三%を上回ったことはなく、実現可能性があるとは到底思えない」と指摘。「希望出生率一・八」も「どうやって上げるかが不明」とし、「介護離職ゼロ」についても介護報酬を切り下げたこととの整合性がない、などと批判している。

 

もともとの三本の矢については、まず目玉の金融緩和策の効果に疑問を呈する。「明らかに、企業収益が従業員の雇用や賃金としてしたたり落ちるトリクルダウンは起きていない。それが家計消費の傾向低下に見られる内需の弱さをもたらしているのである。……企業が内部留保をため込み、国内市場が停滞しているために、銀行信用が拡大せず、緩和マネーは回っていないのである」と指摘。また、成長戦略に関しては、派遣労働者の減少につながらない労働者派遣法の改正、財政格差を抱える地方自治体に訪問介護等をゆだねる「地域医療総合確保推進法」、介護報酬の引き下げ、就業者世代の足かせとなりつつある介護負担をさらに増加させる方向性など、個人消費にマイナスとなる要因を列挙している。

 

金子氏は、「アベノミクスの旧〈三本の矢〉は、こうして見ると、完全な失敗に終わっている。唯一、株高だけが目立つ指標になっており、また安倍政権も、株価をつり上げることに精力を費やし、たとえ見せかけだけでも〈景気〉がよくなるという〈期待〉を作ろうとしている」という。その上で「今、問われなければならないことは、政策が失敗しても〈検証〉される間もなく、つぎの〈公約〉で上塗りする安倍政権の手法である」と批判している。

 

・田村秀男「消費増税10%でアベノミクスは終わる」『正論』12月号

・「便利な経済指標、GDPにご用心」『中央公論』12月号

 

アベノミクス以外にも、安倍政権の経済政策の方針にさまざまな危惧の声が上がっている。そのもっとも大きなものが、2017年4月からの消費再増税のもたらす影響だ。産経新聞特別記者の田村秀男氏は、『正論』12月号の「消費増税10%でアベノミクスは終わる」のなかで、「消費税増税の経済破壊効果はすさまじく、1997年度はデフレ不況をもたらし、2014年度はアベノミクス効果を吹き飛ばした。にもかかわらず、国家として2度も重大な失敗を繰り返したという自覚が政官財と主流メディアにない。このまま増税論議におし流れるようだと、安倍晋三首相が打ち出した起死回生策、国内総生産(GDP)600兆円目標は画餅に終わるだろう」と警告している。経済成長が頭打ちの理由は、世界最大の債権大国である日本では、国内で資金が使われないためであり、田村氏はむしろ消費減税をすべきであり、企業の内部留保が増えるだけの法人税引き下げよりも、国内投資を呼び込むための国内投資減税を行うべきだと主張している。

 

そもそも2020年にGDP600兆円という目標は現実味があるのか。双日総合研究所のチーフエコノミスト、吉崎達彦氏は、『中央公論』12月号「便利な経済指標、GDPにご用心」で、「意外と簡単かもしれない。実はちょっとしたギミックがある」という。そのからくりは、基準の変更だ。内閣府が現在採用している2005年基準は、来年末には2010年基準に改められる。一方、国連の国民経済計算が2008年に改正され、今後は新基準が適用されることになる。新基準では、旧基準でGDPの定義にあてはまらない「経費」として扱われてきた企業の研究開発費が、GDPに含まれる「投資」として扱われるという。他国の例をみると、移行の際に約3%ほどかさ上げされる。吉崎氏は、「こんな数値に一喜一憂するのは馬鹿げたことである」と、表面的な数字だけをめぐる議論を批判している。

 

 写真:AP/アフロ

 

※このページは、公益財団法人フォーリン・プレスセンターが独自に作成しており、政府やその他の団体の見解を示すものではありません。

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