実施日 : 2025年02月27日 - 28日
報告:福島プレスツアー
投稿日 : 2025年03月28日
東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故の発生から14年を迎えました。本プレスツアーでは、福島を訪れ、原発事故の発生から現在まで環境省が取り組んできた福島の環境再生の取組、産業の再生を目指す林業事業者や農園、醸造所を起業した移住者のほか、子どもたちの主体的な学びを育むユニークな教育で移住者を呼び寄せている公立校や、原子力や化石燃料に頼らず、地域の再生可能エネルギーの活用で「ゼロカーボン」の実現を目指す自治体を取材しました。
プレスツアーには、ベトナム、韓国、台湾、フランス、スイス、米国の6か国/地域のメディア8社から、計9名の記者が参加しました。
※本ツアーは環境省が主催し、フォーリン・プレスセンターが企画・運営しました。
※取材先の詳細については、こちらのプレスツアー案内をご覧ください。
【1日目】
<株式会社広野町振興公社 国産バナナ「綺麗」の栽培 (広野町)>
記者一行は、被災地の「心の復興」を目指して国産バナナ「綺麗」の栽培に取り組む株式会社広野町振興公社が運営するバナナ農園を訪問しました。冒頭、同社代表取締役社長の中津弘文氏から、バナナの栽培を始めた経緯や栽培にかける思い、また、寒冷地でバナナ栽培を成功させるために導入している「凍結解凍覚醒法」の技術について、説明を受けました。また、バナナの樹皮を活用した和紙の製造や、地元の高校生と共同で進められている加工品開発の取組など、収益を上げるための取組についても話を聞きました。
その後、中津社長の案内で、ビニールハウスのバナナ農園に移動し、ハウス内で茂るバナナの木と、日本では目にすることが珍しい、木に実る青いバナナの実や花を、熱心に撮影しました。
記者たちは、バナナを選んだ理由、東北でバナナを栽培することの課題について訊いたほか、「心の復興のためにバナナ栽培の取組を始めた」との中津社長の説明に対して、その進捗状況について質問しました。
記者一行は、福島県内の除染作業で発生した除去土壌等を、最終処分するまでの間、安全に管理・保管するために整備された中間貯蔵施設を訪問しました。まず、「中間貯蔵工事情報センター」で、環境省の担当者から施設概要やツアーで視察する場所について説明を受けた後、バスで移動し、草木などの可燃物等を取り除いた後の土壌を貯蔵する「土壌貯蔵施設」をバスから降りて視察しました。その後、敷地内にある海渡神社や、バス車内から福島県水産種苗研究所跡を視察するとともに、震災当時のままの状態で残された特別養護老人ホーム「サンライトおおくま」に併設された仮設展望台から約2km先の福島第一原子力発電所を撮影しました。最後に、除去土壌を道路の盛土として再生利用する実証事業の現場を見学しました。
記者からは、放射線量のモニタリング方法や作業員の安全管理体制のほか、帰還を希望する住民への対応や、中間貯蔵施設に貯蔵されている土壌の管理体制などについての質問がありました。
<環境省ブリーフィング>
環境省の担当者から、環境再生に向けた除染の現状や、除去土壌の再生利用に向けた取組、県外最終処分に向けたロードマップについて説明を受けました。
記者からは、除去土壌を2045年までに県外に搬出し、最終処分するという国の方針の実現可能性や具体的な処理方法に関する質問のほか、除去土壌の再生利用に関する質問がありました。
【2日目】
記者たちは、浪江町の林業の再生と雇用創出を目指し、2018年に設立された株式会社ウッドコアを訪問しました。
冒頭、社長の蔭山寿一氏と、取締役の朝田英洋氏から、会社設立の経緯や浪江町の林業の現状と再生への思い、同社が手掛ける大型集成材の製造工程や用途、日本で初めて導入された高出力高周波プレスについて話を聞きました。その後は、朝田取締役の案内で、高出力高周波プレス機がある「福島高度集成材製造センター(FLAM)」を訪れ、2025年大阪・関西万博会場などで使用される大型集成材を、短期間で大量生産することができる生産ラインを視察しました。2025年大阪・関西万博で会場のシンボルとなる「大屋根リング」の3分の1相当にあたる木材の提供について、両氏は、「万博を契機に福島の木材の魅力を世界にアピールできれば」と語り、記者たちは熱心に耳を傾けていました。
記者からは、福島県の林業の現状や復興状況に関する質問のほか、「万博で使用された木材の再利用の可能性は」、「大屋根リングに使用されている木材はどんな種類か」など、同社が万博会場に提供した木材に関する質問も多く挙がりました。
記者たちは、東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い一時全町避難を経験した大熊町を訪問し、国が目標とする2050年よりも10年早い「ゼロカーボン」の実現を目指す、同町の先進的な取組を取材しました。冒頭、ゼロカーボンを達成するための先導的エリアである下野上地区に建てられたNearly ZEB(*ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)相当の建物「CREVA大熊」を訪れ、大熊町ゼロカーボン推進課の担当者から、同町のゼロカーボン実現に向けたさまざまな取組について説明を受けました。また、大熊町出身の職員から、全町避難からの復興に対する思いについても話を聞きました。その後、Nearly ZEBを実現する産業交流施設「CREVA大熊」内を視察し、地中熱や人感センサーを活用した空調設備、吹き抜け構造や長いひさしなど、Nearly ZEB実現のための設備について説明を受けたほか、廃校となった大熊中学校の跡地に設置されたメガソーラーと大型蓄電池を視察しました。
記者からは、「ゼロカーボンの取組が帰還への後押しとなっているのか」など、取組に対する町民の反応や、大熊町がゼロカーボンを目指す理由に関する質問のほか、「今後も原発は必要だと思うか」などの質問がありました。
<*ZEB:ネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略。年間で消費する建築物のエネルギー量を大幅に削減するとともに、創エネでエネルギー収支「ゼロ」を目指した建築物のこと。「Nearly ZEB」とは、再生可能エネルギーによって、年間の一次エネルギー消費量をゼロに近づけた、ZEBに限りなく近い建築物。>
記者一行は、生徒一人ひとりの自由な発想と自主性を尊重する教育理念のもと、2023年に開学した大熊町立 学び舎 ゆめの森を訪問しました。まず、同校副校長の増子啓信氏から、東日本大震災及び原発事故発生直後の一時全町避難から開校に至るまでの経緯や、その教育方針について説明を受けました。その後、「子どもたちにとって、学校は楽しい場所であってほ しい」という思いのもと、生徒たちが自主的に考え、学びやすいよう随所に工夫が凝らされた校舎や授業風景のほか、「終わりの会」の様子を見学し、記者たちは生徒たちにインタビューをしました。
記者からは、受け入れ可能な人数や授業料など、学校運営に関する質問のほか、同校のユニークな教育システムを求めて「教育移住」してくる人が多いという説明に対して、教育移住の現状に関する質問などが挙がりました。また、生徒に対しては「学校は楽しいですか」、「どんな勉強が好きですか」など、熱心に訊いていました。取材後、記者から「生徒たちが活き活きしており、楽しそうだったのが印象的だった」などの感想が聞かれました。
<ナチュラディスティル川内村蒸溜所 (川内村)>
記者たちは、福島県産を中心とした植物と川内村の地下水を使用し、ジンを製造するナチュラディスティル川内村蒸溜所を訪問し、同蒸溜所の共同設立者である大島草太氏から、川内村に蒸溜所を設立するまでの経緯や、出身である栃木県から川内村に移住した理由、クラフトジンの製造にかける思いについて話を聞きました。また、かつて海外在住時に福島に対する心ない言葉をかけられたという大島氏は、その経験から、「もっと福島の魅力を世界の人に知ってもらいたいと、強く思った」と述べ、今後の展望についても語りました。記者たちは、ジンを製造する工程や蒸溜でこだわっている点などについても詳しい説明を受け、同蒸溜所で最初に造られたジンの香りを嗅ぎ、試飲しました。
記者からは、さまざまな酒類がある中でジンを選んだ理由や、おいしいジンに求められる条件についての質問や、ジンに使われている植物や果実が地元福島県産かどうかなどの質問があったほか、日本のジンブームについての質問がありました。
◆本プレスツアーに関連する報道の一部をご紹介します(タイトルはFPCJ仮訳)
中央日報 (韓国)
3月10日付:「후쿠시마 원전사태 14년…"바나나꽃이 활짝 피었습니다" [출처:중앙일보]」
(福島原発事態14年…「バナナ花が開きました」)
公視(台湾公共テレビ)(台湾)
3月10日付:「福島核災污土等同11座東京巨蛋 2045年前需移出、選址未定案」
(福島原発事故による除去土壌、東京ドーム11個分に相当 2045年までに搬出必要も、搬出先は未定)
3月11日付:「福島核災後林木業者另起爐灶 生產高品質木材投入大阪世博」
(福島原発事故後、林業者が再出発 高品質な木材を生産し大阪・万博に提供)