東京2020オリンピック開幕
投稿日 : 2021年07月30日
注目すべき海外メディアの日本報道
(7月23日~24日)
東京2020オリンピック開幕
新型コロナウイルス感染拡大の影響により1年延期となった東京2020オリンピック競技大会が7月23日夜、開幕した。東京に4度目の緊急事態宣言が発令され、五輪中止を求める世論が高まる中、近代五輪史上初めて無観客での開会式を迎えた。組織委員会関係者や式典演出チームの度重なる辞任や解任など、開幕間際まで混迷を極め、ようやく辿り着いた開会式であったが、英米主要メディアは、大胆な仕掛けや祝祭の要素を排した、抑えた色調の「粛然としたセレモニー」であったとして概ね好意的に報じたが、他方で一部には、無観客の寂しいスタジアムで喜びも僅かなどと皮肉まじりの論調も散見された。また、聖火台点火役となった大坂なおみ選手については、数紙が見出しに掲げつつ、五輪の謳う多様性を象徴する存在だとして高く評価した。
【英国】
The Times紙(電子版)は、24日付「開会式は日本の優雅さ、質素さ、緻密さを誇示」(Richard Lloyd Parry東京支局長)で、勝ち誇らず、控えめな式典は、繊細で美しかったとした上で、世界がまさに日本を連想し、且つ日本が自ら誇る日本の本質-優雅さ、質素さ、緻密さを巧みに表現しており、コンセプトである「united by emotion」のemotionとは、緊急事態宣言下の東京そしてパンデミックに見舞われた世界で、この開会式が実施された安堵と驚きであることは明らかだ、と論じた。加えて、無観客のスタンドは、隈研吾の建築の美しさを一層引き立たせ、パフォーマンスの合間の静寂の間に、スタジアム外で五輪中止を訴えるデモの声が聞かれた、とも伝えた。
Financial Times紙は、24日付「東京五輪、コロナで静かになったアリーナでの感動的な開会式で開幕」(Leo Lewis記者、 Robin Harding東京支局長、Kana Inagaki東京特派員)で、控えめなスタートから見事なドローンディスプレイ、ビジュアルコメディ、テニスのスター選手大坂なおみによる力強く象徴的な聖火台点灯が行われたと報じた。約1,000人の関係者の前で披露された開会式での各パフォーマンスを紹介しつつ、大会準備の中で日本が多様性に関する問題や新型コロナ感染者の増加に直面したことに触れつつ、大会が始まった今、主催者は、願わくば開催国がいち早くメダルを獲得することで、選手の活躍が注目の的になることを望んでいる、と結んだ。
The Guardian紙は、23日付「開会式、通常でない状況で、無難に挙行」(Justin McCurry東京特派員)で、開会式が悲劇的な背景を誇張すれば、五輪バブルに閉じ込められた選手たちへの奇妙なメッセージとなり、他方、感染再拡大の東京で世界最大のスポーツイベントのスタートを過剰に祝うものとなれば、無神経で冷淡と受け取られただろうが、結果として、日本は無難に挙行したと報じ、最後に、「復興五輪」となるはずがコロナ禍の大会として歴史に刻まれるとした上で、式典終盤、ジョン・レノンのイマジンを受けて、より良い世界を想像しようとの呼びかけがあったが、1年延期された五輪開幕の夜、多くの日本人はどのような一年であったかを想像(イマジン)していたかもしれない、と結んだ。
BBC電子版は、23日付「2020開幕、心打つ開会式で大坂なおみが聖火灯す」で、粛然とした色調の開会式は、世界が過酷な課題に直面している中での五輪開催を冷静に思いださせるものであったとし、マスク着用で互いに距離を取って入場する選手たちが手を振る無観客のスタンドは荒涼とした光景であり、競技場の外では抗議の声が喧しいが、場内は静か親密に、世界の復元力と連帯で共通の脅威に立ち向かうことを誓った、と報じた。
【米国】
The Washington Post紙(電子版)は、23日付「日本はさみしい開会式でなんとか作り笑いを浮かべるが、五輪の喜びには足りない」(Simon Denyer東京支局長、Michelle Ye Hee Lee記者)で、開会式は、要人と報道陣だけの孤独なスタジアムで行われ、五輪競技の高揚感と共に、日本の質の高さを極めた祝典となるはずだったが、招致に成功した8年前の喜びにはほど遠く、作り笑いのようなものとなってしまったと評した。また、日本選手団旗手の八村塁選手や、聖火リレーの最終走者となった大坂なおみ選手について触れ、異なる人種やアイデンティティーを持つ人々が一つの国をつくるという考えについて、まさに取り組み始めたばかりの今日の日本が多様性を認めたことをうかがわせた、とも伝えた。
The Wall Street Journal紙(電子版)は、23日付「大坂なおみが聖火台に火をともし、東京五輪開幕」(Alastair Gale記者)で、最終聖火ランナーの大坂なおみ選手は、今大会の日本を代表する存在であると評する一方で、五輪開幕に際し、新型コロナウイルス感染再拡大のリスク、東京の感染者数の増加、選手を含む五輪関係者の陽性者の出現、開催反対世論の存在などの懸念について説明しつつ、開会式は、前回までの活気ある祝祭が新型コロナウイルスにより変化を余儀なくされ、壮大さや観客と多くの選手をはぎ取られた、そして、無観客のスタジアムで行進した選手の歓喜はわずかであった、と報じた。
The New York Times紙は、23日付「この開会式はかなり物議を醸している」(Ben Dooley東京特派員)で、開会式とは五輪の開催国のあらゆる側面を世界に示す機会だとした上で、日本は、緊急事態宣言下の僅かな観客のスタジアムで、記憶に残る式典をやり遂げるために既にかなりの重圧を抱えていたが、式典制作担当を含む一連の著名人のスキャンダルが日本の見苦しい部分を露呈したとし、この土壇場の変更で完璧なパフォーマンスへの重圧が増すのは明らかと報じた。また、同日付「東京五輪、空席の海に向け開幕」(Motoko Rich東京支局長)では、煌めくドローンで形作った巨大な球体を会場に浮上させて、主催者は大会のメッセージを、パンデミックや数々のスキャンダルから、平和と世界の協調というテーマに転換しようとしたが、東京で新型コロナウイルス感染が再拡大し、国内ワクチン接種計画が進まない中で、メッセージは日本の人々にほとんど共鳴しなかっただろうとしつつ、大会開催に否定的な有識者等のコメントを引用しながら報じた。
AP通信社は、24日付「『最高の名誉』大坂なおみ 聖火台に点火」(Andrew Dampf 記者)で、新しい日本、人種差別撤廃、女性アスリート、テニスという競技の象徴である大坂なおみは、3歳の時に米国に移住、その容姿のせいで日本では不快な対応を受けることもあったが、トップ選手として活躍し注目される中で、同質性を求められる社会に対して異議を唱え、今回、聖火台に点火した初めてのテニス選手となったことで、すでに五輪の歴史の一部に名を刻んでいるとし、「間違いなく、私の今後の人生の中で、アスリートとして最高の達成と名誉」という彼女のSNSのコメントを引用し、報じた。
CNN電子版は、24日付「大坂なおみが東京2020開会式で聖火台に点火」(George Ramsay記者)で、直前の音楽担当辞任や演出担当解任で批判の的となった開会式は無観客の会場で選手団入場が行われ、950名のVIP(うち海外から800名)が出席し、「選手にとって「喜び」と、苦難の道のりの末の「安堵」の瞬間」(バッハ会長)であり、「united by emotion」とのモットーを表現しつつ、日本の美意識と今日の現実が融合した「粛然としたセレモニー」となった(大会関係者)、と報じた。加えて、同日付で、「後世に残る開会式、などというものではない(それ以上だ)」と題し、識者の見解を掲載。4時間に及ぶ開会式はコロナ禍を受けて如何にスポーツの力で我々は連帯できるかを見詰めるものだったとし、大坂なおみ選手の聖火台点火は先例のない瞬間であり、21世紀の日本のアスリートのあらゆる可能性を体現する大坂は、実力と名声を兼ね備えた人選であったと評した。