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東京五輪の無観客開催決定を海外メディアが一斉に速報の後、オピニオンを掲載

投稿日 : 2021年07月19日

注目すべき海外メディアの日本報道

 

(7月8日~14日)

 

東京五輪の無観客開催決定を海外メディアが一斉に速報の後、オピニオンを掲載


 

新型コロナ緊急事態宣言発令中の東京で「五輪史上初」となる無観客での開催決定について、英米主要メディアは東京発で一斉に報じた。各メディアとも、日本国内におけるデルタ株による感染再拡大やワクチン接種の遅れ、過半数が延期または中止を望む世論、無観客によるチケット払い戻しや旅行業への影響等による経済的損失などについて触れている。これらの速報に続いて、無観客開催の是非を問うコラムや感染対策としての実効性に関する寄稿、無観客開催決定に至る背景の分析や東京五輪の意義を論じた特集記事などが散見された。

 

【米国】

The New York Times紙は、8日付「新たな緊急事態宣言下の東京五輪は無観客となる」(Ben Dooley東京特派員)で、大会がスーパースプレッダー或いは、新たな変異種の培養皿になり得るとの懸念にも拘らず、国内観客を入れると先月発表したものの、感染急拡大で計画が覆ったとし、日本は緩やかな規制で感染を抑制してきたが、ワクチン接種の遅れとデルタ株による感染再拡大により、無観客開催を決定したと伝え、組織委が計画を進める中、抗議活動を拡大させていた国民は、今回の決定を歓迎していると報じた。

 

The Wall Street Journal紙も、同日付「日本、緊急事態を宣言、東京五輪は無観客に」(Alastair Gale記者)で、橋本組織委会長の発言を引用しつつ、政府や医療従事者はデルタ株による感染拡大を懸念しており、世論は大会が感染拡大に繋がることを不安視していると説明。大会の関係者には厳しい感染対策や行動規制が課されるが、初期に来日した代表団から陽性者が出るなど、コロナ対策の弱点が露わになっていると指摘した。加えて、韓国についても、デルタ株による感染拡大で規制が延長されると言及している。

 

The Washington Post紙は同日付「針路を反転、日本、東京とその周辺の五輪会場をすべて無観客に」(Simon Denyer東京支局長)で、改修された国立競技場が大会の間は空になり、五輪への巨額の投資が日本国民や経済にはほとんど利益をもたらさないことを象徴しているとした上で、無観客開催は、観客を入れて安全に開催するため早期にワクチン接種計画を進めなかった政府の失敗を浮き彫りにしていると報じ、最後に、日本はパンデミック下で進めた五輪の成功を世界に示すことを切望したが、無観客の会場が、選手だけでなく日本人にとっても祭典はどうあるべきだったのか暗い影を落としている、との見方を示した。


CNN電子版は、同日付「無観客の五輪は日本にとり大いなる落胆」(Selina Wang記者)で専門家らによって推奨されてきた無観客開催が東京等の会場で確定し、この一大イベントに150億ドル以上を費やしている日本は期待した経済効果が得られず打撃だと速報。緊急事態宣言下での大会開催やバッハIOC会長来日に対する抗議デモが数時間前まで行われていたとして高まる国民の反発と共に伝えた。


AP通信社は、9日付「日本 コロナ禍により首都圏の五輪会場を無観客とする」(Mari Yamaguchi記者、Stephen Wade 記者)で、無観客の決定は、五輪は主にテレビで観戦することを意味し、橋本組織委会長は「非常に難しい決定だった。(開会式についても)VIPやIOC関係者の出席者数を見直す必要がある」と述べており、チケット収入が約8億ドルになると予想されていたが、大きな収益が見込めない今、不足分は政府機関が補填しなければならず、納税者と開催自治体にとって深刻な打撃となる、と報じた。


翌10日付「パンデミック下での五輪開催、国内世論を分かつ」(Stephen Wade 記者)では、日本は総意に基づいて物事が進むことで知られるが、コロナ禍で延期された五輪開催の決定を巡り意見が様々に分かれており、ワクチン接種率の低さによる懸念から開催への国民の支持は割れ、反対も根強い、政治家は開催国としてのプライドから五輪開催成功に面子をかけ、IOCは放送権やスポンサーによる収益を危ぶんでいる、大会はウイルス培養器となるかもしれない不安から祝祭感もないとした上で、無観客開催の発表は思いもよらぬ展開だったと報じた。

 

 

【英国】

The Guardian紙は、8日付「コロナ禍の緊急事態宣言発令により、ほとんどの五輪会場が無観客に」(Justin McCurry東京特派員他)で、125年間、選手を鼓舞してきた世界最大のスポーツイベントが緊急事態宣言下の東京で初めて無観客となることは、コロナ禍での一年延期や巨額の予算超過など問題の続く大会への新たな打撃であり、英オリンピアンの発言を引用して「無観客スタジアムで選手は喪失感をあじわう」と報じた。日本はワクチン接種率が人口の15%と低く、選手・関係者やメディアの来日による感染拡大への懸念もあり、朝日新聞調査によると64%が無観客開催を支持しているとも伝えた。


Financial Times紙は9日付「日本 東京と周辺の五輪イベントを無観客に」(Robin Harding 東京支局長)で、無観客開催は、チケット払い戻しのために税金をつぎ込むことが必要となることを意味すると指摘しつつ、今回の緊急事態宣言は東京と沖縄のみが対象であるため、新たな措置による経済的影響は軽減され、エコノミストは「輸出と製造業が景気回復を主導するという路線は変わらないだろう」とする一方で、低所得者への現金支給を含む財政刺激策への圧力は高まるだろうと見ていると報じた。


BBC電子版は9日付「東京五輪、緊急事態宣言により、観客を大幅に禁止」で、菅首相による緊急事態再発令の会見の様子や、チケット購入者に対してお詫びした橋本組織委会長、小池都知事らの発言を紹介しつつ、日本の感染者数は抑制されているものの、4月以降新たな感染の波があり、大会の開催にはなお多くの国民が反対していると報じた。「人々が安心できないのなら、大きな懸案材料となる」と述べた大坂なおみ選手の動画インタビューを掲載すると共に、6月時点の朝日新聞等の世論調査の結果では、国民の80%が延期または中止を望んでいると伝えた。


The Times紙は、9日付「東京に緊急事態宣言発令で、五輪は観客無しで開催」(Richard Lloyd Parry東京支局長)で、世界最大のスポーツイベントである五輪は史上初となる無観客での開催が決定、日本国民の大半が反対するスポーツイベントのために来日する何万人もの外国人を歓迎するという、異常な状況であると指摘。無観客であっても、IOCは収入の3/4程度を放映権から得て20-30憶ドルになるため、8億ドルを見込むチケット収入に加えて旅行・観光業の収益も失うことになる日本よりも経済的損失が少ない、と報じた。


翌10日付「日本、巨額の経済損失に直面する中、五輪の聖火が灯される」(同支局長)では、無観客開催の決定は、大会中止への圧力を鎮めることになるだろうとしつつも、政府は、五輪がテレビイベントになっても、ひとたび開幕すれば関心が高まると期待しているが、何が起ころうとチケット販売や観光客、旅行、娯楽などで期待された莫大な収入を失うことになるとし、大会の公式経費は154億ドルだが、実際は350億ドル近くなり、多くが税金で賄われると指摘した。

 


【コラム、寄稿、特集】

The Washington Post紙は、8日付コラム「五輪の無観客は正しい判定だが、それは、新型コロナウイルスの犠牲が今も進行中であることを示す」(Eugene Robinsonコラムニスト(在米国))で、「より早く、より高く、より強く」の五輪モットーに、今回「より静かに」を加えねばならないとし、記録達成や有名無名を超えた様々な選手の躍動、全選手にスポットライトがあたる開会式入場行進など、すべての瞬間が静粛に行われることを想像してほしいと問いかけた上で、日本のワクチン接種の遅さがこの突然の静寂の原因であると断じた。無観客競技は奇妙であり、NBA等では無観客でも満足のいく競技となることは証されたが、TV視聴率は低下したことから、やはり何かが明らかに欠けているとしつつ、五輪を観れば数千もの空席がコロナ危機は終息していないことを思い出させるだろう、と結んだ。


CNN電子版は、13日付で「無観客の五輪は、賢明なパンデミック対策」と題する公衆衛生研究者による寄稿記事を掲載。五輪がもたらす連帯や一体感は、コロナ禍で公衆衛生上の脅威となっており、ワクチン接種の遅れやデルタ株の拡大により東京五輪の安全な開催が懸念される中、無観客は必要な措置であるとの見解を示し、その根拠として、①拡大するデルタ株が五輪開幕までに主流となると予測、②「検査、追跡、隔離」システムが機能する必要があるが、日本の検査能力は限定的、大流行発生で制御不能となる、③会場で適切な感染対策が行われても、周辺地域での完全なウイルス制御は困難、など三点を挙げて解説。また、6万観客動員で感染再拡大となった英国のサッカーイベントについて触れ、ワクチン接種が遅れている日本では大流行が惨事となるので(有観客は)無謀だと強調した。


Financial Times紙は、14日付特集記事「東京2020:無観客でオリンピックは成功するか」(Robin Harding東京支局長他)で、無観客のスタジアム、選手はバブルに閉じ込められ、緊急事態宣言下の機能不全の都市で開催される五輪は「一体何のためなのか」と疑問を呈した。東京五輪は国民から不人気で、天皇も強い懸念を示唆し、もはや経済再生や震災復興などのテーマも無意味だとした上で、菅首相は五輪を世界が新型コロナに打ち勝った証としたいのだろうが、現実の大会運営は綺麗ごとではなくなり、五輪は勝利よりもむしろ新型コロナにより失ったものを象徴するだろうと論じつつ、菅首相にとって五輪は政治的な賭けで、メダルラッシュに乗って秋の総選挙に勝利するという思惑があり、無観客決断で得点を下げたが、同時に感染拡大のリスクも減らしたと分析している。他方、コロナ禍で動員数や経済規模が縮小された大会を日本が開催できれば後世のモデルケースとなるとして、「五輪の真の意味を問い直すことが東京大会の意義だ」との山下JOC会長の発言を引用した。最後に、東京五輪は経済再生やウイルスとの闘いではなく、最良の機会であるスポーツイベントにほかならず、すべてのものが除かれて最後に残るのは選手と彼らの勝敗であると結んでいる。

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