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菅義偉首相就任、新内閣発足

投稿日 : 2020年09月28日

注目すべき海外メディアの日本報道

(9月13日~21日)



菅義偉首相就任、新内閣発足






 

9月16日に招集された臨時国会の衆参両院において総理大臣指名選挙が行われ、第99代内閣総理大臣として菅義偉氏が指名された。菅首相は直ちに新内閣を組閣、菅政権が発足した。各国主要メディアは、菅首相の政策課題や人物像、また内閣閣僚の顔ぶれに触れつつ、菅新政権が内政、外交、新型コロナ対策などの山積する課題にどのように取り組んでいくかについて一斉に報じている。

 

 

 

【米国】

The Wall Street Journal紙は、15日付社説「日本の新首相」で、安倍内閣の官房長官として経済改革の立案と実行において主導的役割を果たした菅氏は、非効率的な地方銀行の再編や非生産的な中小企業間の統合合併に対する規制を取り除くなど独自の考えを持っており、このような国内経済を改革したいのなら狙いは正しいとし、「財政健全化」については安倍前首相より寛容で、新たな消費増税に前向きであることを示唆しており、最良の財政計画である経済成長に焦点を絞る方が良いだろうと論じた。また16日付「安倍時代が終わり、菅義偉首相就任」(Alastair Gale東京特派員)は、菅首相は、パンデミックからの再生模索、緊張高まる米中関係の舵取り、来年の東京オリンピック準備など、まれにみる政治不安な時期を先導することになるが、中でも新型コロナ対策が、前政権を引き継ぐ首相への期待の中心となるだろうとしつつ、外交経験の少ない新首相は米中間の緊張が高まる中、日本最大の貿易相手国である中国との関係維持に務める必要があるとも伝えた。

 

16日付CNN電子版「安倍晋三氏の後任として、菅義偉新首相を正式に指名」(Yoko Wakatsuki記者他)は、菅内閣は安倍内閣からの再入閣者を多数含んでおり、両政権の安定と継続を印象づけようとしているとし、菅首相は事を完遂し得る政治力の持ち主として知られ、経済再生策「アベノミクス」の実施では重要な役割を担ったが、今後は新型コロナ感染拡大後の景気浮揚策、2021年開催予定の東京オリンピックに向けたウイルス制御、巨額の公的債務や高齢化、男女平等のための改革など、長期に渡り経済的及び社会的課題に直面することになると報じた。

 

The New York Times紙は、16日付「日本の新内閣組閣:お馴染みの男性、減少する女性」(Motoko Rich東京支局長)を掲載。女性閣僚は安倍前政権からの残留だが3名が2名に減少しており、成長戦略の一つ「女性の活躍」は扉を閉じたように見え、公約が果たされていないと指摘。何より、菅氏の現状維持の内閣は、党要職者の指名と同様に、保守的な自民党内の派閥によって画策された菅首相の誕生を後押しした人々への報酬であることを示唆しており、このような贈答の交換は、次の選挙で弱い野党に負ける怖れなど微塵もない政府与党にとっては容易いことだと報じている。


同日付The Washington Post紙「日本の新内閣はまるで昔の(男性支配)内閣のようだ」(Simon Denyer東京支局長)も同様に、安倍前首相は「女性が輝く社会」を掲げて就任し、女性活躍推進法を制定して育児休業やサービスを拡大し女性の就業率を米国よりも高い63%から71%に押し上げたが、その多くは低賃金、非正規雇用またはパートタイム労働など地位が低く、コロナ禍の不当解雇に苦しんでいると伝えつつ、菅内閣の閣僚の平均年齢の高さから、SNSでは「おじいちゃん内閣」と呼ばれているとも報じた。

 

 

 

【英国】

BBC(電子版)は、16日付で「菅義偉氏:思いもよらず新首相に昇格」(Rupert Wingfield-Hayes東京特派員)と題する記事を掲載。新首相に抜擢された菅氏について、安倍氏のフィクサーとしての仕事ぶりや記者の質問を拒否する官房長官としての頑固な人柄に言及すると共に、「今回の首相選出は自民党内派閥頭首らの画策によるもので、国民の声はなかった」とするエコノミストの発言を引用しつつ、菅氏の持つ政治手腕が期待通り選挙の勝利につながるのだろうかと疑問を呈した。また、今後短命政権の時代に戻る可能性もあるが、それは日本の利にならないとの見方もあり、菅首相は早いうちに多くを証明しなければならないと結んだ。


同日付The Guardian紙は、「菅義偉首相就任。安倍氏『誇り』の遺産守る」(Justin McCurry東京特派員)で、安倍政権の継承を掲げる菅内閣発足について、菅首相は新型コロナウイルス感染防止対策と経済活動の両立や安倍政権が重点をおいてきた日米同盟を基軸とする外交政策などに引き続き取り組むことになると分析し、主要閣僚メンバーに大きな動きはないと報じた。また、菅氏が携帯電話市場の改革など日本のデジタル化に意欲を示していると伝えた。


The Financial Times紙も同日付「菅義偉氏、首相に選出される」(Robin Harding東京支局長)と題し、菅氏が第99代首相に選出され、新内閣が発足したと報じた。菅首相は改革派として注目されるも、新内閣は安倍前内閣の主要閣僚の多くを再任するかたちとなり、安定と継続性を重視して派閥バランスに配慮した布陣となったと解説。また、女性閣僚は2名と不均等で、安倍政権時の乏しい女性登用の記録が続くと指摘した。この他、安倍前首相の弟が防衛相に任命され、元家庭教師の平沢勝栄氏が75歳で初入閣となるなど、自らの同胞への配慮がにじむとの見方もある閣僚メンバーの詳細を報じ、最後には、安倍前首相による挨拶を引用している。また21日付で「日本の新首相、メッセージとビジョンが必要」との社説を掲載し、安倍前首相が辞任に際して過去8年を振り返った動画を公開したことに触れながら、安倍政権は楽観主義と日本の再生というシンプルなメッセージを国民に発信してきたと分析し、同政権の政策を引き継ぐことを約束している菅氏にもメッセージとビジョンが必要だと強調した。地方のいちご農家に生まれ、段ボール工場勤務から首相まで上り詰めるという菅氏のストーリーが74%の支持率の獲得に繋がったが、国民の支持を維持するには、携帯電話料金の引き下げやデジタル庁の創設のみならず、デフレ脱却や所得の回復に向けて自身の改革を進め、さらには安倍氏が掲げた「開かれたインド太平洋」外交に安倍氏同等の活力と行動力をもって関与を深めるべきだと論じ、歴史問題については、菅氏の控えめな姿勢が中国、韓国と新たな関係を構築する助けとなるだろうと示唆した。


The Times紙も16日付「新首相、友人に高い地位を与える」(Richard Lloyd Parry東京支局長)で、新内閣は大部分が菅首相の後援者や安倍前首相の親族などによって構成されていると述べ、個々の関係性について詳述しつつ、菅首相は自身が8年近くに渡って支えた安倍前首相の政策を踏襲する方針だと報じた。さらに、菅首相はこのように友人や後援者らに対して寛容だが、首相本人は農家の出身で政治一家の出ではなく、自身の支持率の高まりを生かして来月、解散総選挙を行うとの見方もあると伝えた。


The Economist紙は、19日付「菅義偉新首相、継承を約束」で、安倍前首相と菅首相はその生い立ちの違いから優先課題が異なるとし、政治家の家系に生まれた安倍前首相は世界における日本のプレゼンスを高め、安全保障とそれを支える強い経済を目指していたのに対し、菅首相は経済再生自体が目標であり、官房長官として農業と電気通信における競争を推進してきたことから「菅氏は国内政策に重きをおいている」との見方もあると分析。菅政権の成功のカギは、①外交への関心を示すこと、②無派閥であるが故に党内基盤が脆弱になる可能性があること、③国民からの人気を得ること、これら3つの課題に巧く対処できるかにかかっている、と論じた。




【韓国】

東亜日報は15日付で「菅新首相は安倍氏の陰から脱して韓日関係の新しい地平を開くべきだ」を掲載。菅氏は安倍政権の継承を公言しており、日本の対韓政策は基本的には変わらないとの見方を示しつつも、実利を追求する実務型、戦略家型に近いとし、「中国、韓国などとは難しい問題もあるが、戦略的にしっかりと付き合う」との発言を引用しながら、両国関係の改善の余地があるとの期待を示した。同時に、韓国政府は安倍政権との失敗を教訓に、前向きに「戦後最悪の韓日関係」から脱する道を模索するよう努力を促した。また、17日付「日本新政権スタート...韓日の「知日派-知韓派」に注目」(パク・ヒョンジュン東京特派員他)は、韓日関係の進展には両国における知日派、知韓派の役割が以前よりも重要になってきたとし、菅氏と親交が深い知日派の要人として、与党「ともに民主党」のイ・ナクヨン代表、前政権からイ・ビョンギ元大統領秘書室長の名前を挙げている。日本の知韓派では、反韓・嫌韓ムードを和らげる役割を果たした二階俊博自民党幹事長、元徴用工問題を巡る法案通過に水面下で努力した河村建夫日韓議員連盟幹事長について報じた。


中央日報は15日付で社説「菅氏、日本の新首相に事実上確定…韓日葛藤を解決しなければ」を掲載。菅内閣が解決すべき課題の一つは、史上最悪の状態である韓日関係の改善であると指摘した上で、両国間にある過去史を巡る葛藤はありつつも、新型コロナ防疫対策と経済の両立、北朝鮮の核の脅威、米中摩擦に揺れる東アジア地域の秩序、韓日主要企業の競争関係など、これら互いに協力して解決すべき課題における協力が葛藤に足を引っ張られてはいけないとし、両国指導者は感情争いをやめ、冷静に現在を直視して未来を見通す感覚が必要だと説いた。また、13日付コラム「【グローバルアイ】侮れない首相菅義偉」(ユン・ソルヨン東京特派員)では、外交が弱いとされる菅新首相について、「外交はケミストリー(相性)だけで左右されるような簡単なものではない」との同氏の発言を引用した上で、2016年米大統領選挙時のトランプ系関係者との事前コネクション作りや、2015年韓日慰安婦合意の際にも米国からの歓迎声明を引き出した他、主要国大使らとの定期的なミーティングで外交使節とも幅広い接点を維持しているなどのエピソードを紹介している。


朝鮮日報は17日付「錨を上げた菅内閣、閣僚20人のうち安倍内閣から15人再起用」(イ・ハウォン東京特派員)で、新たに発足した菅内閣では、交代した閣僚の割合は半数に満たず、派閥による閣僚分け合いの繰り返しだと指摘し、茂木外相を引き続き起用することで、「安倍外交」の継承を明確にし、留任させた北村滋・国家安全保障局長を今月米国へ派遣し、米日同盟を重視する姿勢を伝える予定だと報じた。



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